あの子になりたい | ナノ




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初めて会った時のことは正直覚えていない。だが、気付けば自分の周りを賑やかに、明るくしてくれる存在だった、そう飛雄は名前とのことを思い出す。

「俺にはじめて彼女が出来たのは高2の時だった」

突拍子もない発言に名前はさっきまで甘いキスをしていたのに、これから飛雄の元カノ話を聞かされるのか?と身構える。

「別に好きでもなんでもない女だった」

この発言だけ抜き取れば、それはそれは最低な男の発言に聞こえるだろう。いや、抜き取らなくても最低な男の発言だなと名前は気が遠くなりそうだったが適当な相槌を打ち、飛雄の話を大人しく聞いていた。

「その女とは、結局すぐ別れたけど俺にセックスの気持ちよさを教えたのはそいつだった」

本当に、誰かもうこの男の口を無理矢理にでも封じて欲しいと名前は切に願っていた。だが、飛雄の謎の告白は止まることなく名前の髪の毛を弄びながら話は続いていく。

「俺は付き合う、ってことがそういうことをするだけでいいって思ってた」
「...なかなか、最低ですね」
「ああ」

辛辣な言葉をもらい飛雄は苦笑いをしてみせるが、その顔すら名前にはかっこよく見えてしまう。頬を染めながら飛雄のキスを何度も受け入れているうちにすっかり涙は乾いている様子だった。

「さっきも言ったけど、まあ俺は毎回振られててその度に「わたしのこと好きじゃないんでしょ」「他に好きな人ができた」って一方的に言われて面倒くせぇって」
「わー...」

名前はその彼女たちの気持ちになってみて、やっぱり在学中に早まって告白しなくてよかったかもしれないと思ってしまった。そんな考えに飛雄も気がついたのか、名前をより一層力強く抱きしめ「呆れたか」と呟く。

「どんな先輩でも、好きです」
「そうか」
「...知ってるでしょ?わたしが先輩しか見てないって」

ふふ、と笑ってそう言って見せると飛雄は「ああ」と名前の頬にキスを落とした。

「じゃあ、わたしが先輩のことずっと好きだったらいいってことですよね?」
「あ?」
「だって、ほら!他に好きな人ができたって振られるんだったら...わたしにその心配ないですよ?」

さっきまでと言っていることが二転三転していることくらい名前自身もわかっていたが、見慣れない飛雄の塩らしい態度にすっかり絆されているようだった。

「...彼氏、いたくせに何言ってんだ」
「っ、どの口が...!」

名前は思わず飛雄の頬を両手で思い切り引っ張って抗議する。一体、こっちは何人の彼女を今まで見てきたと。「痛ぇ」と真顔のまま言ってくる飛雄を見て、名前はこういうところがこの人の悪いところだとわかってはいる。が、惚れた物負けだなぁと自分で引っ張っておきながら「ごめんなさい」とその頬を撫でてやるのだった。







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