あの子になりたい | ナノ




06


離れていく唇を見ながら、今わたし影山先輩とキスしたんだ...とその事実だけでもうお腹いっぱいになりそうだった。1秒も見逃したくなくて、目を爛々と輝かせて影山先輩を見つめていると「あんま見んじゃねぇ」と目を隠されてもう一度唇が重なる。わたしは脳が考える事を完全に放棄してしまい、今、口から心臓が出たら影山先輩驚くだろうな、なんてふざけたことを考えていた。

頬に添えられた指がとても綺麗で、わたしなんかよりとっても綺麗で、触られ心地がよかった。その綺麗な指がわたしの耳に触れてもう一度頬を撫でる。

「影山先輩、大好きです」
「知ってる。口、開けろ」

やっと、やっと先輩に直接言えることが出来た。知ってた?先輩にもう何回も言ったことあるんだよ。そんなわたしの胸中などもちろん影山先輩は知る由もなく。きっとこんな言葉、普段からたくさんの人に当たり前のように言われてるもので。少し胸が苦しくなるけど、今目の前にいてる影山先輩はわたしのことをだけを見ている。この事実だけでもう、幸せの極みだった。言われた通りに恐る恐る口を控えめに開けると、影山先輩の舌がわたしの口の中に入ってくる。

「っ...!」

くちゅ、といやらしい音が耳につく。恥ずかしくて、影山先輩のTシャツをぎゅっと掴む。こういう時、どこに手を置いていいかとかそんなことみんなどこで教えてもらうの?正解のわからないまま影山先輩の舌を必死に受け入れていると自分から聞いたことのない甘い声が漏れて、恥ずかしくてたまらなかった。

「ん、っ...ぁ」
「逃げんな、コラ」

自分の声に驚いて身を捩って影山先輩から離れようとしたが、逆効果で後頭部を片手で抑えられ逃場を失う。

「ん、っ...せ、んぱぁ、」

苦しい、と伝えようとするが口を少しでも開けると侵入してくる舌に翻弄されっぱなしだった。すとん、とソファに座らされたかと思うと、隣に座った影山先輩の手がわたしのワンピースの中へ侵入してきて太ももを撫でる。自分でも大袈裟だと思うが全身が震える感覚になり、好きな人に触れられると言うのはこんなに気持ちいいものなのかと目の奥がチカチカと点滅した。太ももを撫でていた手は胸元へと移動し服の上から優しく触れられる。心臓を直接握られているかのような、もうどこを触られても心臓が口から飛び出そうな気分だった。優しく触れられていたと思えば、ワンピースのボタンを一つずつゆっくり外され思わずごくりと唾を飲み込む。

「っ、あ...っ」

外気に晒された上半身を必死に隠そうとすれば影山先輩の手によって阻止される。そのまま腕は体の横に降ろされ、影山先輩の手が直接わたしの胸に触れる。

「、あっ、やっ...ん、」
「名前、」

何が何だかよくわからなくて意識が飛びそうになっていると、影山先輩の声によってすぐ引き戻される。

「怖ぇなら、やめんぞ」

わたしが恐怖から震えていると勘違いしている影山先輩がわたしを気遣って優しい言葉をくれる。ああ、もうこれ以上好きになったら困ることしかないんですが。怖くない、と思っていても震えてしまう指、声。こればっかりは仕方ない。

「や、めないで...下さい」
「...わかった」

ああ、好き。好き、大好き。そんな気持ちがたぶんもうダダ漏れで、影山先輩も呆れたようにわたしへキスを再開する。キスをしながら優しく、それはもうわたしもびっくりするくらい優しく胸を触られる。もう少し大きければ影山先輩に喜んでもらえたのかな、と自分の立派ではない胸に落ち込む。そう言えば電気、ついたままだ。影山先輩に電気を消して欲しい、とお願いしようと決めてキスの合間に目を開けると、いつもと少し違う顔つきの影山先輩と目が合う。正直、かっこよすぎて気が狂いそうになった。叫ばなかったわたしを褒めて欲しい。

「自分で脱ぐか、俺に脱がされるか選べ」

かっこよすぎて放心していると、影山先輩がそうわたしに告げてくる。これは電気消したらこんなかっこいい影山先輩が見れなくなる、と思うともう電気を消す選択肢はわたしの中から消え去った。自分で脱ぐか、影山先輩に脱がせてもらうか…そんなのせっかくなら脱がせてもらいたくない!?もうわたしの脳内は完全に楽しむ方向へとシフトしてしまい最初で最後の影山先輩との触れ合いを後悔なく、全力で挑む気持ちだった。

「先輩が、いいです…脱がせて、」

下さい。と続けようとした言葉は再び影山先輩のキスによって封じられる。脱ぐも何も、もうほとんど脱げてるんだけどなと服の中で優しく動く影山先輩の指が気持ちよくて声が溢れる。

「んっ、…はぁ、」
「腰上げろ」
「っ、はい」

するりと脱がされてしまったワンピースはそのまま床に落ち、わたしだけが下着姿でソファにはしたなく座っていた。急な浮遊感に驚くと、わたしは影山先輩に抱き上げられてどうやら寝室へ向かっているようだった。

きっとあの時、はじめて会った時もこうして抱き上げてもらったのかなぁと大切な思い出に胸が苦しくなる。今日も、今夜だけでいいんです。一生の思い出が、もらえたらそれでいいんです。だから、愛さなくていいから今だけわたしのことだけ考えてください。そんなわたしの気持ちとは反対に、まるで大切なものを扱うかのように優しく、ゆっくりとベッドに降ろされた。







×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -