鳴門先生

 
降り立った場所は、実に面白い場所だった。
表立った学校で一部の生徒に暗殺術を教えているなんて。

「で、どうして俺がこっちなのか知りたいんだけど」

「お前はどうみても教える側だろうが」

此の世界に来た俺、渦巻 鳴門は、此の烏間(からすま)と言う男と出くわした。
色んな事があり、国家機密である内容の任務に手を貸せと言われた。

つい先日。
月が爆発したらしい。
三日月形になってしまったとか。
そして、其れをやった犯人らしき人物が、先生となったとか。

まず、何処からツッコもうか。

烏間は防衛省と言う所に勤めているが、此の犯人の暗殺依頼を暗殺家業を成り行きにしてる奴ではなく、一般の中学生に頼む所がそもそも間違っていると思うのは俺だけか?

「俺より年上の奴らが生徒?俺はいいが、当人たちが気に入らないだろ」

「お前の其の術は飾りか?」

何を言っても無駄と言う事ですか。

「はいはい。分かりましたよ」

椚ヶ丘中学校は名だたる進学校。
E組は離れた場所に校舎があり、差別が実現している。
E組を他の奴らは汚いものを見るかのように見下し、蔑む。
自分たちが高位である事を確信しているからだ。
此処の理事長とやらも、其の教育方針で上位クラスを洗脳してるみたいに。

「こんなんで、OK?」

「何故、髪の毛長くした」

「何となく」

そーゆーの一番嫌いなんだよね、俺。
ましてや、頭だけがいい奴なんてさ。
威張り散らしてるだけの単なるアホだろ。

ギャフンと言わせてやりたくなる。
てか、其の前に殺したくなるよ…いたぶりながら。

「お前らー席につけ」

「…」

よし、決めた。
徹底的に叩き込んでやる。

「新しくE組の担当になった渦巻 鳴門よろしく」

「渦巻先生は、何が得意ですか?」

「暗殺、拷問、尋問、諸々かな」

「「すげー…」」

「此奴はな、奴には少し劣るだろうが早さはある」

烏間がそう言えば、クラスの生徒たちからの興味深い視線が突き刺さる。

「「…………(ジーーーー)」」

「…分かった」

「「Σ消えた!?」」
「「何時の間に…」」

「後ろ、見てみろ」

「「Σ!?」」

教室の後ろの壁にもたれ、腕を組んでいた俺を生徒たちが目を見開いて驚いている。

「徹底的に早さを叩き込んでやる、覚悟しろよテメーら」

「「っ…」」

生徒たちの息を飲む光景が目に映る。
最初が肝心。
舐められちゃ終わりだからな。

「あの…」

「何だ」

「渦巻先生は…」

「鳴門でいい」

「鳴門先生は、男?女?」

「どっちに見える?返答次第ではどうなるか分かってるか?」

「「(ええええええっ)」」

「え、と…お、男…?」

「正解。よかったな、其処で女って答えてたら此処が真っ赤に染まってたぞ」

「「(此の人ヤバい!絶対ヤバい!!)」」

面白い事になりそうだな。
月を爆発させた犯人、殺せんせーと呼ばれる奴にも会って

「奴はどうした」

「北京ダック食べに行きました」

「(北京ダック??何だそれは)」

ちょっと手合わせ願いたいもんだ。
どれだけ早いか、ちょっと見物かもな。

其れから数時間後、問題の犯人に帰ってきた。

「おや、新しい人ですか?」

「渦巻 鳴門だ、よろしく頼む」

「こちらこそよろしくお願いします」
















殺センセーと言う奴は実に優秀だった。
1人1人に合った問題と教え方。
分かりやすい、丁寧。

生徒たちも殺センセーに懐いていた。

暗殺の授業では俺と烏間とで早さと実技を担当している。
生徒は実に教えがいのある人材ばかり。
見た目だけで言えば、赤羽 業(カルマ)だろう。
奴は頭の回転が早く、騙し討ちが得意だ。
ましてや、此のクラスでは一番の実力もある。

だが、俺が目を付けてるのは、赤羽ではない。
極普通の特徴のない、生徒。
きっと、化けるぞ、彼奴は。

「鳴門」

「ん?」

「新しい教師としてやって来た、イリーナ・イェラビッチだ」

「よろしく!」

「どうも」

女を最大限に利用し武器とする。
どんな国のガードの固い暗殺対象でも本人や部下を魅了し、容易近付き近距離からたやすく殺す。
潜入と接近を高度にこなす殺し屋。

「綺麗な顔ね、女なら武器に出来たのに」

「残念だったな。男でも武器に出来るさ。
何ったって、男はバカだからな」

「あら、アナタもしかして…」

「女に興味はなくてね」

「ふ〜ん、面白い男」

生徒たちとの対面で、イリーナはビッチ先生とあだ名が付けられ主に実践的な外国語。
要は外人の口説き方だ。
色んなパターンでの会話と近付き方、接し方表情の作り方諸々。
偶に公開ディープキスされてたり。←

「しかし、100億ねぇ…」

「どうした?」

今は校舎の中で、運動場にいる奴と生徒たちを烏間と眺めていた。

「此の世界の政府とやらは、随分とケチなんだな」

「…金銭感覚が麻痺でもしてるのか?100億の価値がどれ程かをお前は理解出来ないのか?」

「もし、奴を殺せたとする」

「ん?」

「そうすると、報酬は山分けで30人で約3億3千万だ。此の意味が分かるか?」

「何が言いたい」

「マッハ20の怪物を、殺してたったの100億。
100億なんて金はどの世界でもすぐ集まる金額なんだ」

「言っておくが、其れはきっとお前のやり方が特殊なだけだ。普通はそう簡単に集まらん」

そんな話をしていた後日、また新しく教師としてやってきた男がいた。
烏間の同期であり、堅物な烏間とは真逆な男。
フレンドリーに生徒と接し、生徒たちの中にそんなりと入っていった。

「…明日からの体育の授業は鷹岡先生が?」

「烏間の負担を減らす為の分業さ」

家族だの、父親だの。
此の男は何を考えているんだ。

「一応言っておく。体育の授業での担当は俺であり、お前は副担当だ。其処は間違えるな」

鷹岡から、俺へ殺気が向けられた。
ふーん、烏間に異常なまでの対抗心があるとは聞いてたけど、此の俺にも其れを向けるとはな。

其れから、奴が考えたと言う訓練内容の時間割を見てやった。

「此の時間割についてこれればお前らの能力は飛脚的に上がる、では早速…」

中学生相手に夜9時までのハードな組み方。
理事長も承諾したなんて、どれだけE組を下に落とせば気が済むんだろうなあの男も。

其れには生徒たちも猛反発。

「ちょっ…待ってくれよこんなの無理だぜ!」

「ん?」

成績が下がると知ってての承諾に、反発した生徒に鷹岡は腹へ膝蹴りを食らわせる。

「出来ないじゃない、やるんだよ。
言ったろ?俺たちは家族で俺は父親だ。
世の中に…父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」

「鷹岡」

「何だ?」

「お前はもう何もしなくていい」

「な、に…?」

「家族?父親?何をほざけた事を言ってんだ。奴を殺す為のチームであり、中学生の此奴らにお前は何を教える気だ。
此処は軍隊ではない、そーゆー事をしたいのなら軍隊に戻ってエリートでも育ててな」

俺がそう言えば、鷹岡の顔がどんどん歪んでいった。

「体育の担当は俺であり、権限は俺にある。
間違えるなと言った筈だ」

「どちらが上か此処で決めようじゃないか!」

どの世界でもこうゆうバカはいるんだな。

「(殺し屋とは聞いてるが、こんな紬腕で俺に勝てる筈がない!)」

「烏間、手を出すなよ?売られた喧嘩は買ってやらねぇとな」

「はぁ…好きにしろ」

「(烏間が横やりを入れてこない、だと…?)」

「鷹岡、死んでも知らねぇぞ」

俺に喧嘩を売った事を後悔するんだな。

「ナイフでも何でも武器使ってもいいぞ」

「そんなもの必要ない。素手で十分だ」

いや、此処は見せしめに…

「鷹岡、俺とやる前に生徒と腕試しってのはどうだ」

「…逃げるのか?」

「お前の言う訓練とやらが、此処で通用するか試してやるって言ってんだ。
烏間と違って、俺は生徒たちに早さを教えて来た。
其れがお前に通用しないなら、お前の好きなようにすればいい」

もちろん、実践も兼ねて叩き込んだ。
ましてや俺直々に教わったんだ、負ける筈もねぇけどな。

「いいだろう…」

鷹岡はバッグから本物のナイフを取り出した。

「殺す相手が俺なんだ、使う刃物も本物じゃなくちゃなぁ」

「鳴門!お前は何を考えてるんだ!彼らは人間を殺す訓練も用意もしていない!」

「烏間、俺を信じて見てろって。
彼奴は大丈夫だから」

俺が珍しく普通の人間を育てたいと思ったんだ。
其奴は俺が思う理想にどんどん近付いていく。
前にお前も、此奴に何かしらの違和感を感じた筈だぜ?

「(軍隊でも此の手はよく効いたぜ。初めてナイフを持ってビビリあがる新兵を…素手の俺が完膚無きまでに叩きのめす。
ナイフでも素手の教官に敵わない、其の場の全員が格っ違いを思い知り、俺に服するようになる)
俺の相手になる生徒は一体誰かな?」

不気味な笑みを零す鷹岡を横目に、俺は迷う事なくナイフを其奴の目の前に差し出した。

「やれるな?渚」

「はい」

「「(なっ、なんで…渚を!?)」」

渚としても迷いは感じられない。
いい目だ。覚悟を決めた目。

「ナイフを当てるか寸止めでいい、奴は殺す価値すらない。
お前が手を汚す必要はない」

「鳴門先生…」

「勝ってこい」

渚の背中をボン、と軽く叩く。

「…はい!」

鷹岡と渚が対面し其れを俺たちは少し離れた所で見ていた。

「さぁ来い!」

「(僕は、本物のナイフを握るのは初めてじゃない。みんなには内緒で鳴門先生と特訓してたから。
でも、鳴門先生以外の人と実践するのは初めてだし…少し緊張はしてる…)」

戦闘経験は鷹岡の方が数段に上だろう。
だが、此奴はそんな理論なんか関係ない。

「(戦って勝たなくていい…殺せば、勝ちなんだ)」

少し微笑んだ渚は鷹岡に歩いて近付いた。
普通に、通学路を歩くみたいに。

ーボスっ

構えていた鷹岡のた手の申が、渚の胸に当たる。

そして、奴は漸く気付く。

渚の右手に振られたナイフが、鷹岡の首めが近付く。

自分が殺されかけている事に。

「っ…!」

運よく避けたものの、鷹岡はギョッとした韻をし体勢を崩す。

誰だって殺されかけたらギョッとする。
奴(殺センセー)でもそうなんだ。
鷹岡の重心が後ろに偏ってる所を渚は服を引っぱって転ばせた。
鷹岡を仕留めに。
正面からだと防さがれるから背後に回って確実に。

視界を奪い、ナイフを首に当て、両足で動きを封じる。

「捕まえた」

「あっ…が…」

上出来だ。

殺センセーを始めとする人間が、渚を見て言葉を失っている。
鷹岡に勝てるとは誰も思っていなかったからだう。
あのポーカーフェイスの烏間さえ驚いた表情を出してる。

「だから言ったろ?大丈夫だって」

殺気を隠して近付く、
殺気で相手を怯ませる、
本番に物怖じしない、

暗殺者としての才能を開花させたな。

「ひょっとして鳴門先生、ミネ打ちじゃダメなんでしたっけ…」

一見、普通の渚。
赤羽のように実技が上手い訳ではない。

でも俺の目に止まった事には変わりないんだ。

実際、化けただろ?
俺の目に狂いはなかったな。

「勝負ありですね、鳴門先生」

「当然だ」

「全く、本物のナイフを生徒に持たすなど、正気の沙汰ではありません。
怪我でもしたらどうするんですか」

「此奴がそんな事させると思うか?」

「…そうでしたね」

どうせ何かあろう事なら、お前もお得意の早さで助けに入っただろうが。

鷹岡に勝利した渚に他の生徒がかけ寄り、わいわいとからかい始めたり。

其れにしても、鷹岡は今の勝負が納得のいくものではなかったらしい。

「此の餓鬼…父親も同然の俺に刃向かって紛れの勝ちがそんなに嬉しいか!
もう1回だ!!今度は絶対油断しねぇ、心も体も全部祭らずへし折ってやる!」

「次やっ…鳴門先生?」

言いかけた渚を止めた。
次やっても、渚の勝ちは決まりだ。
俺が育てて負けるなんざ有り得ねぇからな。

「納得いかないなら、次は俺が相手になってやろうか?」

「…」

鷹岡は狂気に染まった顔だった。
中学生に負けた事の屈辱を味わい、其れを渚にではなく俺に向けさせる。

「俺は強いよ?」

「っ…武器でも何でも持て!」

「だから俺にはそんなの必要ないってば」

構える事もなく、俺は鷹岡が動くのを待った。
普通の人間が、俺の早さに付いてこれるとは思ってないからな。

「さぁ、何処からでもかかっておいでよ」

両手を広げて挑発すれば、鷹岡は狂ったように一直線に俺に向かってくる。

「はぁ…つまんない」

武器とか使えばいいのに。
まぁ使った所で無意味だけど。

溜息を付いた俺は鷹岡の顎へ一発お見舞いしてやった。
奴の顔を素手で触るのは嫌だったから足で。

「(な、何が起きた…?俺は、此奴に何かされたのか…?)」

「うわ、頑丈だなお前。普通の人間なら気絶してるぞ?
流石は軍人と言った所か、鍛え方が違うなぁ」

「鷹岡諦めろ、鳴門は俺より強い。
強い上早い。見えなかっただろ?今の。
俺たちさえ理解出来ない早さだ」

「今、鳴門先生の右足が鷹岡のエラに直撃しましたよ」

「…此奴は論外だ」

「くっ…!」

此奴はまだ殺さない。
此奴は俺を憎んでまた何か仕掛けてくる。

プライド高そうだからな。
元は烏間に強い対抗心燃やして此処で烏間から全て奪ってこき使いたかったんだろう。

「またリベンジしにおいでよ、遊んでやるから」

其れまでに、クラス全員俺色に染め上げててやるから。

End…

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