I hope the rain


赤弓夢、士郎幼馴染み、凛親友設定。
雨と凛ちゃんのイタズラ



雨は嫌い…

特にトラウマとか嫌な思い出がある訳では無いけれど、憂鬱な気持ちになるし、鬱陶しいから嫌い…

雨だと傘を差さなければいけないから嫌…

あーあ、もう本当…最悪…だよ。



* I hope the rain *



目の前をザァァァザァァァ…と流れる雫達にうんざりする。


「……あー…もー、最悪…。」


先程まで『あ、そろそろ雨降りそうだなー』くらいの雲行きだったのが、いざ私が帰ろうと学校の玄関まで行くと丁度タイミングを見計らったかの様にザァザァァァ…と降り出した。

嫌がらせか、コンチクショー…

そして、誠に残念な事に、私は今日家から傘を持ってくるのを忘れてしまった。
どうせ学校に折り畳みがあるから良いやーと高を括って居たのが仇となった…。


「さて、どうしようか…」


そう呟いてみるものの、雨が止む様子もなく、ただただ私を嘲笑うかの様にさっきよりも土砂降りになった、気がしただけだ。

10〜20分?或いは30分程??
待っても雨脚は弱まる事なく、逆に強くなっていった。


「…しょうがない濡れて帰るか…。」


最悪の決断だが、それしか今の私には方法がない。


「あれ?苗字?」


腹を括って濡れて帰ろうとした瞬間、背中へと声が掛かった。

後ろを振り向くと、そこには何と救世主の幼馴染み衛宮士郎が立っていた!
しかも傘を持ってっ!!!!


「し、しろ〜ぅ…っ!!」

「30分も前に帰るって颯爽と出て行ったのに、こんなところで何やって…っておいっ!抱き着くなよ!!」


流石救世主!正義の味方の名は伊達じゃないよ!!*厭味じゃないです。
口に出すと何か言われそうなので、口には出さず思いっきり力一杯目の前の救世主に抱き着いた。
顔を真っ赤にして人目が!とかこんな所でするな!とか言っているが無視だ。決して面白いからとかではない。断じて。


「…で、何でこんなところにいるんだ?」

「うん、あのね……」


しばらく2人でキャッキャッと戯れていた。主に私が…
そして落ち着いたところで、私の今の状況を士郎に伝えた。

すると、やはり彼はふたつ返事で


「そっか、なら一緒に入ってけよ」


と、言ってくれた。
うん、やっぱり正義の味方の名は伊達じゃないね!


「よし!じゃお願いしま〜す」


と彼の隣に行こうとしたところでまたもや私達の背中と、言うより士郎の背後から声が掛かった。
因みに私は士郎の身体で誰が声を掛けたか見えませんでした。


「あら、衛宮くんじゃない、今帰り?だったら丁度良かったわ、入れてちょうだい!」

「……へ?」

「あ、遠坂」


何とも愛らしい聞き覚えのある声でした。
「私、今日傘忘れちゃったのよね〜」と言って士郎の広げられた傘の中へ入ったのは、我が校のマドンナ、そして私の親友(心のオアシス)の遠坂凛ちゃん


「って、え…?!ちょっ!凛ちゃん!!!」

「それじゃ、そういう事だから、衛宮くん行きましょ!」

「え?あ、おい!遠坂!!」


いきなりの凛ちゃんの登場に驚く暇もなく、あっという間に私の救世主と親友の背中は遠ざかっていった。

ねぇ、ちょっと待ってよ…凛ちゃん今朝折り畳み持ってなかったっけ?
アーチャーさんに持たされたのよとか言ってなかったっけ?
私に帰り雨降るかもとか言ってなかったっけ?

目の前の雨が土砂降りなら、私の心も土砂降りになった。
凛ちゃん…どうして…と私の心は絶望一色
ああ、今日は水難の相でも出てるのかな?と笑ってみたところで虚しくなるだけだった。

多分彼女が私の心情を知る事はないだろう。

俯いて本格的にこれからどうするべきか、やはり全力で走って帰るべきかあーでもないこーでもないと悩んでいると、フと足元に大きな影が出来た


「……ぁ…どうも…」


見上げてその人物が誰なのか瞬時に分かり、視線がぶつかった瞬間、当たり前のように口から挨拶の様なものが溢れた。


「ああ…」


彼もその言葉に短くではあるが返事をくれた。
そして、何も言わずジッと見詰めてくる

私は何と無くその視線と沈黙に耐えられず「あの…?何か??」と訪ねた。
遠くで雨の音がする。


「ん、いや何、こんな雨の日に君は傘も持たずどうしているのかと思ってね…」


会って早々厭味ですか…とつい口を突いて出そうになった言葉を呑み込む

いや、多分彼は悪気があってそーゆー事を言っている訳じゃないと思うんだ、多分純粋にそう思っただけなんだ。
そう自分に言い聞かせて事の次第を告げると、彼はなるほどな…と納得した。


「凛に呼ばれて来てみれば、こういう事だったのか…」


と小さくボソリと呟かれた言葉は私の耳に届く事なく、雨音に掻き消されたのだった。

彼がどうしてここにいるのかは、置いといて、私は素直に先程目の前で幼馴染みを掻っ攫って行った親友の事を話した。


「そう言えばアーチャーさん、凛ちゃんならさっき士郎と一緒に行ちゃいましたよ?」


私より背の高い彼を見上げれば、彼は「ああ…」と言い私はそれだけで次に来る言葉が何と無く予想出来た。


「知っている…先程見かけたしな…」

「…あ、そうですか…。」


ああ、やっぱりか…そんな事を思い私は本題へと話を移す事にした。


「じゃあアーチャーさんはどうしてここに…?」

「凛に君が傘を持っていないだろうから、送って行けと頼まれてな…」

「はぁ…?」


意外な返答に戸惑い曖昧な返事をしていると、彼が手に持っていた傘を開き、私に差し出した。


「凛に送って行けと言われているからな、行くぞ?」

「え…?でも……」

「何、遠慮するな。どうせ彼女が蒔いた種なんだからな」


優しく微笑まれ、片方の空いた掌で腕を引かれれば、私はその申し出を断わる事が出来なかった。


触れ合った肩や濡れない様に気遣ってくれる優しさ、その全てにときめいて

『嗚呼、偶には雨の日も良いな…』
と思った私は重症か……

頬に熱が溜まるのを感じながら衛宮邸へと向けた足をゆっくりにした。

1分1秒でもこの幸せが続けばいい…

この温もりを手放したくないと思ったのは我儘か…



今はまだこの酷い雨が、このまま止まぬ事を願って…



 I hope the rain -end-


雨を願う。

最悪だと思った雨は、いつの間にか気にならなくなった。


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雨とアーチャー思いの凛のイタズラ


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