彼に届いて、私に届いて…


赤弓夢、幼馴染設定。
※グロテスク表現、微裏表現有り
※ネタバレ有り、作者の激しい偏見有り

続編もしくは前振り話になりますので、前作を見てないと分からない、理解出来ない部分が出てきます。

人に寄っては険悪されるかもしれません。
自己責任でお願いします。
また見てしまってからの苦情、批判は一切受け付け出来ません。
******




ーーーー夢を見た。

貴方に抱かれとても幸せな夢を…

ーーーー夢を見た。

貴方と共に在った幸せな日々を…

ーーーー夢を見た。

貴方を想う大切な日常を……


しかし、そのどれもは儚い幻だった。
幻想に過ぎなかった。


ーーーーー夢を、観た。

私の骸を抱きながら、泣く貴方を…

ーーーーー夢を観た。

私の死が貴方に齎した-もたらした-最悪を…

ーーーーー夢を観た。

この現実が夢で有れと願う、儚い夢を…



*彼に届いて、私に届いて…*




「う…っく…ぅぅっ」


目を覚ますと、そこは誰も居ない寂しい空間だった。
遠くの方から銃声や人の悲鳴が聞こえる。

嗚呼、まだ争いは続くのか…
まだ人々は己の為に戦うのか…
まだ・・・彼は人の為に闘うのか…

と哀しくなった。
彼を守る為に戦場に出たが、今までの無茶が祟ったのか…、敵兵の攻撃を腹に受けてしまい、更には最悪な事に、人気も何も無い廃墟まで追い込まれた。決死の抵抗で敵を全て殲滅したが、その衝撃により天井が崩れ落ちてしまい、運悪くも私の上へと落ちて来たと言う訳だ。

ああ、もう…今日はなんて、厄日だ…

そう笑ってやった。

……馬鹿らしい誰が泣いてなんかやるもんか

そして、今の今まで私は気を失っていた。

嗚呼…私は結局何も変えられなかったのか…

彼と共に無我夢中で走って、
走って走って走って…
息が切れるまで走って生きて生き抜いて、
彼を独りにしない様に努力した。
共に寄り添おうとした。

……なのに、なのに私は、結局は、彼を独りにしてしまうのか…
動かぬ身体を叱咤し無理矢理動かそうとしたが


「ぐっぅぅぅ…っあぁぁあっ!!」


グシュッグジュッと傷口から大量の血が噴き出し、肉が切れ、酷い苦痛と眩暈がした。

こんな所で死ねるかと、
彼を独りにするものかと、

必死で足掻いたが結局は駄目だった。
重い瓦礫の下敷きとなった脚は言う事を聴かず、血を失った手脚は最早使い物になら無い。
そして腹に受けた傷口からは留まることを知らない様に血を垂れ流す。

後はそこまで近付いた死が私を連れ去るのみだった。

肺で息をするのも億劫になる程の屈辱と苦痛と倦怠感…、彼を守れなかった想いと、結局は私の力では何も出来ない悔しさと、彼へ向けた無念だけが心に残る。

ーーー彼、エミヤ シロウと共に戦場に立つ様になってどれくらい時が過ぎただろう…?

最初は幼馴染みの私を危険な目に合わせられないと拒否されたが、めげずに食いついて良かったと今は思っている。射撃の腕は昔から良かったから、それを生かして士郎の背中を守るスナイパーとなった。
必要と有れば戦場にも出て彼と隣りに着くこともあったっけ…

人を殺める事に対して罪悪感も有った、抵抗も有ったーーーでも後悔はして居ない。

確かに人を殺す事に抵抗はあったが、士郎を殺されるより断然ましだと割り切った、切り捨てた…


でも、切り捨てても切り捨てても出てくるモノがある、込み上げてくる思いがある。


そういう時は必ず…
士郎が私の涙の捌け口になってくれた。

私も彼の涙を受け止めた。

お互いただの傷の舐め合いでしか無いにしても、確かにあの時、私は士郎を感じていた。
それが、無意味であると知りつつも…

傷口に舌を這わせ、彼の血液を舐めとった。


『……っん』


痛そうに小さく呻くものの、結局は私のしたいようにさせてくれている。
彼の血からは密かな魔力を感じた。それでも、それはただの人間の血液と、液体と変わり無く、鉄の味が…

ーーーーーシロウの味がした。

それは不味いとも美味しいともとれる味では無く、ただただ…シロウの味だった。


『…シロウ…ッ』

『…っ』


彼を呑み込む身体が悲鳴を上げる。
声を上げ、涙を流し、コレが限界だと、コレには何も意味は無いと、無意味でしか無い事なのだと…
其れは身体があげた悲鳴だったのか、それともココロがあげた悲鳴だったのか……最早今の私には計りかねる事だ。

だが、確かに私はこの時シロウを感じた。

腕の中に、身体のナカに、心の中に、
彼を一番近い存在だと見ていた筈なのに…


……どうして今はこんなにも遠いのだろう…?


貴方の背中が遠退いていく

走っても走っても、追い付けない

どんなに触れようともがいても届かない

走って走って走って走って…

声を上げて名を呼んだ

私は此処だと、彼の名を呼んだ


『ーーーーーーッ!!!』


それでも結局それは声にならなかった。
肺が取り込める酸素が無くなり、声が枯れた
視界も霞んできた。
嗚呼…本気で不味い……っ
身体は寒くもないのに小刻みに震え、呼吸が止まる。心臓がゆっくり、ゆっくりと音を立て無くなったのを聴きながら…

私は願う。


『ーーーもう一度彼に逢いたい』


と……

それをただ、叶わぬ夢だと割り切れたらどんなに良かっただろう…
口元に笑みが浮かぶ、それは無意識の内に出た失笑の笑みだった。私は重く持ち上がら無い腕に最期の力を振り絞って、空へと手を伸ばした。

どうかこの想いが届けばいい…
彼に届いて、私に届いて…
悲しみの輪を断ち切る様に…

二度と同じ過ちを繰り返さ無い為に…


ーーーー彼を独りにしない様に……


私は願う。

自身の残り僅かなイノチを削りながら、掌へと魔力を集中させ、1羽の鳩を現出させた。
その輪郭は朧げながらもしっかりとしていて…私はその鳩に自身の魔力と記憶、想いを込め

……空へと放つ…

彼に届いて、私に届いて…

願いを乗せた鳩は空高く登り、やがて見えなくなった。
自身の翼で強く羽ばたき、飛んで行き、見えなくなった鳩に安堵した私は、


ーーーーそこで息絶えた。


彼に届いて、私に届いて、


短い間だったけど、貴方と居れて幸せでした。
(ごめん…なさい…っ)

至福の刻をありがとう…
(ごめんなさい、ごめんなさい…)

今しばらくは貴方とは居られそうに無いけど…
(貴方を独りにして仕舞ってごめんなさい)

私は幸せでした。
(貴方を守れなくてごめんなさい)

貴方と居られて、幸せでした。
(貴方を……
  …愛せなくて…ごめんなさい…っ)


後悔や失意、嘆きは全て捨てた、置いてきた筈なのに…私の言葉の裏にはその全てが込められていた。

エミヤ シロウを愛し、果てた女・・・

その生涯の全ては彼に捧げられ、
彼を見、愛したその瞬間から…
…彼女は全て彼のモノだったーーーー。

彼に届いて、私に届いて…

叶わぬ願いと知りつつも、
見果てぬ夢の終わりだと知りつつも、
彼女の魂は独り、祈りを捧げる。
ーーーただ独り、愛した男の為に…

二度と再び彼を独りにしない様に…彼女は独り、叫び続ける。ただ独り…剣の丘で、夢を見る。


ーーーー彼に届いて、私に届いて


彼女はきっと…
彼に想いを告げる為、また巡るだろう…

【運命の輪が動き出す】

彼女の想いを乗せた夢- 鳩 -は、刻を越え、時代を越え、己と出逢う。

【歯車は軋み、悲鳴を上げーーー今、漸く産声を上げる】

きっとそれは辛く長い闘いになるだろう。
それでも彼女は己のイノチを掛けて、彼を救済へと導く
ーーーその先に彼の未来が在ると信じて…
『愛している』と素直に伝えられたなら、どんなに良かっただろう。


ーーーーそこで“私”は目が覚めた。


「う…つっぅ……あれ?此処は…?」


見渡すと見慣れた空間だった
今まで見ていたのは何だったのか…アレは本当に私なのか…等と疑問に残る事は幾つかあるが、まず1番に、


「ーーーーキモチ悪い…っ」


吐き気がする程の胸の滞り、アレが嘘にしろ誠にしろ、アレではまるで自身の死を臨死体験した様なモノだ
嘔吐しそうになり、俯いたところで足元にある魔法陣を確認し、ハタと思い出す。

ああ…そうだ、
私、サーヴァントを呼び出そうとして…

自身が眠る前の記憶が蘇って来る。

そうそう…、私はまたまた今回起こる聖杯戦争に参加しようと、サーヴァントを呼び出していた筈だったのに・・・

何故か目の前に現れたのは1羽の鳩でーーー


今思い出しても不思議で仕方が無い。何故、サーヴァントを呼び出した筈なのに現れたのは鳩だったのか…何故呼び出した鳩が私目掛けて突進してきたのか……やはり疑問は尽き無い。
先程夢で見た鳩と何か関係がある様な気がするが…


「ーーーーーうん、でも分かんないや」


結果はそれだ。今考えたところで何も解決しないならば、今考える必要は無い…そーゆー判断だ。
あ、でも、ひとつだけハッキリした事がある。

『私、絶対あんな痛い死に方はしたく無いっっっ!!』

コレに限る…!まあ、先程の夢…もしくは召喚した鳩のおかげなのか、自身からは言い知れぬ魔力の高まりを感じる様になった

今までに感じた事の無いような強い魔力…

自身の手のひらを凝視しながら、ニギニギと開いたり閉じたりを繰り返してみる。見た目では何も分からないのに、確かに奥の方で何かしらの熱が灯ったのが分かる…

……この聖杯戦争で使ってみようかな?

等と少しばかり物騒な事を考えながら、今日はもう面倒くさいからこのまま此処で寝てしまおうか…と起き上がったばかりなのに、またゴロリと寝転がった。


その数日後…

私はこの力の意味とあの記憶の内容を理解する。


嗚呼…そうだったのか……

私は貴方に出逢う為に、此処まで走ったのか…

走って走って、

走り続けて、私は追い付けただろうか…?

You know that? - 貴方は知っている? -


『…名前』


そう優しく名を呼ばれるだけで、そう優しく触れられるだけで…
私がどれだけ救われたか、私がどれだけ走れ続けたか…どれだけ私の力になったか……

…きっと貴方は知らないだろう。

それでも私は、知っていた。貴方に惹かれる想いを、貴方に焦がれる想いを、貴方を想う私をーーー貴方を好いて仕舞った愚かさを…

それでもそれでもと必死で自身を取り繕って、必死で偽って走ったんだ、

息が切れるまで貴方を探した。


ーーー彼に届いて、私に届いてーーー


例え此処が泡沫の夢だとしても、私は貴方を見つけた。いや、見つけて貰ったのかな…?
最早此処が儚い夢でも、淡い現実でも、どちらでも良いどちらでも構わない。

……ねぇシロウ…ねぇアーチャー…

もう一度だけ、共に走っても良いですか?

もう一度だけ、触れても良いですか?

もう一度だけ…

ーーーー好きになっても、良いですか…?


瞼が震え雫が零れた。

コレは誰の涙なのか、私には、分からない。

ただただ私は…

私は、この現実を【あの夢】にはしないと誓う


ーーーーこの夢の先を今度こそ共に夢見る為に、私はまた走り出した。

彼に届いて、私に届いて…

この想いを夢-過去-なんかにしたくは無いから…

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此処で見た夢は【自身の死の間際】
前作で見たのは正確には【赤弓の固有結界、赤弓の懺悔】がメインでした。



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