受肉
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報告書(仮):殉職者一名。第十四支部所属・苗木誠(機関員ID:*1*103*7)が、絶望の手先となった希望ヶ峰学園第七十七期生の目撃情報を追跡、廃ビルに潜入。尚、この作戦行動は上部に承認されておらず、同機関員の完全な独断である。またこの際、同機関員に賛同したとみられる第九支部所属の下級機関員一名(ID:********)を伴う。麻酔銃、自白ガス、拳銃一丁をそれぞれ携行。同機関員は危険区域での作戦行動並びに武器の携行は未認可のため、下級機関員が第九支部武器庫から無断で持ち出したとみられる。第十四支部長・霧切響子を尋問するも黙秘。第十四支部長代理・十神白夜についても同様。〈→引き続き行うこと。第三段階までの尋問を許可。〉 この単独行動について、絶望の残党の処置の方向性についての上層部との軋轢に起因するものと推測。
以下、下級機関員の証言による。同機関員は、早朝に本部を抜け出し廃ビルに出発、同日昼頃到着。道中で暴徒化した元市民を五名鎮圧。〈→本部拘束済。〉 廃ビル内は無人、生活の痕跡あり。同ビル四階のデスク引き出しにて生存者コロニーのメモを発見。〈→調査結果:未発見〉 B1〜7Fにわたる探索の結果、生存者なし。その後バリケードを破り屋上に突入、そこでも収穫なし。帰還しようとした瞬間、潜んでいた絶望の残党一名が下級機関員を背後から拘束。装備を奪い下級機関員を無力化、拳銃で同機関員に武器を捨てるよう強要。その後、同機関員の命か、下級機関員どちらかの命を選択するよう迫った。それを受け、同機関員はビルの吹き抜けから自ら落下。絶望の残党は下級機関員を解放、同機関員の死を未来機関本部に報告するよう命じた。翌日、捜索隊が同ビル屋上で放心状態の下級機関員を保護、今に至る。同機関員の死体は未発見。〈→捜索を続行。利用価値有。〉 下級機関員は重度の心的外傷、要カウンセリング。〈→A病棟にて厳重に保護。いかなる者の面会も禁ず。〉


報告書:軽傷者一名。第九支部所属の下級機関員一名(ID:********)が、絶望の残党により拉致。第十四支部所属・苗木誠(ID:*1*103*7)は、上部の承認を得ないまま救出へ急行。絶望の残党による未来機関員への残虐行為の多発に起因するものと推測。下級機関員が囚われている廃ビルに単身到着した同機関員は、下級機関員から自白ガスで機密情報を聞き出していた絶望の残党一名を射殺、下級機関員を奪還。その際、頭部に打撃を受けるも軽傷。本件は自らの身を省みない英雄的行為として、同機関員の支持を一層強めることとなった。下級機関員は絶望の残党によって与えられた自白ガスの副作用や精神的苦痛により廃人化、虚言やパラノイアの症状を確認、本部が責任を持って治療を開始。


機密データ:下級機関員カウンセリング音声〈処分済〉
 ああ先生、こんばんは。どうかしましたか?
 ……苗木さんが帰還した?あり得ない。嘘に決まってる。彼は死んだはずです。……は。飛び降りた苗木さんの遺体は見つからなかった、あのビルの吹き抜けには転落防止ネットやフィットネスジム跡のウォーターベッドやマットが放置されていて大事に至らなかった、そのおかげで数日気を失うだけで済んだ……ですか。一体なんの話です?苗木さんは……ああ、そうか、そういうことになっているんですね。そんなのぜんぶ上層部の嘘っぱちですよ。先生は知らないかもしれませんがね。いいですか。苗木さんが生きているはずはありません。なぜなら、僕が殺したからです。……あまり自分を責めるな?……いいえ、そういう意味じゃありません。僕が、この手で彼を射殺したんです。
 僕はあの日、第九支部の倉庫から武器を持ち出しました。その中に自白ガスがあったのはご存知ですね。あれはただの自白ガスではありません。脳内麻薬を分泌する甘味料を配合して、相手の精神を拘束し、ある種の興奮・催眠状態にすることで、本人の意思とは関係なく思い通りの行動をとらせることができる特殊なガスです。言わば劇薬ですから、秘密裏に開発されていて、一部の人間以外は存在を知らない特別なものです。情報通りに絶望の残党がいた場合、口を割らせるために持ち出しました。苗木さんはそれすら気乗りしないようでしたが、秘密裏に希望ヶ峰の生き残りを保護するためにはより多くの情報が必要だったんです。大量に摂取しなければ、禁断症状も出ませんし。本部のやり方は、僕から見ても非人道的でしたからね。少数派でしたが。とにかくあの日、僕と苗木さんは情報の廃ビルに到着しました。しかしビルに足を踏み入れた瞬間、僕は昏倒させられました。絶望の残党が待ち伏せしてたんです。目が覚めると僕は屋上で、拘束されていました。意識はまだ朦朧としていましたが。苗木さんが屋上に着いたのはその少し後です。そいつは僕の銃を奪うとこめかみに突きつけて、苗木さんに武器を捨てるよう言いました。武器は生体認証でIDが無いと解除されないようになってるだろうって?ええ、僕たちもそう思ってましたよ。でもそいつはIDを持ってたんです。機関員を拉致して取り出したんでしょうね。最近拉致事件が頻発してるって、死体すら見つからないっていうのも合点がいきましたよ。それで苗木さんは武器を捨てるしかなかった。そいつは苗木さんに、お前が死ぬかこいつが死ぬか選べと言いました。笑っちゃいますよ。苗木さんは時々挨拶する程度だった僕の為に死ぬなんて言うんですから。苗木さんは飛び降りようとした。けど苗木さんの幸運を危惧したんでしょうね、そいつは僕にあのガスを無理やり吸い込ませると、僕の手に拳銃を握らせ、「苗木誠を撃ち殺せ」と命令しました。僕の腕は勝手に動いて、苗木さんの頭に照準を定め、そのまま引き金を引きました。苗木さんは避けなかった。眉間です。命中したのをあの一瞬で確かに見た。苗木さんの体から力が抜けて、吹き抜けに落ちていく一瞬です。
 報告書と違う?当たり前ですよ。こんなの馬鹿正直に書ける訳がない。未来機関の仲間が希望の象徴を撃ち殺したなんてね。改竄されてるんです。ガスの存在だって明るみに出すわけにはいかない。しかし現実に苗木誠は帰還している、ですか。頭を強く打った程度の傷?それも本部の嘘ですよ。彼は死んでるんです。希望の象徴を失いたくない本部の偽装でしょう。苗木さんが権威を得れば得るほどいいんですから。そのうちまた新しい報告書が出ますよ、後ろ暗いところを上手く隠してね。また彼を英雄に仕立て上げるつもりでしょう。
 先生を信頼してるから本当のことを言ってるんです。先生?……何をするんです、この注射は?あなたまで僕を思い通りにしようというんですか。ただの鎮静剤だなんて嘘だ。君はきっとよくなる?自白ガスの副作用?特殊なガスなんて妄想だって?僕は正常だ。知ってますか、あのガスは甘い匂いがするんですよ。ちょうどこんな……あ……悪魔。みんな異常だ。狂ってる。……
 …………ああ先生、こんばんは。どうかしましたか?苗木さんの話が聞きたい、そうですか。苗木さんは僕を助けてくれたんです。自分の命を賭けて……

20200713








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