夢が夢である為に


赤弓夢、幼馴染み設定。赤弓視点。
※真名バレ、捏造注意※



ーーー酷い夢を見た。

余りにも内容が酷過ぎて中身までは覚えていなかったが、脳裏に焼き付き残った其れは、漠然とした悲しみだった。


*夢が夢である為に*



「アーチャーちょっとこっち来て!」


言われるがまま食後の後片付けの手を止め、ソファーに寝転がった姿の名前に近付けば、「ふふ、つーかまえたー」と呑気に笑いながら、近付いた私の腰辺りに抱き付いて来た。


「ふっ…どうした?今日はやけに積極的では無いかね?」


抱き付いて来た名前の頭を撫でれば、気持ち良さそうに目を細める。その姿はまるで猫の様だと笑ってしまった。


「ん、なんかね、今ものすっごくアーチャーに甘えたい気分なんだ…って言うかくっ付きたい!触れたい!アーチャーの体温を感じたい…っ!」


普段より数段鼻に掛かった甘える様な高い声、どうやら甘えたい気分と言うのは間違いないらしい……

ひとつ満足そうに微笑んで、パッと一旦離れ座り直したかと思ったら、ポンポンと己の隣を掌で数度叩いた。
『ああ、そういう事か…』と彼女が意図した場所へと腰掛ければ案の定、「やったー!アーチャーの膝頂きー!!」と名前が膝の上へと乗り上げ、そのまま私の首へと腕を伸ばし、向かい合わせの形で抱き付いてきたのだった。


「アーチャー、アーチャー、アーチャー…!」

「どうかしたかね、名前?」


グリグリと甘える様に額を押し付け、余りにもうわ言の様に私の名を呼ぶものだから、苦笑いしつつ、彼女の背へと手を回し宥める様に撫でてやる。
それを受けた彼女が小さく息を吐き出すと、また満足そうな顔をし「ううん、なんでも無いただ呼んだだけ…」と笑った…なんとも可愛い事を言ってくれる。
その言葉に私はつい嬉しくて「そうか」と短くしか返せなかった。


「うん、ふふ…アーチャー私ね、アーチャーとこうしていられるだけで幸せなの、貴方とずっと一緒にいられるだけで満足なんだ……だからね、だからお願い、私から離れないで、ずっと一緒に居るって、私の側を離れないって約束して……」

「名前……ああ、大丈夫だ、私は此処にいる、君の側を離れたりしない…」

「うん、うん…っアーチャー…!」


眉を寄せ私の胸元に顔を埋める、その頭部を撫で抱き締め返せばギュッと先程よりもキツく私にしがみ付いて来た。
彼女が私に甘えるのは珍しい事だと思ったが、嗚呼、そうか、やはり彼女は見てしまったのか……とその言葉で悟った。


その夢は、
大切な人と離れ離れになる夢だったーーー


私と例え体液を通じてだとしてもパスを繋いでしまったから、彼女は“私の夢”を見てしまった。
抑止力の代行者としての道を選び、自らの選択で、彼女と袂を別つ事となった愚かな私の夢…

それは決して許される事ではないと知っている

だから、謝罪の言葉は口にしない。
君は今更遅いと怒るだろうが…
もう2度とこの手を離さないと、
ずっと君の側に居ると誓うよ…

この腕に抱く温もりを強く強く抱き締めた。



遠い記憶、君の面影…
こんなモノがまだ私の中に残っていたのかと笑いながら、また、今朝の悲しみが胸に込み上げてきた。

『もう、行っちゃうんだね…』

ああ…すまない…

『私、待ってるから…』

……ああ…

『…っずっと、ずっと…っ待ってるから!!』

…………

『だから絶対、此処に、帰って来て…っ』

……すまない…っ

最後に見た君は泣いていた。
そんな泣いて居る君に、私は何も声を掛ける事は出来なかった。約束してやる事など出来なかった。己の事は自分が1番良く知っているから、だから…
……だから、せめて最後くらい抱き締めてやれたら良かったと、今は後悔している。

触れて、抱き締めて、口付けて、互いの熱の密かな違いを感じて、君の匂いに溺れて、このまま二人溶け合ってグチャグチャにどちらのモノかも分からないくらい混ざり合えて仕舞えたならば、どんなに幸せだろうと切望する…



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