死が二人を分かつ共


五次槍夢、マスター設定。
※死ネタ。





「ラン、サー…」

「…なんだい、マスター」


弱々しく掠れた声音に呼ばれるままに現界する。
俺だってこの状況を理解している。
だからこそ皮肉の一つも出て来やしねぇ…

機械的な音が響き、清潔感のある真っ白い小部屋の中央のベットの上で横たわる、俺のマスター。
呼吸を助けてもらう装置を付けられて、やっと“生きている”状態を見ているこっちの方が痛々しくなる。
そんな状況で此奴は、いつもと変わら無い真っ直ぐな瞳で俺を見詰めながら、いつもよりも柔らかい微笑みで俺に語りかけてくる。


「ねぇ、お願い。私をどうか連れ出して、睡るなら責めて貴方の腕の中で、2人だけが良いーーー」


息も絶え絶えにそう言ったコイツの“願い”
今ここから動けば己がどうなるのか、それを理解した上での覚悟の込められた言葉だった。
いや、もしかしたら自分でも気付いているのかもしれない。己がそう余り長く無い、と…、だからこそ最期はこんな小さな箱の中では無く、外に出たいと、2人だけが良いと言い出したのかもしれない。


「ーーー嗚呼、了解した。」


優しく優しく、此奴の身体を抱き寄せる。
抱き締める際に此奴の身体を縛っていた管をひとつずつ引き抜いき、切り落として行く。

最後に呼吸補助器機を口から外し、漸く彼女を縛る柵が何も無くなった身体を抱き上げる。
身体で、己の腕で感じた。あの頃よりも随分と軽く、細く、弱々しくなった身体の感触に目の奥が熱くなった。


「ありがと…、ランサー…ッ」


嗚呼、そんな顔で笑わないでくれ…
俺はお前に何もしてやれて無いんだから…


「さて、何処へ行く?お前の行きてぇとこ行こうぜ!」

「そう、ね。じゃあーーー」


マスターの身体に刺さっていた管や呼吸補助機器を取り外した事により、部屋中に警報がなっている。
バタバタと此方に走ってくる複数の足音と気配を感じる。

嗚呼、だが、そんな事どうでも良い。

お前さんと2人で何処へだって行こう。

お前の行きたい所へ、
何処までも行って、
其処で2人で最期を迎えよう。

お前を独りにはさせねぇよ。
逝く時は俺も一緒に逝ってやる。

二度とこの手を離したりするもんか…




「ーーー苗字さん!!どうしまし…?」

彼女の病室へと看護師と医者が駆け付けた時には、

「ーーー居な、い…?」

窓硝子は開け放たれ、ただただカーテンがひとり寂しく裾をはためかせながら舞い踊っていただけだった。
動けない程の重症患者が忽然と姿を消した。
初めはこそは飛び降りかとも噂されたが、当然の事ながら窓の下に彼女の姿は無く。まるで神隠しにでもあったかの様に、姿を消していたのだった。



死が二人を分かつ共


何処へでも行こう、二人でーーー



******
聖杯戦争で敗れたマスターの最期。
彼女が息を引き取る時、彼も共に消えるのです。


Back
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -