酒は飲んでも呑まれるな


赤弓夢、ランサーのマスター、教会住み設定。
基本ギャグ、赤弓が可哀想
オマケもあります。



*酒は飲んでも呑まれるな*



「あっはっはっはー!!!」

「ちょっ!?藤ねぇやめろって!!」

「や、止めて下さい藤村先生!」

「先生、お、落ち着いて…!」

「おーおーいいぞーっ!もっとやれーー!!」


「あぐ…っもぐもぐもぐもぐ…」


「……カオスだ…」


私はキャーキャーギャーギャー何とも楽しそうに騒いでいる人達を何所か遠い存在の様に見詰めていた。

この家の主人衛宮士郎と、学園のアイドル遠坂凛と間桐桜、そして1番大きく現在進行形で騒いでる藤村大河先生と何故か一緒に付いて来たランサーを肴にチビチビと手元のジュースを飲んでいる。
もちろん、かなり離れた位置から。

セイバーに至っては、周りの喧騒など我関せずで、目の前の士郎と桜ちゃんが作った豪華な料理に夢中である。


「藤村先生って意外と酒癖悪いんだ…」


そう呟いても今ある自身の目の前の事で忙しいであろう彼等には届かない様子だ。


「からみ酒にも困ったモノね〜」


なんて他人事の様に誰にも聞かれてない独り言を呟いた。
しかし、誰にも聞かれてないであろう呟きは、私の隣で大河先生と同じお酒を飲んでいるアーチャーさんには聞こえた様で、此方を向かず、4人の様子を見たまま話しかけて来た。


「そう思うなら、助けてやれば良かろう?」

「あ、やっぱりそう思います?」


私も同じく4人の様子を見ながら、口にジュースを運びながら、答えた。


「いや、何て言うかこう…あーも絡みまくってる人見てると、どうしても私は関わりたくないなぁーって思っちゃて……」

「ふっ…賢明な判断だな…」

「ですよね?」


私は笑いながらまたジュースを口に含んだ。

只今私達は衛宮邸で、士郎と桜ちゃんが作った料理を肴に藤村先生とランサーが突然持ち込んだお酒を飲んでいる。

と言っても、未成年の飲酒は(幾ら泥酔しているとは言え)担任の藤村先生が許さないため、飲酒は藤村先生と私のお隣のアーチャーさん、そして本当に何故か一緒に付いて来たランサーのみと成っている。
(勿論、私のお隣のアーチャーさんも未成年の飲酒は許さない事だろう…)

最初は唯の夕飯の筈だったのだが、いつの間にか藤村先生とランサーがお酒を持ち込み、飲み比べを始めてしまったため、止めるのがめんどくさかった私はそそくさと部屋の隅に避難(寄り)し、事の治りを待つ事に徹した。
触らぬ神に何とやらですよ…

そしてこれまたいつの間にか避難したアーチャーさんが隣に座り、今の形に収まっている。
因みにランサーは士郎の前で藤村先生を煽ってお酒を飲んでいる。

アレは絶対士郎が困っているのを見て肴にしてる(愉しんでる)な…
主が主なら従者も従者である、要らぬ所ばかり似るんだから……


「ふぅ…」


私は己の家事情を思い返しながら疲れた溜め息を吐いた。


「そうため息を吐くと幸せが逃げるぞ…?」


私のため息を聞いたで有ろうアーチャーさんがチラリとこちらを一瞥して、一番広く知れ渡っている最もらしい事を言われた。


「そーゆーお年頃なんですよぉーー…つってもまあ…逃げる程の幸せなんて持ち合わせて居ないですけどね…」


あはははは…と乾いた笑みを浮かべれば、彼は「ヤツは君を幸せにはして居ないのか?」と目を丸くし、此方を見詰めながら真剣に言われた。


「へ?ヤツって…ランサーの事ですか…??」

「あ、ああ、彼奴の態度と君達の雰囲気からしてその様な関係なのかと思ったのだが……」

「い、いやいやいや、全然違いますって!
妙な勘繰りは止めて下さいっ!!ランサーと私は唯の同居人です!それ以上でもそれ以下でも無い関係です!!」


何故彼奴と付き合ってると思われていたのかは、兎も角、そう思われているのがカルチャーショックであり、何と無く嫌だったため間違いを正し全力で否定した。
それを聞いた彼は「そうだったのか…それならば私にも機があるのでは無いだろうか…」等と独りブツブツと呟き出した。

……あれ?
この人もしかして相当酔ってる…??


「…ア、アーチャーさん実は相当酔ってます?それならお水持ってきますけ…ど…っ!」

「いや、いい…」


そう言いながら席を立とうとしたら、いきなり腕を掴まれた。
ドキリッと心臓が跳ねたのは、多分予想だにしない動きをされたからだろう…


「そ、そうですか…」


そう言いながら座り直そうとして、また心臓が跳ねた。
先程まで一切合わなかった(多分他意は無いだろう)真っ直ぐな視線と至近距離でカチ合って仕舞ったからだ…。

下からこんなに真っ直ぐに見つめられて、平素のままで居られる(固まら無い)強靭な精神の持ち主が居るので有れば、私はその爪の垢でも飲ませて貰いたいくらいである…


「あ、あの…っ」

「ーーー君は」

「はい?」

「君は、あの男と付き合っていないと言ったな…?」

「あ、はい…言いましたけど…」


『あの男』とはランサーの事だろうか?
私は何故今ここでランサーが関係あるのか分からなかった。


「…では、私とーーっ
「どーおー??アーチャーさん飲んでるぅーー???」…うぐぅ…っ」

「あ、藤村先生…」

「やっほー名前さん!」


アーチャーさんが何か言い掛けた時、丁度タイミング良く士郎から興味が剃れた藤村先生が此方側にも絡み酒をしてきた。
しかも、あろう事か藤村先生はアーチャーさんの頭の上から私を覗いている。(用はアーチャーの頭の上に藤村先生が頭を乗せている状態)


「あー!ちょ…っ藤村先生、何してるんですか!!」

「あ、凛ちゃん…」


向こうの方で士郎とワイキャイやってた凛ちゃんが珍しく大声をあげて近付いてきた。


「せっかく二人が良い雰囲気だったのに…もー!ほら、藤村先生あっち行きますよ!!」

「むにゃ〜〜しろ〜〜〜」

「たくっ…ここで衛宮くんの御指名?
…衛宮く〜ん!そんな奴の話なんて無視で良いからこっち手伝ってちょうだい!!」

「え、遠坂…?って、わっ!!??またかよ!藤ねぇ!!」

「しっろーーーーう!!」


凛ちゃんが酔っ払った藤村先生をクルリと士郎の方へと向かせると、藤村先生は獲物を見つけた女豹の如き速さで士郎にまた絡み酒に行った。
……何かと言いつつ扱い上手いなー凛ちゃん…

そんなこんな思いつつ凛ちゃんをボーッと見詰めていると、ハタと視線が合った。
…ん?ニヤリと何処と無くわるい笑みを浮かべたぞ??


「??」

「ふふっごめんなさいね〜、せっかくの二人の世界をお邪魔しちゃって〜〜」


「オホホホホ」とお上品に口元に手を当て笑いながら、やはり何処と無く黒い笑みが見える。
そして私から視線を外すと、よっぽど藤村先生の一撃がホロ酔い状態のアーチャーさんには効いたのか、撃沈した様子のアーチャーさんに向かって、


「こっちは引き受けるから上手くやりなさいよ、アーチャー…」


と意味深な一言を残すと「じゃあね〜」と去っていった…何だったんだ今のは…??


「……今のは何だったんでしょうね、アーチャーさん??」

「……さあ、ね…」


そう問い掛けても返ってくるのは短い返事だけ…よっぽど藤村先生の一撃が痛かったんだな…
首が疲れちゃったのかな?あの様子だと全体重乗せてたみたいだったからなー…。
私は良心を効かせて、


「お大事にして下さいね…?」


とヒッソリと言うと「ああ、そうさせて貰う…」とやはり元気の無い返事が…
痛い思いをすると幾ら楽しくてもみんな気分が沈んじゃうよね…。

哀れみの念からか、幼子にする様に項垂れる彼の頭を優しく撫でるとピクリッと反応があった。
お?これは効果覿面(てきめん)か??

文句を言われる訳でもなく、払い除けられる訳ではない為、私はそのまま『よしよし』と彼の頭を撫で続けた。

よくよく考えれば自身よりも大人な、しかも身長も大きな彼に対しては失礼かと思ったのだが……やはり嫌がられないのでその半飲み会状態の夕食が終わるまで、私はそのまま彼を撫で続けたのだった。


「気持ち悪くなったら言って下さい。直ぐにお水とお薬持ってくるんで…」

「ああ…頼む…」


その声はいつもの彼からは想像も出来ない程、とても弱々しいものだった。

「(よっぽど酔いが回っちゃったんだ…
それ考えるとアレだけ動き回れる藤村先生ってすごいなー…)」

なんてチラリとまた藤村先生に盛大に絡まれてる士郎の方を伺い見ながら思った…
私は心の中で士郎に手を合わせながらアーチャーさんの介抱をした。


……きっとこの子は、アーチャーが本当の意味で撃沈して(落ち込んで)いる理由を一生掛かっても理解出来ないだろうな…

と凛は色々と複雑な心境の自身のサーヴァントを遠くから哀れんだのだった。


「(全く…人が折角背中押してやったのに……
アーチャーの奴、情け無いわね!)」


* 酒は飲んでも呑まれるな end*
因みにネコはお酒飲みませんし、飲めません(笑)
オマケ話もありますので宜しかったらそちらもどうぞ!


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