嫌気がする程遠くて近い

三國無双、司馬昭夢、晋武将設定。報われない恋。



本当に嫌気がする。

人の心にズカズカ土足で入って来て、

終いには何も無かったかの様に去って行く貴方が…

そんな貴方に心奪われた自分が……



*嫌気がする程遠くて近い*



城の長い廊下を歩いていると遠くの方から見知った影が近づいて来るのが見えた。
私は反射的に道を逸れようかと考えたが、時既に遅く、その人物に私の存在は気付かれ、手を振りながら此方に向かってくるのが見えた。

嗚呼、めんどくせ…

いつも彼が言う口癖をため息と共に小さく吐き出せば、向かってくる人物はもう目前だった。
諦めて大柄な彼を見上げ挨拶をしながら頭を深々と下げる。


「おはよう御座います司馬昭殿」

「おいおい、そう堅っ苦しいのは止めてくれよ、子上で良いって!」


爽やかにニカッと笑った大柄な青年を私は眩しく思う。この人は本当に…


「いいえ、そうは行きません。ここは貴方様の一族の国でありその中枢の城なのです。しかも貴方様はここの主の弟君、そんな所で貴方様を呼び捨て、しかも字呼びでは出来ません故、ご容赦ください。」

「相変わらず堅っ苦しいなぁ〜名前は!」


貴方が軽過ぎなのですと言いかけた言葉を飲み込みぺこりと頭を下げた。司馬昭殿はその頭に、その大きな掌を乗せグシャグシャと掻き回す。
「ま、そこがお前らしいけどな!」と笑った彼は、何処までも無邪気だと思った。

司馬昭殿とは、彼の父君であらせられる司馬懿様と知り合いだったために、ここまで仲良くなった。
司馬懿様が私の武をかって下さり、彼直属の部下(護衛とも言う)として働いていた。
そして、私にもお前と同じくらいの息子が居るのだ…と紹介して頂いたのが、司馬昭殿と兄君の司馬師殿だった。

司馬懿様が亡くなられてからは、その後を受け継いだ司馬師殿の部下となった。
今は司馬師殿の右腕として働き、共に司馬昭殿の補佐の様なたまに手伝う人の様な扱いを受けている。

元から仲は良かったため、不満すら無かったモノの…
いつからだろうな、こんな感情を抱いたのは…


最初は司馬懿様と面影が重なり、次に違いを見付けて…今思うとなんとも不毛な想いを抱いたのかと思う。
司馬懿様には少なからず憧れ…の様な尊敬の様なモノは持っていたため、それの延長線上だろうと思っていたが、日に日に増していく重さに頭を抱えた。


司馬昭殿はあんなに可愛い許婚を持っているんだ。

私とは立場が違う。

同じ土俵に立てると思うな。


…と散々自身を卑下して、諦めようと思ったが、無意味だった。そんな思いとは裏腹に募る感情があるのを私は知っていた。


「……では私はこれから公務があるので失礼します。」

「名前…」


無感情に、頭に乗せられた掌を払いのけ、適当に髪を直しながら横を通り過ぎようとすると名前を呼ばれながら腕を掴まれた。
その響きが何処か切なそうに聞こえたのは私の思い上がりだろうか…?

何事かと見上げれば、先程頭に乗っていた掌が優しく頬に触れ、髪を掠めていった。
と、同時に腕も離され2人の間に距離が空く

嗚呼、止めてください…勘違いしそうになる…っ


「あの、何か…??」


そう問かければ「ん?ああ…」と彼にしては歯切れの悪い返事が返ってきて、もう一度見上げると、


「……ゴミが付いてたんだよ!ほら、行かなくていいのか…?」


と手をヒラヒラと振られた。
私はその姿に


「ああ、すみません。ありがとう御座います。では…」


また一礼して歩き出した。

こんな事で一々ドキドキしてたらダメだろ…
まだまだ精進が足りないな…
後で文鴦殿でも誘って鍛錬でもするか…
身体でも動かせば治るだろう…

と、思いながら目的の場所へと向かったのだった。


後に残った呟きなど知らぬまま…


「…名前…ってああぁぁぁ…何やってるんだよっこんな事で動揺するなよ!」


ため息を吐きながら頭を抱えしゃがみ込んだ。
離したくないと、このまま抱き締めてしまいたいと思った感情を押さえ込み、苦し紛れの嘘を言った。

そんな自分に嫌気がする…

彼奴が俺の事を見てない事くらい分かってるのに…
明白なのに…どうして俺はこうも諦めが悪いんだ…。

ハアァァァ…とまたひとつ大きなため息を吐き出し俺は「名前…」とまた名を呼んだ。

それだけで満たされ、安心するものだから俺の中で名前の存在がどれだけ大きいのか思い知らされた。


顔に熱が集まり、見る奴から見れば面白い光景だろう。


と自傷気味に笑いながら…
本当、ここが人通りの少ない廊下で助かったと思い、俺は暫くその場を動く事は出来なかった。


-嫌気がする程遠くて近いend-
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主人公ちゃんの片想いに気付かない司馬昭がベタベタと容赦無く無遠慮に気安く、馴れ馴れしく戯れてくるところが書きたかったんです。
公式カプ推しさんには申し訳無いです。




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