11

「泣くな。お前が泣いたら、どうしていいかわからねぇ」
「っ、とまら、な、くて」

相変わらず先輩の膝の上で身動きを取れないままのわたしはただ子供のように肩を震わせて泣きじゃくっていた。

「ご、めんなさっ、」
「なんで謝る」
「めんどくさい、でしょ」
「んなことねぇ。ただ、」

そこまで言って、今度は先輩が口を閉ざす番だった。いつもストレートに物事を伝えてくる先輩にしては珍しいなと少しずつ冷静になった頭でそう考える。

「お前は、欲がねぇ」
「え？」
「俺のこと好きだって言う割には何も求めねぇし、言いたいことも言ってこねぇし」
「...だ、だって、嫌われたくない」
「俺がそんなことで名前のこと嫌いになったりとか、面倒だと思うと思ってんのか？」

嘘をついたって仕方ないと思い、こくりと頷く。先輩は大きなため息をついて両手でわたしの頬を包む。訳が分からなくて涙を堪えながら先輩の顔を見ると優しい顔で見つめられ、余計に先輩のことがわからなくなる。

「お前が俺のこと好きだって気付いたのは、お前がこっち来てからだった」

それまでは気づいていなかったのか。というツッコミを入れたい気持ちもあるが、やっぱり気づいてなかったんだなとわたしは自分の判断が間違っていなかったことに安心した。

「でもお前は俺が彼女と別れても何も言ってこねぇし」

なぜか拗ねたように言ってくる先輩に、どの口が言うんだかと内心呆れてしまう気持ちもある。

「俺は、自分から好きだとか付き合おうとか言ったことねぇからどうしていいかわかんねぇ」

それは自慢ですか？なんて悪態を心の中で吐いておく。

「いつまで経っても言ってこねぇお前が悪い」
「ど、どういう…」
「俺と付き合え」
「…………む、無理です」
「あ？」

先輩に凄まれたからって、わたしは目を逸らさなかった。大好きな先輩の目を見てはっきり「無理です」ともう一度告げた。

「わたしは、先輩のこと好きですけど」
「じゃあ、」
「先輩は…そうじゃ、ないでしょ」

もう泣かない、絶対に。泣いて逃げるのはもうやめたい。そんな気持ちを込めて先輩の目から一度も目を逸らさずに自分の言葉を伝える。

「意味わかんねぇ」
「だ、だって！わたしだけ好きなら、彼女じゃなくてセフレでいいじゃないですか」
「お前それ自分で言ってて虚しくなんねぇのか？」
「…振られたく、ないんです。今まで何人も先輩の彼女さん見てきたから。別れて一生会えなくなるくらいなら、名前のない関係でもいいんです」

はっきりそう告げると、先輩はため息を吐く。

「いつも振られてんのは俺だ」
「……え？」
「しかも大体、浮気される」
「…ふふ、っ」

思わず吹き出してしまい、先輩に鼻を思い切りぎゅっと摘まれる。

「俺だってお前を失いたくないって思ってる」
「な、何言ってるんですか」
「抱いても手に入らないなら、言葉で言うしかねぇだろ」
「…」
「好きだ。俺と付き合え」

先輩が、何を言っているのかわからなかった。

「そんな俺のこと好きだって目で言ってるくせに、何も言ってこねぇのはずりぃだろ」
「せ、先輩だって…ずるい」
「何が」
「わたしが先輩のこと、好きだって知ってて、そんな…」
「嘘だと思ってんだろ」

思ってません、と言おうとする口は先輩に塞がれる。もう、これ以上逃げられる気がしなかった。先輩が、わたしのことを好き？そんな都合のいい妄想が現実になるだなんて、全く信じられそうになかった。どうすれば、信じれるんだろうなんて贅沢な悩みを抱えながらわたしはやっぱり先輩からのキスを受け入れるしか出来なかった。