君の温もりを抱き締めて
赤弓夢、赤弓視点、士郎義姉設定。
※捏造、ネタバレ、
※士郎が微シスコン気味
幼い頃から君を見ていた
君に守られ、君に愛されてきた
しかし其れも、今は遠い記憶の彼方…
失って初めて気付かされたよ。
私はずっと君をーーー
*君の温もりを抱き締めて*
「変な奴が来ても家に上げちゃダメだからな!それから怪しい勧誘もダメ!それからそれから怪しい人物にも注意!それからそれからそれから…」
「ええ、分かったわ、でも士郎…そろそろ行かないと遅刻するわよ?」
「う…っそれじゃあ気を付けろよ姉さん!
……特に、後ろの奴にはなっ!!」
「はいはい」
少し小走り気味に学校へ向かう衛宮 士郎
それに手を振り微笑みながら見送る義姉の衛宮 名前、その姿はまるで姉と言うより、母親の様だと思った。
「ふふ、士郎は心配性ね」
口元に手を当て穏やかに微笑む彼女に、少しだけあの小僧を哀れんでも良いのでは無いかと少なからず同情した。
そしてフと……
腕組みをし、あの頃より少しだけ高くなった己の目線に気付いた…君をこの位置から見下ろせるなんて、なんだか新鮮な気分だった。
私の記憶には君を見上げている幼い自分と何時までも君に護られている未熟な自分がだけが存在する。
この歳になる頃には、君はもう何処にも、私の側には、此処には居なかった。
残念な事に私は君を守れなかった救えなかったのだ…だからこそ、私はこの視線に戸惑いも焦りも悲しみもした。
君はこんなにも小さかったのかと、
君はこんなにも細く繊細で儚かったのかと、
君はこんなにも……
嗚呼、抱き締めたいと思った。
力の限り思いっきり、君を抱き締めて、その温もりを感じ確かめたいと思った。
………そんな事出来る筈ないのに。
今の私にそんな資格は無い。
君を抱き締める事など、況してや君を愛する事など、今の私には到底叶わない事だった。
その現実をヒシヒシと感じて、塞がりかけていた昔の古傷を抉られたかの様に酷く胸が痛んだ、そしてつい、悲しいなどと思ってしまったのだった。
「それにしても士郎も大きくなったわね」
あの小僧が走り去った後を名残惜しそうに見詰めながらポツリと君が呟いた。
一瞬己の事かと思いドキリとした。だが、そんな事絶対有る筈無いと分かり切っているのに、私は何に怯えて居るのだと笑ってしまう。
「奴はまだ未熟、まだ半人前の半端者だ…」
「あら、随分と士郎に厳しいんですね?」
「当たり前だ、アレはーーー」
言葉に詰まった。
何て君に返そう?どう返したら君は傷付かずに済む?一層の事『アレは私だからな』とでも返してしまおうか?そうしたら君はどんな顔をするだろう。どんな反応をするだろう。
そんな馬鹿な考えばかりが頭の中を駆け巡り、私は言葉を詰まらせた。君に真実を伝えて悲しませはしたく無いから…
「ーーーっアレは、」
「アレは?」
「アレは…っ、まだ、子供だ。本人は当の昔に大人に成ったつもりでいるが、思考や本質の部分でまだ幼さを残している。大人には遠く及びはしない。」
咄嗟に苦し紛れの嘘を吐いた。
いや、正確には嘘では無かったのかもしれない、だが、誤魔化し君に嫌われるのが怖くて、私は逃げた。
君に告げる勇気など、私は最初から持ち合わせている筈がなかったんだ。
「ええ、そうですね、士郎はああ見えてまだまだ子供です。だから私がちゃんと面倒をみて上げないといけませんからね」
「ああ、そうだな…」
母親の眼差しで微笑んだ君が余りにも眩し過ぎて、私はつい目を逸らしてしまった。
しかし彼女はフとその眼差しを緩めて、悲しい色を瞳に宿すと「でも…」と小さく呟いた。
私がそれに耳を傾け、聞く体制で待つ
「でも、まだ子供と言っても、そろそろ彼女のひとりやふたり作って欲しいものだわ!」
「…ぐ…っゴホッゴホッ?!」
いきなりの斜め上からの言葉に驚き、私は反射的に言葉を詰まらせ咳が出た。
それを見た彼女が私を見ながら心配そうにしている。
「あ、あらあら、大丈夫ですか?」
「き、君は…っ!?」
口元を覆いながら彼女を見るが、何故私が咳き込み出したのか分からないと言った顔をしている。
それはそうだ、彼女は私の事を知らない。だが、それでも彼女本人にその類の話を聞かれては咳き込みたくもなると言うものだ。
私は気を取り直す為、ひとつ咳払いをした。
「…い、いつか、その内、あの坊主にも彼女が出来るのではないかね?」
「んーそうなんですけど、何と言うかついつい心配で……士郎に気になる子が居ないか聞いて見ても一向に返答が無くて…」
「そ、そうなのか…」
「終いには『俺には姉さんが居るから大丈夫なんだー!』とか言い出して仕舞って、私はどうしたら良いのでしょうか…?」
フゥ…とため息を吐く彼女を尻目に私は、あの小僧への怒りを沸々と募らせていた。
そんなモノ私の方こそなんと答えたら良いと言うのだ!?と言うより衛宮 士郎!貴様なんて事を彼女に言っているんだ!!!
今の言葉を聞かされた私の身にもなれ!!!この、たわけ…っ!!
小僧への怒りを募らせるが、其れ等全てをグッと堪え我慢し、彼女の言葉に返答すべく物事を冷静に考える。
ーーーそして、フと気が付いたのだ。
もしかしたら彼女は…と、
「……君は、既にあの小僧の想いには気付いているのではないのかね?」
「……ぁ、ふふ…」
悲しげに微笑む彼女、そして、一拍空けてから口を開いてくれた。
「…そうね、気付かない方が無理かもしれないわね…だって私は士郎のお姉ちゃんだもん。気付かない訳がないわ」
「…………」
そしてまた寂しげに微笑んだのだった。
嗚呼…そうだ、君はいつもそうだったな…
例え気付いていても、知っていても、あえて気付かない知らないふりをしてくれて居た。
あの頃の私が土蔵で一人、君に隠れて、君に隠せていると思い込んで必死に魔術の練習に励んでいる時も、君は気付かないふりをしてくれた。
君は何時でも私を、あの頃の私を、見守って居てくれたんだ……微笑みながら、陰ながら私を守っていてくれたんだ。
「……ああ、そうだな」
「?」
「ああ、君はいつでも私の味方で居てくれた」
「アーチャー…さん…?」
触れた君の肌はあの記憶のままだった。
匂いも、感触も、その心の在り方すらも、磨耗した記憶の片隅で未だ色褪せる事なく、残り続けてくれた君のままだった。
愛している、愛している、愛しい人…
私が愛し、こんな私を愛してくれた人…
どんなに歪に歪み、磨耗し、汚れ、朽ち果て、傷だらけになって尚、君と云う存在は私の中に在り続けてくれた。君と言う存在が私の支えだった。
「……なんだか良く分かりませんけど、泣きたいなら、泣いても良いんですよ?」
「……っ」
「今は私しか居ませんし……それにアーチャーさんがお嫌でしたら私は何処かへ行きますが…」
言うより先に君を引き寄せ強く強く抱き締めて居た。離れないで欲しい、今は、今はまだ側に居て欲しい。この温もりを感じさせて欲しい。
「…ありがとう、名前…」
初めて君の名を呼んだ気がする…
だか、今はそんな事どうでも良い、今はただ君の温もりを感じたい。君の側に居たい。君を離したくない。
君の肩口に額を押し当て、私は静かに涙を流した。
いま一度君に、
あの頃の君に出逢えたならーーー
ーーー俺は迷わず君に全てを捧げられるだろう
俺は、迷わず君を愛せるだろうーーー
『……私は、何時でも、幾つに成っても貴方の味方よ、シロウ』
そう聴こえたのは嘘か幻か…
涙で霞む視界と脳味噌では、その判別は酷く難しかった。
******
好きな人の前でだけ弱さを見せる赤弓が書きたかったのですが、でも逆に、赤弓は好きな人の前では弱さを見せられないのかも…とか考えたりもしました。
2人の感情としましては【親愛】と【愛情】間らへん…家族として大切だけど、何時しか親愛は愛情に変わったって感じです。
因みにお義姉ちゃんはアーチャーがシロウだと言う事を薄々感付いてます。
目元とか、仕草とか、そーゆーところを見て『もしかして…』と考えてる設定です。
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