終わりを告げたあの夏にもきっと一縷の希望があった筈
赤弓夢、ギャグ?
※恋人なのか唯の友人なのか曖昧な関係
夏と言えば海!!
海と言えば水着!!
水着と言えば夏っ!!!
そんな夏の三大醍醐味とも言える海で、砂浜で、目の前を行き交うは色取り取りの水着を身に纏った老若男女、照り付ける日差しは強く、空は清々しい程高く青くとても綺麗に入道雲が映える!正に絶好の海日和!!
………の筈なのだが…、
「あつーー」
残念な事に、私は浜辺のパラソルの下
数歩先に進めば純白のワンピース型水着を着ているセイバーと、パンツタイプのビキニを着ている桜、何処までも赤色が似合う凛ちゃんの三角ビキニに、紫色の大胆な水着にパレオを巻いているライダーさん達がキャッキャッと楽しそうにビーチバレーや波打ち際で水遊びをしている。
それが、まあ、なんとも眩しい事眩しい事…
うら若き乙女達の真っ白な素肌が目に染みるぜ!はははっ!!
……え、私?
私は勿論、日焼け止めをたっぷりと塗り日焼け対策バッチリの状態でパラソルの下、パーカーを着て律儀に体育座りをしている。
下にはちゃんとホルターネックのビキニを着ている筈なのだが……まあ、コレが皆に晒せる状態じゃ無いって事ですよ、海にまで来て何やってんだ私って思うけどね…。
今日は男性陣抜きで女の子達だけで海の予定でした。まあ、それは叶った訳なのですが…
前日に思わぬトラブルが発生し、私は今年の海水着デビューを破棄しましたとさ。ちゃんちゃん。
「本当、ついてない…」
そう言い溜め息を吐きながら頭を抱えた膝と膝の間にスッポリと埋めた。
正直、これでも結構楽しみにしてたんですよー?
数週間前から皆で行こうねって計画練って、楽しく皆で水着を選びあって、自分の気に入った水着を選んで、ちょっとだけいつもの自分へのご褒美に可愛い水着奮発してさ…はーあ、本当に何でこうなっちゃったんだか…
そりゃあね、ちょ〜っとは可愛いく見てもらおうって下心はあったかもしれないけど……それでもこんな事する必要ないじゃない…っ
あーもうっ!思い出しただけで腹が立って来たあぁぁ!!
どれもこれも全部あの男の所為だっ!!
こうなる事が分かってたから敢えて何も言わなかったのに、凛ちゃんから聞き出したりいちいちしつこく聞いて来て、最終的にはこっちが根負けする勢いだった。
そりゃあね、嫉妬してくれるのはちょっと嬉しかったりするけど、それであの男を許してたらこっちの身が持たないし、余計にあの男を付け上がらせる一方だ…っ
『自覚が足りない』とか『無防備だ』とか『私の目の届く範囲に居てくれ』とか、その辺の心配性なところは彼の優しさだと目を瞑るとしても、『何故私に君の水着を選ばせてくれなかったのかね?』と真剣な顔をされて来たら変態発言も良いところだ。
良いじゃん別に、私の好きなの選んでもさ…なのに、なのにさ…
「……アーチャーのバカ…」
ポツリとつい不満が溢れた。
そう、この私だけぼっち…基孤独孤立事態に陥れた張本人である、赤い外套を纏った弓兵で凛ちゃんのサーヴァントであり、私の恋人…?である男
恋人と言って良いのか正直曖昧なところではあるが、まあ悪くは無い雰囲気だと思うし、そう言う感じの事もした…と言うよりされた、からこの表現であっていると思う……思いたい。
「ーーーなーに、海に来てまでショボくれた顔してんだよっ!」
「うぉぎゃああっ??!!!」
いきなり首筋に冷んやりとした冷たく濡れた感触がして、恥ずかしながら乙女としてどうかと思われる奇声を上げながらガバッと勢い良く後ろを振り向いた。
そこに立っていたのはーーー
「らっ、ランサーッ!!」
「よ、陰気な面してどうした?」
私の背後に立っていたのはランサーだった。
そしてその手には水滴を垂らす何処からどう見ても冷えっ冷えっの缶ジュースが握られ、「ほらよ」と差し出されている。有難く受け取るとしよう…。
ランサー独特のあの陽気な雰囲気と、夏の日差しに負けないくらいの笑顔と、真夏の海岸がここまで似合う男は居ないのでは無いのだろうかと思える程海岸にはそのアロハシャツが良く生え良く似合っている。
そしてカラッとした真夏の太陽並みに眩しい笑顔に、沈んだ気分の私はついため息が出た。
ランサーが悪い訳ではないのだ、そう決してランサーが悪い訳ではないのだけど…今の気分でその笑顔は流石にキツいっすわ……
「……どうしたもこうしたも無いよ…」
彼から頂いた缶ジュースを手元でコロコロと弄びながら出た言葉は、拗ねている様な疲れを滲ませた様な響きを含んでいたと思う。
だから彼はドカリと無遠慮に隣のシートに座りながらも「なんかあったのか?」と神妙な面持ちで訪ねてきたのだ。
「うーん、ちょっとねー…」
明後日の方向を向きながら苦笑いを浮かべる
こんな時にまで言葉を濁す自分が憎い…まあね、ちょっと彼には言いづらい事ってのもあるんだけどね…
「嫌なら無理にとは聞かねえけど…言いたい事が有るなら吐き出せ、溜め込むより幾分かマシだ、それに何より俺が聞きてえ!」
お兄さんお兄さん、途中までは最高にカッコ良かったのに、どうして最後で最高にダサくなっちゃうかな…?
どうして本音を出しちゃうかなぁ…
キラッと効果音の付きそうな良い笑顔で言われても信用出来ないよ…。
「なあ、本当のところどうなんだよ?あの野郎と上手くいってねぇのか??何なら今からでも俺に乗り換えるか??ん??」
「……要らないお節介どおも…そして何気に人の肩を抱かないでくれますかね?抱き寄せるな、胸板に押し付けるなって!」
「これはな、当ててんだぜ?なんだ気づかなかったのか??」
「ムチムチのお姉さんならまだしも、ムチムチのお兄さんの胸は要らないかな!!…ってマジで苦しいからっ!マジで筋肉で窒息死するからあっ?!」
ギャーギャー言いながらランサーの胸元を押し退ける。押し返してすんなり引いてくれたから、こいつも多分本気では無かったのだろうと思う。…思いたい。
もしくは手持ちの缶ビールの所為で酔っていたのだろう。
ハァ…と小さくため息を吐いたら「おいおい、そんなに嫌だったのかよ」と言われた。別にそういう訳では無いのだが、面倒くさいから訂正はしない。
チラリと彼を見上げると視線が合った。
それを合図に私は彼に経緯を話す事にする。
「……誰にも言わない?」
「ん?ああ、まあ約束は…する。」
ズズッと缶ビールにひとくち口を付けて彼は笑った。
「絶っ対に…??」
「あーはいはい、絶対絶対…」
「オッケー、もし誰かに言いでもしたら、これからランサーがウチに遊びに来きた時のご飯はずっと麻婆豆腐ね。」
「は?!お、おい!??」
「因みに激辛、誰にも言わない…よね?」
「別に誰にも言わねぇって言ってんだろ!!だから麻婆だけは止めろっ!止めてくれっ!」
「ん、了解、ありがと」
ちょっとした意地悪のつもりだったのだが、予想以上に彼には効いたようだ。
百聞は一見に如かずっと言うし、多分、ランサーは言うより見た方が理解が早そう(失礼)なので、私は自分の着ていたパーカーのチャックに指を掛け、ジーッと下まで下ろした。
「お!脱ぐのか、なら一緒にひと泳ぎ行……
…って、なんだそりゃっ??!!!」
最初こそ嬉々としていたランサーだが、やはりパーカーの下のモノを見てドン引きした様だ。
是非もないネ!!だってその下には…
「………なんだって、キスマークに決まってるでしょ?」
そう、その下には、あの男の所有の証、キスマークがビッシリなのであった。
それはそれはギリギリ今着ていたパーカーで隠せるか隠せないかくらいの量と位置に付けられたモノ
「お前…コレ、大丈夫なのかよ…?」
「まあ、痛くは無いし、問題無い、かと…」
引き攣った顔で赤々と私の首筋や胸元、腕、肩、脇や腹部、太腿、内腿に至るまでくっきり浮かび上がったソレ等を見て、最早何かの病気なのでは無いかと心配し出すランサー
まあ、あながち“病気”と言うのは間違いないのだろう。勿論、私では無く、彼奴の…だ。
「いや、でもマジでーーー」
「ーーーっ!?ダ、ダメッ!!!」
そして、その心配故、私の素肌(無論水着は着ている)に触れようとしたランサーの手を私は咄嗟に鷲掴み、強引に引き寄せた。
「は?何がダメなんーーー」
『だよ?』と彼が言い切る前に、先程彼が座っていた位置に、ドガンッと言う鋭い音と共に砂浜の砂を巻き上げ、着地したモノが深々と突き刺さっていた。
周りの人達も何事かと覗いている。
ーーーーガラドボルク
魔力粒子を帯びた剣が、そこにあった。
それはものの数秒で何も無かったかの様に掻き消えてしまったが、私達は確かに其処に飛来したモノを見たのだった。
そして、その剣を贋作し、確かな殺意を込めて撃ち放つ事が出来る人物はひとりしかいない。
「・・・・・」
彼は、唖然、驚愕と言った色を顔に表し、口の端しが微妙に引き攣っていた。勿論私だって引き攣っていた。
だってまさか本当に撃ち込んでくるとは思っていなかったから……皆で海に行くと出掛ける支度をしている最中に彼がチラッと『君の事は私が守る』『ちゃんと見守っている』等と言っていたのはこの事かと納得する。
「あーまあ、その、く、苦労してんだな…」
先ほどの様に気軽に触れる事はせず、目線も逸らしつつ、労わりの声を頂いた。
「うん、ありがと……」
ランサーの言葉に返事をしつつ、アーチャーのあんまりな行動に私自身、少し引いたのは秘密だ。
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