Mischief of rain


五次槍夢、五次槍視点。
※微流血表現注意※



「チッ…クショー……ヘマやっちまった…」

壁と壁の間の狭い通路裏に身を潜めながら、コンクリートの冷たい壁に背をついた。
今は霊体化もままならず、現界しっぱなしだ

あの野郎…今度会ったらタダじゃ置かねぇ…っ

赤い外構を身に纏った忌々しい野郎…
俺の左掌の下にはヤツから受けた傷口がパックリと口を開いている。

幾ら英霊で直接死に至る傷では無いにしろ、痛いもんは痛ぇし、血だって無駄に出やがる
しかも更に今は忌々しい事に、我がマスターから魔力の配給が微微たるモノで、これでは治るモノも治ら無いし、治ったとしてもあと何時間掛かる事やら…

「クソ…ッ…」

苛立ちに奥歯を噛み締め、背中の冷たいコンクリートに背を預けズルズルとそのまま下にずり下がる。
出血が多いからか、目眩がしやがる

「しゃーねぇ…傷口が塞がるまでここで回復するか……っ」

動く事を諦め、目を閉じようとすると、遠くの方から微に雨の匂いと音が聞こえた。

「…雨か…、ついてねぇなぁ……」

俺は忌々しい事だが、そのまま雨の気配に耳を傾けながら、目を閉じたーーーー


嗚呼…

今日はなんてついてねぇ日なんだ……



*Mischief of rain 【雨のイタズラ】*




「ーーーぶ…すか?!」


………んっ…なん…だ…っ


「ーーーあ!…だい…か?!」


…る…せぇな……


「ーーー大丈夫ですか!?」


んな、大声じゃ無くても聞こえてるっつーの…

身体を強く揺さぶられる感覚で目が覚める。

不味いな…人の気配に気付かないくらい寝ちまってたのか……

自分の不甲斐なさに内心舌打ちしながら、重い瞼を薄く持ち上げた。
その間に自身の手を握ったり開いたりしながら魔力量や握力をバレないよう確認する。

声からして相手は女…
チッ…本当に今日はついてねぇ…っ命令がだからとは言え女を手に掛けなきゃいけねぇとはよ…っ

少しだけだが力も戻っているし、魔力も戻って来ている様だ。
これなら、普通の女程度なら殺れる…か…

『嗚呼、本当に今日は忌々しい日だ…』

そう呟きそうになった言葉を喉の奥に押し留め呑み下した。


「あ!そうだ救急車!!えーっと…携帯…携帯……」


女が俺を揺さぶっていた手を離し、自身の鞄と思しき物の中を「あれ?確かに此処に入れたのに…」と言いながらガサゴソと漁りだした。

不味い…んなモン呼ばれたら余計目立っちまうじゃねぇか…!

相手が自分から意識を外してるのを見逃さず、俺は「待ちな…っ」と言い放ちながら女の手首を握り静止させた。
ビクリッと一瞬で動きを止め、ゆっくりと視線を鞄から離し、彼女の瞳が俺の瞳を捕らえた。


ーーー刹那、ドクリッと心臓が音を立てた


己の槍で心臓を穿たれた様な錯覚を覚える
いや、実際にはそんな事絶対に有り得ないのだが…、それでも、確かに俺は、その女に目を奪われたーーー
 


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