手のひらの熱


赤弓夢、士郎幼馴染み設定。



指先から貴方の体温が伝わって、切なくなった
近付いた距離から熱を感じて、私の熱と混ざり合う

その度に何度願った事か…

その度に何度

ーーー離れ無いで、と祈った事か…

触れて体温が伝われば切なくなり
近付いて熱を感じれば混ざり合った

嗚呼、お願い…お願い熱よ…

ーーーー私に貴方の熱を残さ無いで…

そしたらきっと別れが寂しく無くなるから…



*手のひらの熱*



放課後…日が傾き空が茜色に染まり、そろそろ日没が近くなった頃
私は運悪くも担任の先生に目を付けられ、頼まれ事をされてしまい遅くまで教室に残っていた。
頼まれ事と言うのが明日生徒に配るプリントの枚数整理だった。なんでも全員分あるか確かめて欲しいのだとか…
そんなもん生徒会とかに頼めよ…と内心思ったが、穏便な学園生活を送りたい私は(若干引き攣った)笑顔でその雑用仕事を請け負った。

請け負ったのは良いんだが…
なんじゃこの数…異常じゃないのか…

そのプリントは10枚一組と言うとんでもない枚数で…修学旅行のしおりじゃないんだから、どう考えてもこの数は可笑しいだろう
ハア…とため息が出そうになるのを我慢して手元に集中する。


「……こんな事なら士郎も巻き込んどけば良かった…」


ポツリと呟いた自身の言葉に私は苦笑いを浮かべる。
今頃彼はくしゃみをしているだろうか?
その様子を想像してつい笑ってしまった。あ、士郎といえば……


「そう言えば今夜は家で食べようって言ってたっけ…悪い事しちゃったなー」


チラリと時計を見れば6時を回りそろそろ7時になろうとしていた。
うん、無理だ。
この様子だと7時は有に回り、帰りは8時になるだろう…士郎には悪いが今日は終わったらこのまま家に帰り、明日ちゃんと謝罪しよう。

理由を話せば分かってくれるさ、だって彼も良く頼まれ事で帰りが遅くなっている常習犯なんだから……

- - - - - - - -


「やあ〜っと、終わったーー!!!」


全てのプリントを束ね終えると、私はうーんっと思いっきり伸びをした。
思ったより時間が掛からなかったかな…

8時過ぎにはなるだろうと覚悟はして居たが、終わったのは7時半ちょい過ぎ…今から急げば間に合うかもしれないが、こんなギリギリに行ってもきっと迷惑だろうと、その思いはアッサリと切り捨てた。
これから帰って独り寂しくご飯食べよう!
うん、きっとコレが一番最善の策だ。
士郎や桜ちゃんの美味しいご飯が食べらないのは非常に残念で有り、勿体無いが、向こうに迷惑を掛けるよりはマシだろう…

私はそう思うや否や、サッサと自身の荷物は纏め帰り支度をする。
明日この大量のプリントを先生に朝イチで届けるだけで、私の任務は無事終了する。



「…あ……」


校門のところまで行くといつも見知った後ろ姿があった。
腕を組んで目でも瞑っているのだろうか?頭は少しだけ俯き気味だ…

『見慣れた後ろ姿』

そう言って良いのか不明瞭ではあるが、どこと無く哀愁漂う雰囲気に当て嵌めるとするなればその言葉が的確なのだろうなと独り言ちた。
しかし、
私はその背後姿を凛ちゃんと居る時等に遠目からしか見かけない、それに彼とはあまり話しもしないから、この言葉がこの友好的な表現が正しいのか私には分からない。
だけど、私はこの背中に何処か近しいモノを知っている気もする……気がするだけなのだが、それが何なのかは不明はままだ。

もっと彼と話したり関わったりしたら解決する事かもしれないが、彼は彼自身が近寄り難い雰囲気を醸し出していた。
なんと説明すればいいのか難しいところではあるが、取り敢えず彼は常に誰かと居ても、何をしていても何処か独りで居る様なそんな雰囲気だった。
だから私はそれに甘えて自身から話し掛けようとはしなかった。
するならば凛ちゃんを介して話をする程度かな…

ふむ…と顎に手を当てひとり思案しながらその背中姿の主を見詰めていると、呆れた様な声音で彼方さんからお声が掛かった。
あ、なんだやっぱり気付いてたんだ…


「何時までそこでそうして居るつもりかね?」


なんとまあ上手く厭味の掛かった言葉だ。
凛ちゃんから「良い奴だけど厭味な奴」と言われているから気にしず右から左に流した。
事前知識とはなかなか役に立つものだな


「今帰ろうとして居たところなのでお気になさらず、ではさよなら」


そう言いながら彼の横を通り過ぎ様としたところでガシリッと捕まった。逞しい腕に捕まってしまった。何なんだ一体…こちとら帰るつってんのに……
訝しげに彼の顔を見上げれば冷静な呆れを宿した様な瞳とかち合い、そして一言


「君が向かうべきは其方では無いと思うがね?」


スッと目を細め人を威圧するかの様にジリリと一歩躙り寄られた。
只でさえ私より大きいのに、躙り寄られると更に大きく見え背筋を良く分からない寒気が走った、多分これは彼を恐ろしく思ったからなのだろうか?
いやしかし、私は彼の何を恐ろしく思ったのだろう?瞳?仕草?視線?態度?雰囲気?表情?
分からないけれど、私の中で何かが警鈴を鳴らす
ーーー彼に近付き過ぎるな…と
ーーー痛い目を見るぞ…と
分からない、分からないけど、私は酷く特に寒くも無いのに震えたのを覚えている。

そして、極め付けに私の行くところはそっちでは無い宣言、コレはもしや……
私は彼の言葉を否定をしようとしたが、素早く彼の言葉が私の言葉の前に割り込み私の声を遮断する。遅かった…


「いえ、あの、私は…」

「ハァ…無駄な気を使ってやるな。アレはアレで君が来るのを楽しみにして居るんだ」


そう言いだしたかと思えば、彼は掴んだ私の腕をスルリと下り、私の二の腕から掌へと指先を移動させたかと思ったら、キュッと彼の指と私の指が絡み合い……こ、コレは…もしや…っ

間違いない!間違いないぞ!!

彼は私を衛宮邸まで移送しようと言うのだ、ふざけるな、私はこれからひとり家へ帰ってひとり寂しく大切な観賞植物に水をやり、ひとり寂しく趣味を満喫した後、ひとり寂しく夕飯を食べるのだ!!
衛宮邸まで行ってしまったら士郎や桜ちゃんに抱っこにおんぶで甘えたい放題お言葉に甘えてしまうでは無いか!!それこそダメ人間の始まりでは無いか!!!
これでは彼等に迷惑が掛かる!!!
や、やめろ!止めてくれ!!私を衛宮邸と言う暖かい場所へ…っ独り身ホイホイへと連れて行かないでくれぇ!!!

そんな私の必死の葛藤も虚しく、絡まった指先は緩まる気配を見せないまま、彼は私の腕を引いて歩き出した。
私はと言えば、幾ら両手を用いて彼の絡まった指先を解こうと四苦八苦したが、男と女、歴然とした力の差があったが為に、逃れるのを諦め仕方がなく彼に付いて行く事にした。
そして、そこでハタと気付く…

…あれ?この繋ぎ方って謂わば【恋人繋ぎ】では無いですか??

ーーーって。


「〜〜〜〜〜〜っっっ」


赤面し慌てて彼の指先を引き剥がそうと試みるが、結局無駄骨に終わった。
ああ、嫌だ…意識したら手汗が出てきた…
チラリと伺う様に顔を見上げたが、アーチャーさんは何事も無いかの様に涼しい表情で私を引っ張るのみだ。

結局そのまま、流される様に彼に手を引かれて歩く
別に何か話すでも無くただただ無言、ふたりの足音だけが薄暗くなった辺りに響き渡るのをBGM変わりに私はボーッと何を考えるでも無くただ無感情に彼の背中を見つめ続けた。
そして、また気が付いた…


「(……あ、歩幅…合わせてくれてるんだ)」


と、本来なら私よりも背が高く歩幅だって足だって広く長い彼ならば、普通に歩いたなら私より十二分に早い筈だ。
それをわざわざ彼よりも背が低く足も短い私に合わせてくれてるのだから、周りへの配慮や気配りが上手い人なんだなと好感を持ったのは言うまでも無い。

そして、ついその気配りが嬉しくてニヤリと口元が緩んでしまったのを自覚しながら、キュッとアーチャーさんの指に自身の指先を絡める力を強くした。微熱が伝わる。


「?」


それに「どうした?」「何かあったのかね?」と視線だけで問い掛けてくる彼に、「ありがとう御座います」と素直に微笑んだのだった。
その言葉の意味が分からない彼は更に頭の上に浮かべる?マークを増やしながらに「…そうか」とそっぽを向いてしまった。
気に触ることでもしてしまったのだろうか?ああっ、もしかして私の手汗に気付いたのだろうか!?


「あ、あの…っすみません!!」

「は…??」


御礼を言ったかと思ったら直後謝罪をする私を不審に思ったであろうアーチャーさんがますますこの子が分からないと言った声を上げ、此方を二度見程した。


「い、いえ、あの…その、手汗が、ですねぇっ」


私自身も言い出したは良いが、羞恥心と説明しなきゃという焦りで言葉が上手く出てこない。
しかし、アーチャーさん自身が優秀だったからなのか、私のたったそれだけの焦りのみが滲み出た言葉で何が言いたいのか大体を把握してくれた。


「ああ、その事か…別に気にするでも無いと思うがね。私だってこう見えてかなり緊張しているのだから…」


などと少し戯けた調子で言っても説得力なんてありませんよ。


「何より私が勝手に繋ぎたいと思ってしているだけなのだから…本当に君が気にする事ではないのだよ」


刹那、寂しげな瞳と微笑みで彩られた彼に目を奪われた。
ーーーどうしてそんな顔するの?
貴方から視線を外す事が出来ない


「ほら、あの小僧が首を長くして待っているぞ?」


自然な仕草で繋いだ手を引かれ、貴方の隣を歩いた。
たったそれだけの行為で縮む二人の距離、布越しに伝わる貴方の熱に、指先から伝わる貴方の体温にトクンッと胸が高鳴った。

嗚呼、いやだ…

有りもしない期待を抱いてしまいそうになる。

嗚呼、いやだ…

好かれているのだと、貴方を好いているのだと錯覚しそうになる。

嗚呼、いやだ…っ

優しくしないで欲しかった。
気遣いなんてしないでくれれば、優しくしないでくれれば、手なんて繋がなければ……私はこの想いに気付かないで要られたのだ。

また、手汗が出てきた。
一回離して手を拭いたら良いのではないか、と思う程には溢れていたと思う。

それでも貴方は手を離してくれなかった。

それ以降にも「手を拭きたいから離して欲しい」と帰り道数回頼んだ筈だが、アーチャーさんは聞き入れてくれなかった。
なんでも「君は直ぐ逸れ、迷子に成るからダメだ」とか……私は子供かっ!!

色々とツッコミを入れたいところではあるが、この一件で少しだけアーチャーさんとの距離が近付いた気がする。
少しだけ仲良く慣れた気がする。
今度こそ貴方の後ろ姿を見たら、きっと『見慣れた後ろ姿』と胸を張って表現出来るだろう。


指先から体温が伝わって切なくなった


衛宮家に着いたらこの温もりを離さなければ成らないと思うと少し、ほんの少しだけ…

寂しいと、

離れたく無いと、

離れ難いと、思った。


それはきっと貴方がーーーー





Back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -