Blooming in the rain flower


赤弓夢、士郎幼馴染み、凛親友設定。
※書き上げるのにかなり間が空きましたので、夢主ちゃんの口調が前回と違うかもです。
余り分からないと思いますが、一応。



今日は雨。


…雨は…苦手。

だって雨は冷たいから、

だって、雨が冷たいと、

貴方の体温を、暖かさを、熱量を、意識してしまうから……


今日も冷たい雨が降る。



*Blooming in the rain flower【雨に咲く華】*




二人で並んで歩く中、視界の端をこんな憂鬱になりそうな薄暗い空模様にも、冷たい雨に負けずに、鮮やかに咲く紫色を見つけた。


「アーチャーさん紫陽花の花言葉って知ってます…?」

「…どうしたんだね、いきなり?」

「いえ、なんと無く目に留まったから…なんですけど…」


そう笑えば、彼は「ふむ」と考える素振りをする。

今日は雨

たまたま傘を忘れた私は、幼馴染みの士郎に助けてもらう寸前のところで親友の凛ちゃんに士郎を奪取され、凛ちゃんが手配してくれたアーチャーさんに送って貰っている最中だ。

そして何とも恥ずかしい(…いやいや不可抗力なのだが)事に、私は今アーチャーさんと相合傘をしている。
からして、照れて無言の気不味い雰囲気にならない様に必死に見付けた話題がそれだった訳でして……今に至ります。


「花言葉…か、……生憎と私は其れ等類いのモノに疎いからな、是非宜しければ教えて頂けないかね…?」

「………っ」


至近距離で、しかもそんな風に微笑まないで欲しい…何と無く今の現状の恥ずかしさが込み上げて来てーーー頬に熱が溜まる。


「あ…っとっ、それは、ですね……」

「…っ危ない!」

「…え?……っぅ!?」


花言葉を説明しようとした矢先、道の真横(歩道と言えるちゃんとした歩道のない狭めの道)を大きめの車がかなりのスピードで通って行った。
それを察知したアーチァーさんは水溜りの飛沫が当たらない様に抱き寄せて庇って下さったのだ。

勿論、車道側を歩いていたのはアーチァーさんで、私は壁際である。まあ、それは必然的に彼の胸元…基とても逞しい身体に抱き込まれる形となりましてぇぇ……
私は余りの事態に脳みそは完全にフリーズ、顔には更に熱が集まり、身体は言う事を聞きません。


「ふぅ…この様な狭い道路で、しかも通行人が居るにも関わらずにあの様なスピードで走るとは…、常識外も良いところだな…」


彼はそんな事を言いながら、通り過ぎて行った車の方を睨んだ。
あ…この顔カッコいい…
鋭く尖った鋭利な視線、厭味を吐く口元は何処か歪んでおり、眉間にはクッキリと皺が刻まれている。


見惚れて居たら目が合った。


至近距離で「どうした?」と囁く唇を見つけて仕舞って更に顔に熱が集まる。

お、落ち着け、落ち着け自分…っ!
アーチャーさんはただ私を庇って下さっただけじゃないか!!それなのに何故照れて意識せねば成らんのだ!!平常心、平常心だぞー自分…!

そう自分に言い聞かせながら、彼の胸元に手を添え、火照った顔を逸らす様にしながらお礼の言葉を述べる


「あ、ありがとう御座いました。あの、も…っもう大丈夫なんで、その…っ」


『離して頂けますか…?』

そう言おうとしてつい…口を噤んで仕舞った。
助けて頂いたのにこの物言いでは失礼では無いか、しかし今の状況はかなり恥ずかしいから距離を置きたいのも事実、私はどうすれば良いのか……と、遠慮して気を遣って恥ずかしくて、その結果私は口をつぐむという行為に移った。
悶々と次の言葉を考えていると、不意に彼の指先が頬に触れた。


「…え…?」

「君は…濡れては、居ないかね…?」


濡れても居ないのに私の頬を拭う様な仕草をする彼、条件反射的に頬に触れられた瞬間驚いて上を、彼の顔を見てしまった。
瞬時に私はそれを後悔する…
胸が締め付けられる様な、何処か切なそうな瞳の中、奥に深い深い触れた瞬間火傷してしまいそうな凶暴な熱を見付けたからだ

近い距離、至近距離で見詰め合って、2人だけの傘の下、頬に手を添えられ、熱の籠った視線を受け、況してや一滴の雨にも濡れない様に完璧な気遣いをされ…

ーーー勘違いしない人がいるだろうか?

頬に熱が溜まるのは仕方の無い事だと思って欲しい
だってこんな格好いい人に此処までされて、意識し無い方が難しいのだから…


「名前…?」

「……っ!」


優しく労わる様に名を呼ばれ心配そうな視線に息を呑む
見惚れていた、なんて正直に言える訳がなく「だ、大丈夫です!ありがとう御座います!!」と言いながら慌てて視線と顔を逸らし、彼との間に距離を作った。だがしかし、ここは狭い傘の中、彼との間に作れるスペースなんて限られていて、どんなに離れようとしてもそれを彼が許してくれる筈が無いのだ。
「大丈夫かね?」と心配そうに覗き込んでくる彼の顔がまともに見られない。
離れようと一歩、ワザと横にずれたら、「濡れてしまう」と肩を抱かれた。

嗚呼…お願いです。お願いします。

もう止めて下さい。もう許して下さい。
アーチャーさんと視線が合う度、触れ合う度、心臓がドキドキと激しく脈打って破裂しそうなんです。
きっと私の死因はアーチャーさんの所為で、心臓麻痺でも心臓破裂起こすんじゃ無いかと変な予想をしてしまう程に、胸が高鳴っているんです。


泣きそうになる。


貴方を好きだと自覚した途端、上手くしゃべれる事が出来なくなるなんて…我が事ながら情けなく思った。
彼の顔を見る事、笑う事さえままならないのだ。

無言では何かと、せめて俯きながらでも良いから話そうと、先程話した話題を蒸し返す事にした。


「…っと、その、先程の話の続きなんですけど…」

「ああ、花言葉であったね」

「え、ええ、そうです!花言葉、紫陽花の花言葉なんですけどね!!」


頭を別の方向へ持って行かねばと、必死に成り過ぎて変に力が入っている気もするが今はそんな事言ってられない。1度頭をリセットしなければ…
それに、事実、紫陽花は私が好きな花なのだ、熱が入ってしまっても何ら問題は無い。恥じるな。頑張れ。


「紫陽花の花言葉には大まかに三つあるんです。土のアルカリ性や酸性に寄って色を変える事から『移り気・浮気性』などと言ったネガティヴな花言葉が有ります。かと思ったらその花達の集まる容姿から『仲良し・団結』と言った花言葉が…コレだけでイメージや言葉の意味が180度変わってきます。」


身振り手振りを加えながら一生懸命説明する。


「そして最後に、花が雨に打たれる様から『辛抱強い愛情』と言った花言葉もあります。一重に花言葉と言っても無数に存在しているのです。その代表が薔薇かもしれないですね、薔薇は色で花言葉を変える物ですから…」


そこまで話切ってハッと我に帰る。
アーチャーさんが何処か眩しいモノを見る様な、生暖かい表情で微笑みながら私を見詰めていたのだ。


「ああ、それで…?」

「あ、えっと…その…っ」


また、言葉に詰まった。
心拍数が跳ね上がり、息が詰まる。
上手く言葉が出てこない。
……顔が、熱い…


「……っし、『辛抱強い愛情』ってなんだか、ア、アーチャーさんみたいだな、って…」

「私、が…?」


私が放った言葉を聞いてアーチャーさんが珍しくキョトンとした顔をしている。
うわぁ…こんな顔初めて見たけど、やっぱりイケメンはどんな顔してもイケメンなんだ……
って、うああぁあぁぁ…っ?!!
わ、私は何を口走ってるんだぁぁぁ!!?


「や、あの…っち、違うんですよ?!えっと、その、変な意味で言った訳じゃ無くてですね、あの…っですねぇ!!」

「ああ、怒りはしないから、一旦落ち着いたらどうかね?」


わ、笑われた…アーチャーさんに笑われた…
己のショックなのか、許されてホッとしてるのか、初めての顔が見れて嬉しいのか悲しいのか良く分からない感情を抱きつつ、ひとり必死に深呼吸をする。

嗚呼…絶対変な子だって思われた…。

泣きたい気持ちを抑えながら、やはりひとりで必死に高鳴る心臓を鎮めようと奮闘する私はきっと側から見たら変人だ。


「はい、すみません。えっと…そ、それでーーーー」


気を取り直して、貴方の顔を見上げると、貴方の顔は先程と同じ様に、何か眩しそうなものを見るように目を細め、嬉しそうに目尻を下げながら微笑んでいた。

ーーーードキッ

と、その顔を見て一度静まった筈の心臓がまた騒ぎ出した。



シトシト…シトシト…雨が降る。


雨の所為で外気が冷えて寒くて、密かに雨が当たり濡れた太ももが、指先が冷たくて、

でも、反対の、貴方に触れてる掌は、貴方に触れてる箇所は火傷をしそうな程に熱くて、


嗚呼、だから雨は苦手なんだ。

お願いだから、比較しないで

お願いだから、彼の熱を意識させないでーーーー


******
意味は【雨に咲く華】です。
彼女がアーチャーに『辛抱強い愛情』と言ったのは、凛との関係を見ているからです。
凛に対して厭味や不満は言うけれど、其処には確かに“愛情”を感じる事が出来るから、そういうところを見て『辛抱強く凛に接しているなー』と思いこの言葉を口にした次第に御座います。


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