僕らは今日も、前を見続ける。
GO世界、ロマ二夢、恋人設定。
聖杯夢主設定。
※この話はGO最終章をクリアする前に書いた夢ですので、深く読むと色々と矛盾があるかもしれません。
「ーーーあ……」
手元のコーヒーが無くなった事に気が付いたのは、口に含もうとして、マグカップの淵に口を付けた時だった。
どうやら、手元のコーヒーが無くなった事にさえ気付かずに、ずーっと集中してモニターを見続けていたらしい
これではダ・ヴィンチちゃんに「こんを詰め過ぎだ!」と怒られかねない。
やれやれ、誰かに頼んで入れてもらおうかな?と思って周りを見回して見ても、他の職員達は職員達で忙しそうにパタパタと動き回っている。
そんな所に『コーヒー入れてきて』などと頼める訳無く、僕は軽い休憩を兼ねて、給湯室へと向かった。
*僕らは今日も、前を見続ける。*
「あ、ロマ二!」
「名前ちゃん」
「ロマ二と廊下で会うなんて珍しいね」
「珍しいなんて…僕だって廊下くらい歩くさ」
「あはは、そりゃそうだね」
コーヒーを入れ直し、廊下へと出ると丁度前から歩いてくる名前ちゃんと出会った。
「ーーーあ」
「?……っ」
彼女は僕の顔を見た途端、何かに気付いたように呟くと、不意に手を伸ばしてきた。
「ロマ二、ちゃんと寝てないでしょ?目の下クマできてる」
「え…あ、そう言えば最近ずっとモニターと睨めっこだったから……」
「余り寝てないかなー?あはは…」なんて笑ってると名前ちゃんは「はあ…」とひとつ溜め息を零して、ムニュッと僕の頬をつねった。
「い、いたいたい!名前ちゃん、い、痛い、痛いですよ!?」
「つねってるんだから当たり前でしょ!身体壊したらどうするの!!適度な休息と睡眠は大事だって自分で言ってたじゃない!!」
「ご、ごめんごめん」
「もう、余り心配掛けないでよね」
「うん、ごめんね」
彼女の指先が離れる瞬間、つねった僕の頬をひと撫でする様に、心配する様に撫でていった。
「それでどうしたんだい?こんな所に来るなんて、誰か探していたのかな?」
話題を変える為に彼女について聞いて見る事にした。
「え?あ、そうそう!私これからグダ男とマシュに魔術と体術の稽古をつけてあげる為にレイシフトしようと思ってて、その許可をロマ二かダ・ヴィンチちゃんに貰おうと思って…」
「ああ、そう言う事か、良いよ。名前ちゃん、並びにグダ男くん、マシュ、サーヴァント達のレイシフトを許可するよ」
「ありがと、ロマ二!」
「ははっ良いよこれくらい。でも、危険な場所に行くのは控えてくれ、幾ら名前ちゃんが同行するとはいえ、みすみす危険を見逃す訳にはいかないからね」
「うん、大丈夫!了解したよ!」
「でも、どうして稽古を?それこそ珍しいとしか言えないけど…」
「ん?ああ、グダ男とマシュがどーしてもって言って聞かなくて…本当はゆっくり身体を休めて欲しいんだけど……あの2人がどうしてもって言うなら、姉さんの私が応えない訳にはいかないからね!」
「そっか、ごめんねあの2人が無茶言って…」
「ううん、その辺は大丈夫!私こう見えても体力とタフネスには自信があるから!」
そうガッツポーズをしながら笑った君が、僕には、余りに眩し過ぎて…
つい、つい出てしまったんだ。
「ーーー名前ちゃんは凄いな…」
それは、ポロリと何とも呆気なく溢れ出てしまった、僕の本音だった。
「え、何が?」
「君だって疲れてる筈なのに、君だって、前線に出続けて疲弊してる筈なのに、戦いが怖い筈なのに、恐ろしい筈なのに、いつも真っ直ぐ前を見詰めて、敵を見据えて、前線に立ち続けて、皆を守ってさ……
僕なんかモニター越しに、後ろからしか応援出来ないから…」
君と共に立ち、共に戦い、君を支えられる彼らを、羨ましい…と、思ってしまうなんて、何、考えてるんだ。僕は…
「……凄いなって、思って…やっぱり僕なんかじゃ、君に相応しく無いのかなって、思っちゃって…」
「ーーー何言ってるの、ロマ二」
ごめんね、別に君を怒らせたい訳じゃ無いんだ。僕はただ、ただ、僕は、自分が不甲斐ないとーーー
「私は、ロマ二だから好きになったんだよ?」
「ーーーーっ」
嗚呼…
「ロマ二が、ロマ二だから、私は…」
嗚呼、君は……
「好きに、なれたんだよ?」
君は、どうして、
「っ、どうして…っ」
ーーーどうして君は、いつも、いつも、僕の欲しい言葉をいとも容易く、与えてくれるのだろうか…
「どうしてって、いや、自分でもアレだけど、ロマ二がロマ二だったから好きになったって言うか、うーん…一目惚れ?みたいな…??」
……僕だってそうさ、君に一目惚れだった。
「それに、さっきロマ二は言ったよね?“後ろからしか応援出来ない”って、でもね、私にはそれだけで充分なんだよ。無理に前に出てこようとしなくて良い、後ろからでもロマ二の声が、マシュの声が、グダ男の声が、聞こえるなら、私はどんな困難にだって立ち向かえる。強くなれる。」
ーーー君は、本当に…
「守りたいって強く思えるの。」
嗚呼、嗚呼、本当に、君って子はーーー
「……どうして、そんなに格好良いのかなー」
「か、格好良いっ!?私が!!?」
「あ、ああ、ごめん!普通女の子に使う様な言葉じゃないよね!…でも、今の君はとっても真っ直ぐで、眩しくて、格好よかったから…」
初めから君はそうだった。
どんな絶望をも物ともせず、どんな逆風にも立ち向かって、無条件で人を助け、皆を導き、簡単に誰にでも手を差し伸べて仕舞える子だった。
そんな君だからこそ、僕は強く惹かれ、助けたいと強く願った。
共に立ちたいと、支えたいと、思った。
「ーーーでも、ありがと名前ちゃん、君にそう言ってもらえるなら、僕も頑張るよ!」
「ち、力になれたかな?」
「うん、僕も君にそう言ってもらえる価値のある人間にならなきゃなって!」
「もーまたロマ二はそんな事言って!!」
「あははっごめん、ごめん!」
平和になった世界で、
共に皆が笑い合える日の為に、
「それじゃあ、私、グダ男とマシュに稽古つけてあげるから、何処か適当な場所にレイシフトしてくるね!」
「あ、うん了解。よし、僕もそろそろ仕事に戻りますかー!」
んーっとひとつ伸びをして、君の歩いて行った方向を見つめた。
もう既に背中は見えないけれど、遠ざかる軽快な足音が、閉まる扉の音が、確かに其処に君の存在が在った事を証明して居る。
「本当に、君は凄いよ…名前ちゃん」
底の方へ沈んだ僕の心をヒョイと簡単に掬い上げてしまったんだ。
軽々と、何でもない事のように、当たり前の事の様に救い上げて、さっさと何処かへ行ってしまう様はまさに……
「……正義の味方みたいだ…」
格好良いなーとまた呟いて、鼻歌交じりで、サーバールームへと戻るとダ・ヴィンチちゃんに「おや〜ロマ二、何か良い事でもあったのかな〜?」と多分今の僕より数段ニヤニヤした顔で愉快そうに言われた。
いかんいかん、気を引き締めなければ!
ペチペチと自分の頬を叩いて、モニターに目をやると、そこには名前ちゃんとマシュ、グダ男くんが映っていた。
「お、頑張ってる頑張ってる」
先ほど自身で持ち帰ったコーヒーを一口含んでモニターを見詰める。
「(全員のメディカル、バイタル共に良好、異常も見られないし、大丈夫そうかな?)」
そう思いながら見守っていると、異常を知らせるアラームが鳴る。
「(ああ、不味い!周囲に敵影発見、直ぐに知らせないと!)」
慌てて三人に通信を接続して、敵影を知らせる。
今日も今日とて、忙しくなりそうだ…
ーーー僕らは今日も、前を見続ける。
僕は、弱虫で、意気地なしで、怖がりで、ヘタレで、でも、そんな僕でも良いと言ってくれる君が、僕はーー
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皆は『ロマン』と呼ぶのに、彼女である夢主は特別『ロマ二』呼びって設定にするのが堪らなく萌えます。
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