願望機の在り方
※作者の偏見注意
「じゃっじゃじゃーん!見たまえ名前ちゃん!!この天才レオナルド・ダ・ヴィンチちゃんの発明で聖杯を使いサーヴァントを強化する事が可能になったよーん!」
「聖杯を、使って…」
「そうとも!聖杯を使い限界を突破して、今以上にサーヴァント達を強くする事が出来るから、これからバンバン活用してくれたまえ!!」
「……ええ、そうするね」
彼女の見せた一瞬の空白が気に掛かったが、私(と、カルデアの職員による)の発明が余りにも素晴らしく画期的だった為に驚いて声も出なかったのだとその時は思ったのだが…、それから数ヶ月経っても、彼女は聖杯を使いサーヴァントを強化する事は無かった。
「あ、おーい!名前ちゃん!」
気になった私は本人に直接聞いてみる事にした。
なに、ほんのちょっとした興味さ…
「ん?なにダヴィンチちゃん?」
「数ヶ月前に話した聖杯機能のこと覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
「じゃあ、なんで使わないのかな??グダ男くんはもう使ってるみたいだけど、折角私(と、カルデア職員)が丹精込めて作ったのに名前ちゃんは一向に使ってくれないよね?なんでか、聞いても?」
「あー、うん、それはね…」
「うん」
「な、何となく…?」
「何となく?」
「うーーん…」
「??」
「ーーーハァ…あのね、正直に言うとさ、聖杯って今まで皆で集めて来たモノでしょ?だから、その…」
「使いづらい?」
「うん、私達が集めた聖杯には色んな人の想いが篭ってるから、色んな人達の想いを背負ってるモノだから、だから、私なんかが勝手に、私の我儘で使って良いのかな…?って、思ったらなんか使えなくて…」
彼女の眉間のシワが深くなっていく
「本当は分かってるよ、聖杯なんて大層な事言っても、所詮は道具。使わなければ意味を成さない代物だって事も、宝の持ち腐れだって事も…」
考える様な悲しそうな表情で話す君
「でも、それでも使えないんだ。」
声が、震えているのを感じた
「私は臆病だから、私の勝手な一存で彼等の想い-願望-を砕く事は出来ないんだ。例え、其れに込められた願いが偽りだとしても、込められてた事に意味があるんだって思ってしまうから…」
「そっか、名前ちゃんは優しいんだね」
「……っはは、どうかな?ただ愚かなだけかもしれないよ?臆病なだけかも?」
「んーでもそれで良いんじゃ無いかな?人の考えなんて人それぞれ、人類の数だけ違う考え方が存在するんだ。其れに対して個の考えを押し付けるのは、それこそ間違っているし、愚かなんだと思うよ。」
「ーーーっ、」
「それに君は充分優しいよ。ただの願望機-聖杯-に対して、こんなにも心を砕いてくれてるんだから、此処に込められた願い-想い-も報われるんじゃないかな?」
私はこの時、彼女の讃える微笑みに救われた様な気がした。
ーーーー許された、様な気がした。
「ダヴィンチちゃん、私…っ私、はっーーー」
彼女の目元に涙が浮かぶのをみて、
「おーよしよし、何も泣く事ないだろ?ほら、この優美で豊満な私の胸を貸してあげるから、そこで思いっきり心行くまで泣きたまえ!」
なんて、戯けた様子で有無を言わさずに彼女を強く抱き締めた。
「わぶ…っ!」
「ーーーいいじゃないか、自己満足でも自分勝手でも、それだって君のひとつの願いなんだから、頑張ってる君だからこそ願いや我儘のひとつやふたつ許されると、私は思うがね…?」
「…っーーーーーっ」
泣くつもりなんて無かった。
誰にも言うつもりだって無かった。
でも、それでも貴女は私から弱音を引き出してしまうんだから、本当に天才なんだなって…思った。
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