怒るのは心配の表れ


赤弓甘夢、赤弓マスター設定。


*怒るのは心配の表れ*



「何故あんな危険な真似をしたマスター!!」

「……っ」


いつもの厭味ったらしい皮肉も、冷静さを欠いた明らかに怒気を含んだその声音に私の身体は無意識に反応した。


「聞いているのかマスター!!」

「っ……」


普段より眉間には幾つも深い皺がより、その瞳は炎の如く激しかった。
私はその気迫に押されてなのか、自分の行動による後ろめたさからなのか、目の前で怒鳴るこの男に反論出来ないでいた。
言葉が上手く出ない、と言った表現の方が正しいだろう…

目の前の男、アーチャーがこれ程まで怒るのには訳がある。
それは先程の私の軽率な行動による怒りだった。

私は先程の戦闘でアーチャーを庇った。
いや、本人の意見としてあれは援護だったと言いたい所であるが、アーチャーからも、そして相手からも、私の行動は彼を庇う行為に見えたのだろう…。
そして何故庇ったかと言うと、彼が敵サーヴァントと戦闘をしている間に彼の背後(死角)へと相手マスターが不可視の魔法を与えようとしていた為で…

私はそれを防いだに過ぎないのに!!
なのにどーして、せっかく助けたアーチャーからお叱りの声を受けなければならないのか!!?
不憫だ!理不尽だぁ!!!

とまあ、こんな所で今に至るのですが…
本当にどうして助けたのに私がこんな目に遭わなければいけないのでしょう…。


「はぁ…」


無意識に出たため息にアーチャーがピクリと反応する。
あ、ヤバい…


「……私の話しを聞いていたのかね?名前」


『聞いてたよ!ちゃんと聞いてたって!!
ああ、だからそんな蔑んだ様な目で見ないで下さいよ…』

なーんて反論したところで返り討ちに合うのは目に見えてるので、絶対口にしませんけどねっ!!


「……」

「…名前?」

「……っ…」


黙って俯いていたらアーチャーに顎を掴まれ上向かされた。
嫌でも瞳がぶつかってしまう
吐息が近い、唇が触れそうだ…


「名前…」


また名前を呼ばれた。
今までの様な怒りを露わにした口調では無く、甘く切ない、囁く様なしゃべり
まるで睦言のようだと勘違いしてしまいそうな…それ程の甘さを含んだ口調だった。


「アーチャー…っ」

「分かってくれ、私も好きで君を咎めている訳ではないんだ…」


そんな事、とうの昔から知ってる。
アーチャーが何で怒ってるのかも、アーチャーがどうしてそんなに焦っているのかも…アーチャーが何故そんな切なそうな表現をしているのかも……

全部…全部知ってるから…っ


「………だけど…っ」


私は小さく呟いた。

分かってる、知っている、理解している…だけど、頭はそれを分かっていても、知っていても、理解していても、心はそれを拒否してしまうから……

彼は私の呟きに眉毛を潜めた。
だけど私の意見は聞いてくれるらしく、何も言わない。
私はそれを見とめると、堰を切ったかのようにアーチャーへの不満や怒り、想いを爆発させた。


「アーチャーの言いたい事は分かるよ!理解してるっ!危ないから危険だから前に出てくるなって戦闘に介入するなって!!」

「……名前…」


アーチャーが切なそうに名前を呼ぶが、今の私には届かない。
耳に入って来ない。


「でも、それでもっ!!私はアーチャーのマスターなの!!危険だからって危ないからって、その危険な戦闘を全部アーチャー独りに任せて私だけ安全な場所で見てる事なんて出来ないのよっ!!!!」


知らず知らずの内に瞳から涙が溢れ出た
それは溢れ、頬を伝い、床を濡らしてゆく…


「アーチャー独りだけ危険な目に合わせられないよ…だってアーチャーは私の、私の大切なパートナーなのに…っ
もう、見てるだけは嫌っ!置いて来ぼりは嫌なの…っ」


いつの間にか顎を支えていた掌は無くなり、その両腕が私の背中に回っていた。
私はアーチャーの胸元に顔を埋める形で、アーチャーへの様々な想いを口にした。


「独りで格好なんて付けないでよ…バカッ
独りで全部背負おうとなんてしないでよ…っ」


私もアーチャーの背中へと腕を回し必死にしがみ付いた。
こうでもして居ないと、彼が何処かへ行ってしまいそうな気がしたから…


「ツラいなら話しを聞くから、重いなら一緒に背負うから、痛いなら側に居るから…だから、だから…っ独りで何もかもしようとしないでよ……っ!!」


自分が何を口走ってる、言っているのか、分からなかった。ただのアーチャーへの不満か、それともただのアーチャーへの愚痴か…、今の私には考えられなかった。

ただただ、アーチャーへ思った事を、感じた事を言い募っただけなのだから……


「好きだから、大好きだからっ!ずっと側に居てよっ!!離れないでよ…っ!!」

「……っ」


その言葉を発した途端アーチャーの腕に力が加わったのが分かった。
ギュッと強く抱き締めてくれる腕に、私の心もギュッと締め付けられた。


「……好き、好き…っ大好き…めちゃくちゃ好き、とっても大好き、可笑しくなりそうなくらい好き…ずっとずっと大好き…っ」


「だから……」とアーチャーの胸に埋めていた顔を上げて、彼の瞳をジッと見詰めた
彼の瞳に映る私は、きっと涙で顔がグチャグチャで、惨めで情け無いと思う…

でも、今言わなきゃ一生言う勇気なんて出ないと思ったから、

今言わなきゃ一生彼に伝えられないと思ったから、

私はアーチャーを見上げてハッキリ言った。
ああ、また唇が触れ合いそうだ…。


「ーーーだから、アーチャー私とずっと一緒に……んっ!?」


全て言い切るよりも私の言葉は塞がれてしまった。
彼の優しい唇によって…


「ん…ふぅっ…んんっ!」

「んっは…っ」


息苦しくて、酸素を求めて唇を開ければそれを見逃さなかった彼の熱い舌が、スルリと滑らかな動作で滑り込んで来た。


「ん…っふぁ…っ」

「…っ名前っ」


少し掠れた色っぽい声音で呼ばれれば、ゾクリと背筋が震えた


「……っァ…んぅっチャ…っ!」


荒い息継ぎの間で彼に応える様に名を呼べば、私を抱き締める腕の拘束がまた強くなった…気がした。
私は彼の巧みな動きについていくのと、酸欠でいっぱいいっぱいだったから、ハッキリとは分からないけど…

唇が離れた時には、私は最早立っていられなくて肩で荒い息をしながら彼に身体を預けていた。

な、なんと言うか…
あの、その…かなり凄かったです…っ

顔を真っ赤にしクタクタになった私を彼は抱き抱え、近くにあったソファーへと横たえた。
私は『あれ…?これはひじょーにマズいんじゃないのか…??』と頭の端っこで思いながら、酸欠で動けない身体はそのまま横になっていた。


「ア…チャ……?」


荒い息のまま彼の名を呼んで、彼に視線を送れば丁度私に覆い被さってくるところだった


「ちょ…っアーチャー…っ!?」


私はその行動にギョッとして動こうとするが、それは彼の腕によって阻止されてしまう。


「ちょ…っとっ、ダメだって!!アーチャー…っ!!!」


モガモガと暴れてみるが、そんな事で彼はびくともしない。


「…っん…っ!」


するとまた彼のキスが降ってきて…
でも、そのキスは先程の激しい濃厚なモノでは無く、本当に触れ合うだけの優しいキスだった。


「ーーー本当に…君には、いつも手を焼かされる…」


唇が離れた途端、そう甘やかに囁かれた。
荒い息のまま彼を見上げれば彼は眉を下げ、困った様に笑いながらしかし何処か嬉しそうに、何処か熱っぽく見詰めてくる。


「アーチャ…?」

「シーッ…」


名を呼ぼうと唇を開けば、彼の指で優しく制される
その指が掌が、スルリと唇を離れ、流した涙の跡を辿る様に目元から頬、頬から顎へと移って涙を拭ってくれた。

私はなんだかその動きが壊れ物を扱ってる様でくすぐったくって、つい笑ってしまった。


「ふふっ…アーチャーくすぐったい」

「そうか?それは失敬…」

「ううん、大丈夫。寧ろ嬉しいよ…」


私ばかりが優しくされてるのが気に食わなくて、私も彼の頬に手を伸ばした
頬を撫でても抵抗される事はなく、彼は成されるがままに成っている。


「……私はまた、君に先を越されるところだった…。」

「え…??」


彼の言った意味が分からなくて、瞳を見詰めればとても真摯な柔らかい視線が送られている


「先程君が言い掛けた事だよ…」


と言われて1番に思い出したのが、先程の熱烈なキス……一瞬で顔に朱が集まったが、ブルブルと頭を降ってその思考を追い出した。
そしてそれ以外だとすれば、考えられるのはその一歩前の事だった。


「あ…」


小さく呟き、思い当たる節を思い出せば、彼はクスリと笑った。


「女性の君に先を越されては、男として恥だからね…。私に言わせてくれるかね?」


そう問われても私には彼の言わんとしている事が理解出来なかった。
いや、だって…あの時は、その…勢いと言いますか?ついつい口から本音が滑ったと言うかですね…そんなところだったんですけど……
ってか恥って何ですか?アーチャーさんは何が言いたいんですか??それはどんな意味が込められてるんですか???

軽く混乱する私を他所に彼はニヤリと口元を歪め、耳元に口を寄せて言った。


「無言は肯定と、捉えていいのかね?」

「…ぇ…?」

「まあ、あれだけの熱烈な告白紛いの事を言って貰ったんだ…否定はさせないし、私も、それ相応の礼儀を持って問うよ…なぁ名前…?」

「へ?え…?え??」


あ、ダメだ…頭が混乱し過ぎて考える事を放棄してしまった……。


「…名前、ずっと私と一緒に居てくれるかね…?」

「………っ」

「いつ如何なる時も君と共にあり、君を守ると誓うよ…だから、名前……」


ーーー頷いてくれーーー


そう耳に甘く優しく囁かれれば、私は涙で前が見えなくなった


「フッ…君は本当に泣き虫だな」


彼はそんな笑いと共に優しく目元を親指で拭ってくれる。
嬉しくて嬉しくてそれだけでいっぱいいっぱいの私は返事を返す事も、頷く事も出来なくて彼が困った様な嬉しそうな声音で「やれやれ、これでは君の返答が分からないな…」と茶化されて、私は全力で大声で答えた。


「アーチャー!ごっ、こんな私で良ければ、貰って下さいっ!!!」


そう言えば彼は笑顔で


「了解した、全力で君を幸せにするよ」


と言われた。今でもこんなに幸せなのに、これ以上幸せになったら確実に死んでしまうのでは無いか…と笑いそうになったのは言うまでもない。

怒るのは心配の現れ…

貴方が怒るのは私を本気で想ってくれているからって知ってる。大切にしてくれてるからって知ってる…でも、それでも、私は貴方を失いたく無い。

我儘だって分かってる
唯の独りよがりだって分かってる

でもね、貴方を失ったら私は…
私の想いは如何すればいいの…?

きっと私は壊れてしまう。だって貴方の温もりを、貴方の優しさを知ってしまったから…
知らなければ良かったなんて後悔はしない。
貴方に触れて知る事が出来た感情や、貴方を想って初めて理解出来た事が沢山あるから…

貴方に貰った沢山の大切なモノが、ココにあるから…

だから私は、貴方を失わない様な選択をしてしまう。例え貴方が怒っても、例え貴方が泣いても、例え私が死んでもーーー

ーーー貴方だけは失いたく無いから…

そうなら無い為に、2人で力を合わせようよ…?
足手纏いでも良いから、全力で戦うから、だからだから……

貴方は掛け替えの無いただ一人の人

私が愛したサーヴァント

お願い何処にも行かないで

ずっとずっと一緒に居て、

ずっとずっと私を愛して…


貴方を失わ無い選択を私は必死に模索するーーー

*******
前HPに此処には無いもう一つのendみたいなモノが有りますので良かったらそちらもどうぞ…
(※色々な理由でボツになった終わり方です)


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