守りたいモノ


一成幼馴染み、隠れ魔術師設定。
キャスターに初めて出会いそれからアサシンと出会い、聖杯戦争に本格的に巻き込まれ、己の運命に立ち向かって行くお話の序章のつもり。
此処から発展する予定はありません。
あくまでコレは短編です。ご了承下さい。
※後アサシンは出てきません。



*守りたいモノ*



「苗字さんごめん!これお願いして良い!!?」

「うん良いよー」


「苗字さんこれも!!」

「うん分かった」


「苗字ー悪いんだけどさー…」

「はいはい」


そう言いながら気がつくと受け負った頼み事の数は片手に収まり切らなくなっていた。

「(嗚呼…またやってしまった…)」

そう思い苦笑い、溜め息を付きながら私はせっせと頼まれた事を消化して行く
時に「そんな量受け負って大丈夫なの?」と聞かれるが、私は笑顔で「大丈夫」と返すだけだった。

ーーー不器用な自分に溜め息が出る。

別に頼まれ事をするのが又はされるのが悪いとか、受け負わず断れば良いとか、そんな問題では無く…笑顔で「大丈夫」と何でも気前良く受け負う自分に嫌気がさすのだ。
「大丈夫」「平気だ」と笑いながら、不器用にも相手が分かる訳、気づく訳無いのに、心の何処かで「助けてくれ」「私に気付いてくれ」と密かな合図をしている。

そんな自分に嫌気がさす…

保身の為とか、偽善の為、何かの報酬の為にしている事では無いのに…私は心の何処かで見返りを期待して居る。
気付いてくれと私の存在を認めてくれと叫んでる。
本気でそんな汚い自分に呆れて来る。

「大丈夫だ」と強がりを言って相手と距離を置いたのは自分で、
「平気だ」と虚勢を張って相手を跳ね除けたのも自分だ

結局原因を作ったのは自分なのに、なのに、私は悲劇の主人公みたいに振る舞おうと言うのか…
御門違いも甚だしい…馬鹿げてる…
そんなに悲観に浸りたいなら他所へ行けと言う話だ。
それでもやっぱり私は…此処から動けず、誰かの助けを待っているだけの悲劇の主人公にしか成り得ないのだから笑える。

自分で変わろうとせず、周りの変化を期待するなんて…
なんて、愚か…なんて下らないのだろう…


ーーーカタ…


と目の前の椅子が動かされハッと意識を現実へと引き戻す。
降ってきた影を見上げれば……

「ふむ、良くもまあこんなにも溜め込んだものだな…」

顎に手を当て上から見下ろして来る人物

「………一成…」

「お前は人が良過ぎる名前、良い加減限度というものを覚えたら如何だ?良いか、情けは人の為成らずとは言うがお前のはただの度を超えたお人好し、慈善活動に過ぎない……全く、どうしてこうも俺の周りは…」

名を呼んだと同時に頭の上に一成の掌が降って来た。優しい手の筈なのに、ただ触れてる筈なのに、妙な威圧を感じるのは何故なのでしょうか生徒会長様…

「ごめん…でも、頼られたら断れなくて…」

「ああ、知っている。お前は幼い頃からいつもそうだからな…」

「ごめん…」

「謝るくらいならば最初から安請合いしなければ良い話だろ…」

「うん、知ってる。でも一成に迷惑掛けたな…って」

「ハァ…お前は……」

また長い長い説教が始まりそうだったので私は早々に会話を止め、視線を手元に戻し手を動かし出した。
あとこれだけやったら終わり…

「…名前、余り安請け合いし過ぎるな、悪い事…だとは言わないが、度を超えた優しさはいつか其の身を滅ぼす羽目になるぞ…?」

「うん、知ってる。いつも一成に言われてるから…」

視線は手元のまま上げずに言葉だけを返す。
『お前は本当に理解しているのか?』や『人の話をちゃんと聞け』等の何か言いたげな視線を痛い程受けているが気にしない、いつもの事だ。

「…でもありがと、心配してくれてるんだよね」

「……当たり前だ…。
……俺も早く帰りたいからな、手伝う…」

素直に感謝の言葉を口にすると、ぶっきらぼうなでも何処か照れ臭そうな返答が返って来た。
それに笑いながらもう一度「ありがとう、私一成のそういうとこ好き」と茶化した様に言えば、「調子に乗るな」と優しく小突かれた。


ーーー私は、今のこの幸せを失いたく無い。


幼馴染み以上でも、幼馴染み以下でも無い一成との関係は実に楽だった。
付き合いが長いからか私の考えてる事、私が思っている事、私の次の行動まで予測して、理解した上で付き合ってくれている。
何かと文句や説教を言いつつも、世話焼きだしお人好しなのはこの男も差して変わり無いところだろう。

そんな彼に甘えているのは私で、この関係を壊したく無いと必死で今の位置に居る。
それなのにーーー

『ーーーあら?貴女…』

あの女に見つかった。

『ふふっなるほど…では私に協力なさい。嫌と言おうモノならーーー』

目元は隠されている筈なのに、何処までも底冷えする様な冷たい眼差しを感じた。
その言葉に私の意志は無く、答えはただ一つだった。否、ただ一つしか無かった。
それ以外を答えた時、彼女がする事を思えば……私に選択の余地は無いだろう。

『ま、待ってっ!!…今はまだ、時間が欲しい。1日で良いから、考える時間を頂戴…』

必死で考えて必死で選択した結果、私は1日だけ時間をもらった。
取り敢えずは心の準備とか、気持ちの整理とか、ひとりで考える時間とかそんな感じに消費しようと考えてたのに・・・結局それも無くなった。
グチャグチャと自分で考えて、ひとりで悩んだけど、やっぱり答えなんて決まり切っていて、最終的に今まで通りの現状維持が良いと落ち着いた。

一成のとなりが良いと、落ち着いたのだ。

いつもの様に慌ただしくも平和な時間が流れ、いつもの様に一成のとなりに居て、いつもの様に生きて行く…
そんな日々を私は(大袈裟かもしれないが)愛しているから、そんな日々を守りたいから、私は、あの女の言う通りにしようと思う。

彼女が何者であるかは出逢った時に何となく察した。
と、言うよりも彼女の気配や魔力量、質、私の手元にある情報、そして今現在の状況により確実と言って良いほどの予想が付いたのだ。

嫌だ嫌だ面倒くさいと言って今まで回避して来た附けが回って来たのだろう…

私の家は有名とは言い難いがそこそこ良い魔術師の家系だった。
父も母も魔術を扱える、勿論私も幼いながらに魔術を扱おうと思えば扱える程度の実力だった。
そんな父と母も、10年前の大災害で私を庇い他界、その時瀕死の父から魔術刻印を受け継ぎ、私は苗字家の正当な後継者となった。

……なった、のは良いのだが…

父と母が亡くなり、幼い頃も決して魔術に意欲的だったとは言い難かった私は、己から魔術を学ぼうとはしなかった。だから今扱える魔術は幼き頃父から学んだ魔術が大半だ。
言わばただの魔力タンク状態
持っているだけの魔力回路は、幼い頃の父と母の懸命な努力に寄り、立派に、それなり、一人前くらいには出来上がっていた。
魔力回路は出来上がっているのに、魔術の腕が伴ってないとは笑い話にしか成らないが、本当にそうなのだ。
別に私は特別凄腕の魔術師に成りたかった訳でも、(風の噂程度でしか聴いた事が無いが)時計塔に入りたい訳でも無いのだ。

ただ純粋に【人間】としての生を全うしたいだけだ。

平凡にそれなりに人生を楽しんで生きて、最期には可愛い娘息子、孫や愛した人達に囲まれながら死んでいく……そんな何気ない何処にでも転がっている凡庸な人生で良いんだ!!!
私は己の人生に刺激など求めていない!!
今は致し方なく、イチ魔術師として、あわよくば己の、一成の身の安全の為、近々起こるで有ろう聖杯戦争の情報を仕入れていたところだった。
何も知らなければその危険を回避する事は難しいと知っている。
だから私は情報を集めた。

そんな矢先、ひとりで夜の情報探しの途中に彼女に見つかって、完全に一般市民としての凡庸な人生が終わりを告げだのは目に見えている。
この聖杯戦争に参加する事で、確実に協会には(そこまで有益な魔術師では無いとしても)苗字家の生き残りが居たと知れ渡るだろうし、第一この辺の統治をして居る遠坂さんにも知られる…それは余り手放しで喜べる事態では無くて、確実にこれからの私の平凡な人生が平凡では無くなる事を意味している。

ああ、そうだよ
私は彼女に見つかった時≠ニ言うより苗字家と言う魔術師の家系に生まれた時点≠ナ平凡な人生なんて選択肢に無い事くらい気付いてたさ…

それでも、淡い夢と淡い期待をしたいのは事実で……
きっと自分はやはりどうしようも無い馬鹿なんだろうなと自覚した。

それに自分が、他人以上にボランティア精神豊富なのも自覚している。
自覚しているが治せないもの事実で、私がそんな性格になった理由は多分、あの、10年前の大災害の所為だと思う

今でも偶に思い出されるあの悲惨な光景

言葉にするのはとても難しく、しかし逆に言えばとても簡略化されているとも思う。
其れは体験した者にしか分からぬ悲惨さで、詳細を言えと言われても難しく、ただ酷かったと言えば惨状を知らない人は納得するものだ。

だからソコで私は見たのだ。
だからこそ私は知ったのだ。

助けられない命がある事を……

別に命まで助けたいとは言わない。
そんな痴がましい事を言える程、私は大人でも、力がある訳でも、自意識過剰でもない。
ただ、困ってる人の役に立ちたいのだ。
その行為が偽善だと言われようと構わない。
ただ私は目の前で助けられる人が居るのに、何もしない、何も手を差し伸べない自分の方が何倍も汚く、何倍も醜いと思うのだ。

だから、己が無理をしてでも他を優先してしまうのだと思う。
コレはどうしても治らない性分、病の様なものと考えても良いだろう。なんとも厄介な話だ。
この世にはどんな万能な薬でも治らない病は確かに有る。


…話が大いに逸れてしまったが、今夜私はまた彼女に会う。

何を言われるだろうとか、何をされるだろうとか、そんなん多分今から悩んだってきっと意味を成さないだろうし手遅れだ。ならばそんな杞憂を捨てて開き直ってやろうでは無いか…!

そんな意思とともに、先程終わった頼まれ事を片付け帰り支度をする一成を見やる。
やっぱり彼はいつもと変わらない柳洞寺 一成のままで、私は何となく安心した。安心してつい笑ってしまったのだった。
いきなり笑い出した私を怪訝な顔で「どうした?」と聞いてくる一成に

「何でも無い、やっぱ一成は頼りになるなーって」

と笑えば「何訳の分からない言っているんだ」と呆れられた。
嗚呼、そうだよ…私はこんな日常を手離したくないのだ。ただ友人と笑い合う、それだけの日常を私は、愛して止まないから…だから、絶対


「ーーー守り切る」


小さく呟いた私の意志は、強く吹き付けた風に攫われる様にして掻き消えたてしまっただろう。

きっと強くなって見せるよ…
誰彼構わず守りたいって贅沢は言わない、だからせめて、一成や私の手の届く範囲の人達は守れる様な強さが私は欲しい。
その為なら私は、悪魔にだって魔女にだって魂を売ってやる覚悟さ…

見上げた空には既に幾つかの星達が煌いていた。



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