あの子になりたい | ナノ




03


影山先輩と会える日は、決まって突然だった。多分、誰かの都合がつかなくなったとかそういった理由だとは思うけど。そうわかっていても、呼ばれてしまえば喜んで向かってしまう自分が少しだけ嫌いだった。

「今どこだ」
「授業終わって、学校から帰るとこですよ〜!先輩今、日本なんですか?」
「おう。夜空いてんのか」
「あ、空いてます!」
「後で連絡する」
「ハイ!」

骨髄反射のように返事をしてしまい、わたしは少し反省する。これじゃあ、ただの都合のいい女、嘘…都合のいい後輩じゃないか。もちろんそのポジションにいるからこそ、こうして何の取り柄もないわたしが影山先輩と会えることになっているからいいんだけど。指定された時間と場所を調べて家に一度帰って準備する時間はないと悟る。全身鏡で今日の自分の服装を見て、思わずため息が出た。これじゃあ、会えない。

「すいません、これ着て行きたいんですけど」

待ち合わせの駅近くで、服を全身揃えて少しでも先輩の横に立てるようにトイレでメイクをしっかり直した。もう、お姉ちゃんにメイクをしてもらうわたしはいなくて、自分でも出来るようになって大人になったなと感じる。待ち合わせの5分前、ドキドキしながら待ち合わせ場所で待っていると大好きな顔が人混みからひょこっと顔を出しているのを見つけ、大きく手を振って「先輩!」と声をかけた。

「先輩!お久しぶりです」
「おう」
「どこ行くんですか?」
「飯」
「やった〜!ご馳走様です!」

いつもより少し大袈裟に喜んでみると、先輩は「うるせぇから静かに歩け」とわたしの頭をぐしゃっと撫でた。あ、やばい。そう思った瞬間にはもう顔は真っ赤で、やっぱり生の影山先輩の迫力?威力?は凄いと必死に顔の熱を冷ます。

「いつ帰ってきてたんですか?」
「昨日の夜、あー…こっちは昼か」
「時差ボケしてる先輩、なんか可愛いですね」
「あ?うるせぇぞ」

「ねみぃ」と欠伸をしながら隣を歩く影山先輩に暴言を吐かれながらも、それは先輩のコミュニケーションだとわかっているし軽口を叩いてくれることすらも嬉しいとも思ってしまう。

連れて行かれたレストランはわたしみたいな大学生が気軽に来れるようなお店ではなくて、やっぱり洋服迷った高い方にしておけばよかったと反省する。慣れた様子で先に歩いていく先輩に置いて行かれないように、わたしも歩くペースを上げる。通された部屋は個室で、落ち着いた雰囲気だった。

(これは、きっと彼女と来る予定だったんだろうな)

今、影山先輩はモデルの彼女がいるらしい。らしい、というのはネットニュースで知り得た情報だからで影山先輩から聞いたわけではない。

「え〜!どれも美味しい!最高です!本当に影山先輩と仲良くて幸せ〜」

本当は、味なんてわからないくらい緊張してた。それでも、目の前にいる影山先輩が少しでも笑ってくれたらいいなぁ、なんて。そんなわたしの願いが通じたのか、目の前の影山先輩は楽しそうにわたしを見て笑っていた。

「苗字見てると、飽きねぇな」
「…それって褒めてます?」
「…多分?」
「ええ、!?喜んじゃいますよ?いいんですか?」
「好きにしろ」

そう言って、鼻で笑ってくる影山先輩がかっこよすぎて思わずテーブルの下で足をジタバタさせてしまう。今日、先輩との予定をドタキャン(仮)してくれた彼女さん本当にありがとうございます。こんなに素敵な食事を一緒に出来て、かっこいい先輩たくさん見れてこれは当分会えなくても生きていけそうだなと影山先輩で勝手にエネルギー補給をする。

食事も終わり、近況報告と言う名のわたしのおしゃべりタイムがはじまるが、先輩のスマホが鳴り出す。

「出ないんですか?」
「…あー、」
「いいですよ、出てください!」
「悪ぃ」

わかってる、きっと彼女からだろう。わたしは1人でいつでも帰れるように荷物をまとめ出す。先輩は少し気まずそうに電話に出て、わたしの方へ背を向けた。

「あ?家にはいねぇよ。勝手に入ってんじゃねぇ」

少し不機嫌そうにテーブルの上に置かれた指がトントンと音を立てる。

「わけわかんねぇこと言ってんじゃねぇよ。もう切るぞ」

電話の相手はまだ何かを話しているようだったが影山先輩は一方的に電話を切って「…はぁ」とため息をついていた。

「おい。何勝手に帰る用意してんだ、まだ帰さねぇぞ」

席を立ち、バレたとでも言いたげな顔で先輩を見つめると先輩はわたしの肩を抑えて無理やりまた席へと座らせる。早く帰らなくて、いんだろうか。きっと彼女が怒って待ってるのでは、と色々聞きたいことが多すぎるが聞く勇気はなかった。

「い、いんですか…?その、」
「今はお前といんだから、関係ねぇ。気にすんな」

気にするな、と言われても気になりまくるんですが。そんなこともちろん先輩に言えるわけなく結局デザートまでしっかりご馳走になってしまった。







×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -