追憶の果てにて望む


Fate GO.
イスカンダル様との再会を待ち望む話。
※捏造注意※

******


遠くで聞こえる細波の音
足首程まで押し寄せて来る冷たい水の感覚
そして鼻を突く独特の海の匂い
全ての感覚が研ぎ澄まされ、意識が浮上する

『ーーー此処は…?』

辺りを見回すと、
薄霧の中に懐かしい彼の人の背後姿があった。

彼がこちらを向く気配は無い、
海の彼方を見詰めながらただ笑っている。
顔は見えずとも気配で分かる、彼はただ笑っていたのだった。

己が目指した、夢の先を見詰めながらーーー


*追憶の果てにて望む*


目を覚ますと、そこには懐かしい彼の姿は無く、足元も水では無く硬い甲板の上だった。
…気分が悪くなって甲板に出てたら、つい波音を子守唄にうたた寝をしてしまった事を思い出す。

「・・・・・」

トタトタと2つの軽い足音が聞こえたかと思うと、優しい声が上から掛かった。

「あ、名前さん目が覚めたんですね。ご気分はもう宜しいのですか?」

「マシュ、グダ男…うん、平気もう大丈夫だよ」

「それは良かったです。先輩も心配して居ましたから」

【また悪くなったら言って下さい】

「ごめんね、私の方が2人よりも年上なのに心配掛けて…」

「そんなの関係有りません。船酔いは誰しもする時はするものです。はい、名前さん何時までもそこで寝てないで立って下さい」

【はい、どうぞ】

「あはは、ありがとマシュ、グダ男」

マシュとグダ男に手を差し伸べられて立ち上がる。

立ち上がると一気に潮風が私の頬を撫でながら吹き付けた。
吹き付けた風の尾を追う様に自然とそちらを向けば、其処には辺り一面に広がる海の姿があった。
船の上なのだから当たり前なのだが、今の私はこの、海の水平線の彼方まで見渡せそうな、何処までも広がる景色に、圧倒されてしまった。

コレが、彼の見ていた光景なのか…と

「名前さん?」

【どうかしました??】

立ち上がっても一向に動かず海を見続ける私に、マシュとグダ男が不思議そうに小首を傾げる。
私はと言えば、海と空の境界線の彼方を見詰め太陽の光を反射しキラキラ輝く水上に目を細めながら、つい口を開いてしまっていた。
我知らず、瞳の奥で夢で見た、彼の人の背中姿を思い浮かべながら……

「ーーーとても懐かしい夢を、見たんだ。
懐かしい人の、2度と会えないだろうって覚悟してた人の夢」

「名前さん…」

「その人はね、笑ってたんだ。いつでも何処でも楽しそうに、まるで生きている事が、此処に居られる事が、存在する事が、楽しくて楽しくて仕方が無いって、少年の様な無邪気で純粋な希望に満ち溢れた瞳で……ずっと、最初に出逢った時から、己が消える最期の瞬間までずっとずっと笑ってた。夢の中ですらも笑ってたけどさ…」

「・・・・」

「あの人はずっと笑って前を見てたけど、心の奥底で、瞳の奥では、ずっとこんな景色を映し続けてたのかな…?」

「・・・・」

「あ、って…ごめん!こんな話聞かせちゃって、全然面白く無いよね!!……本当、ごめんね、今のは忘れて…?」

「名前さん…」

「あ!ほら、あそこでドレイク達が呼んでる!!…何かあったのかな?」

【名前さん…】

「そろそろ行こうか?」

「ーーーっあ、あの…っ!」

二人の手を引っ張り歩き出そうとした時、マシュがギュッと繋いだ手を握り締め、私を強い瞳で見つめて来た。
彼女の強い眼差し見た時、一瞬だけ、ほんの一瞬だけついあの人と面影が重なってしまった。
そうだ、あの人もこんな強い眼差しをしていた…

「また、出逢えると良いですね、その人に!」

ーーー嗚呼、本当に、どうしてこの子は…

「確かな事は言えないですけれど、何と言ってもここはカルデアです。私達は今まで様々な英霊達と出会い共に戦い、時には敵対して来ました。ですから、まだ見ぬこれからの未来、もしかしたらその方とまた巡り会えるかもしれないじゃないですか!」

【まて、しかして、希望せよ…!】

「だから私も先輩も、名前さんがその人と出逢える事を祈ってます!…あと先輩少し黙ってて下さい!!」

【?!】

瞳の奥に強い意志を宿しながら、微笑まれる。

そうだね、嗚呼そうだ、ここはカルデアだ。
数多の英霊達がひとつの目的の為に集う場所、そして更に此処は、貴方が望んだ夢の果て、オケアノスだ。
決して2度と巡り会えないと決まった訳じゃない、もしかしたら、万が一の確率の希望でまた相見えれるかもしれない。


ーーー遠くで波の声がする。
押し寄せては引き、また押し寄せては引くを永遠と繰り返す海の子守唄
目を瞑っていれば自然と誘われる眠気に、私は深呼吸をひとつした。


貴方に逢える予感がするんだ。
何故だか分からないけど、逢えると確信出来る。難しい理屈抜きで本能で感じる、運命。

そうだ、今度出逢えたら、今度こそ一緒にゲームをしよう。
今度こそ共に酒を酌み交わそう。
あの頃よりも格段に増えた知識で貴方と沢山沢山、夜が更け、朝が来ても尚、語り明かそう。
あの頃よりも大人になった私を見せてやる。
そしたら絶対言わせるんだ。

『成長したのう、名前』って

誰でもなく貴方に、いつものあの豪快な笑顔で、大きな掌で、優しい眼差しで、褒めて欲しいんだ。
貴方だけに、他の誰でもない貴方にーーー


「行きましょう名前さん!」

【ドレイク達が呼んでるんでしょ?】

「………っうん!」

差し出された手を私は力強く握り締めた。

不安が無いと言ったら嘘になる。

ただそれでも、私はこの仲間達と共に前を向いて歩いて行ける。

******
Fate GO zeroイベントにて私の敬愛して止まないイスカンダル様が実装された訳なのですが、それを記念してzero(第4次聖杯戦争)の頃からずっとイスカンダル様とまた相見える時を待ち望む夢主ちゃんの姿を書きました。



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