あの子になりたい | ナノ




02


花火の音ともに、わたしは自分の頬を伝う涙に驚いた。影山先輩に彼女がいる、ともいない、とも思っていなかったのに。そもそもわたしは影山先輩の彼女になりたかったんだろうか?そんな疑問すら感じていた。

実際に、この目で見るまでは。

「影山先輩、来週の花火大会行きますか?」

夏休みに入ってから、影山先輩に会うこともなく先輩不足で悶々とした日々を過ごす。もちろん勉強なんて手につくわけもなく、ただただ友達と遊ぶ毎日を過ごしていた。影山先輩はきっと朝から部活漬けなんだろうなぁと。もう何日会ってないんだろうとため息をつきながらカレンダーを見ていると花火大会の文字が目に入る。地元ではかなり大きな花火大会だし、もしかしたら影山先輩も部活の皆さんと来るかもしれない!あわよくば、一瞬でいいから姿を見たいと下心満載でメールを送る。

「行く」

影山先輩のメールはいつも端的で、内容がわかりやすい。最初の方はわたしも回りくどいメールを送ったり、「?」のつく疑問系で返してみたりと少しでも長く会話が続くように努力していたが最近はもうやめた。影山先輩にそういう小手先のいわゆる「モテテク」というものは通用しないと痛いほどわかったし、何より面倒臭い女だと思われるよりは多少男っぽくて話しやすい後輩ポジションの方が美味しいと気付いたからだった。

「わーい!見つけたら声かけますね」

なんて大人しく返してみるが、当日わたしは花火屋台、そっちのけで影山先輩の姿を探すことに集中してしまうにちがいない。友達には先に謝っとこ、とその手でメールを送る。友達もノリノリで当日は浴衣着て髪の毛も可愛くして、影山先輩に見てもらおうと2人でそのまま深夜まで盛り上がった。

そして当日、去年までの子供っぽい浴衣は辞めてお姉ちゃんに水色の浴衣を借り、着付けをしてもらう。デートかとお姉ちゃんにはからかわれたがそんなものではない。今日は影山先輩と遭遇目当てで行くんだ。ウォーリーを探せ的なイベントだと説明すると「はいはい、前向いて」と呆れられる。聞いてきたくせにひどいなぁとむくれていると「メイクもしてあげるから機嫌なおして」と嬉しい提案をされ、単純なわたしの機嫌は一瞬で元通りだ。

「やった!」
「でもピンクの方が似合うのに本当に水色でいいの?」
「うん!いいの!子供は卒業だから!」
「へぇ…卒業ねぇ。じゃあリップこっちの色にしとこっか」

お姉ちゃんはは手際よくさくさくと準備をしてくれて、友達と待ち合わせ場所に向かう。カランコロン、と音を立てながら歩いてしまいせっかく見た目だけ大人っぽくしても中身は子供のままだと自分が恥ずかしくなる。

「名前〜!可愛いじゃん〜!」
「友人ちゃんも可愛い!」
「影山先輩見つけて可愛いって言ってもらお!」
「おー!」

と、意気込んだものの地元で1番の花火大会で1人の人間を見つけるのがこんなに難しいとは思いもしなかった。影山先輩は学校でも背が高いからすぐ見つかるし、今日もすぐ見つかると思っていたが成果は全くで。2人で端っこでフランクフルトを頬張りながら「甘かったね」と反省会をする。

「もう花火見に行こっか」
「影山先輩にメールだけしてみたら?」
「うーん…」
「忙しかったら見ないだけだし、見てくれたらラッキーじゃん?」
「確かに…よし!送ってみる」

携帯を取り出し「花火どこで見てますか?」と送ってみる。さすがにストーカーっぽいかなぁ、と友達に相談してみるが携帯を渡した瞬間に勝手に送信ボタンを押されてしまい影山先輩の元に届けられてしまった。

友達に文句を言いながらも、自力では送信ボタンをきっと押せなかったと思うので心中では少し感謝していた。花火の場所取りをしに行こうと人混みをかき分けて前へ、前へと進むとひょっこりと人混みから飛び出た頭を見つける。

「いた!!!!いた!!ねえ!!」
「え?!どこ!!」
「あそこ!たぶんあの後頭部!先輩!」
「追いつくかな?!」

すいませんと言いながら、更に人混みをかき分けどんどん進んでいく。あと少しで手が届きそう、と言った瞬間に辺りの照明がいっきに落ちて花火が打ち上がる。

周りの視線が一斉に花火に移る瞬間、ほんの一瞬。わたしだけが見ていた影山先輩は、身を屈めて右隣の綺麗な女の人にキスを、していた。







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