あの子になりたい | ナノ




02


大学に入学しても、相変わらず影山先輩とはマメに連絡をとっていた。気づけば影山先輩は成人していて、お酒を飲んだ日はたまに、電話をいきなりかけてきたりもした。わたしはその日がいつ来てもいいように、バイト終わりにはスマホを常に気にしてしまう生活が続いていて。そして、影山先輩が海外遠征をしている最中、夜中の3時にわたしのスマホが光る。

「、も…しもし」
「あー、悪ぃ。そっちはまだ夜中か」
「ん…だいじょぶ、です」

ベッドで寝起きのまま、可愛い声を作る暇もなく影山先輩が話し出す。わたしは寝転んだまま話すのもな、と寝ぼけ眼で立ち上がり思わず転んでしまいそうになり声が出る。

「おい、大丈夫か?」
「あ、はい…ちょっと躓いちゃって」
「相変わらずお前そそっかしいな」
「ええ!?心外です…寝起きなのに…」
「切るか」
「ダメ!切らないで!せっかく先輩の声、聞けたのに…」

ふぁあ、とあくびをしながらもそう伝えると電話越しに影山先輩が笑っていることに気づく。そんな些細なことすらも嬉しくて、今すぐ飛び跳ねてしまいたいくらいの気分になった。多忙な先輩とはなかなか顔を合わせて話す機会はない。でもこうして電話やメールなら、あの綺麗な顔を見なくて済むので比較的スムーズに会話が出来るようになっていた。だからなのかはわからないが、わたしの中で影山先輩と言えば学ランの姿でいつも再生されていた。

「明日学校は?」
「明日は三限と五限だけです!」
「じゃあちょっと電話付き合え」
「そのつもりですよ!」
「おう」

電話越しで影山先輩は寝る準備でもしているのかシーツの擦れる音が聞こえて、なんだかいけないものを聞いているような気分になった。

「せんぱぁい」
「間抜けな声で呼ぶんじゃねぇよ」
「へへ」
「何笑ってんだ、ボゲ」
「なんか、影山先輩の声で目が覚めたのいい1日になそうだなぁ、って」

影山先輩と話す時、ついてしまった癖が一つだけある。思ったことをそのまま真っ直ぐ伝えてしまうことだ。影山先輩が割とストレートに物を言ってくるタイプだということもあるが、それに引っ張られるようにしてわたしも割と恥ずかしいことでもなんでも素直に言えるようになってしまった。

今みたいな発言は日常茶飯事で、先輩は少しだけ嬉しそうに「そうかよ」と笑っていた。可愛い。好き。影山先輩との電話は、わたしが一方的に話していて先輩は聞いてるんだか、聞いてないんだかわからないけど。たまに打ってくれる相槌の声が心地よくてわたしはそれだけで大好きになってしまう。そして、いつも先輩が寝落ちするのが鉄板だった。今日だって自分からかけてきてわたしを起こしたくせに、早々に眠りにつき始めた。

「せんぱぁーい?寝た?寝ちゃいました?」
「…」

すぅ、すぅと気持ちの良さそうな寝息が聞こえてきてこれが電話ではなく、隣に先輩が居てくれれば良いのになんて。まるで、恋する乙女のようなことを考えてしまう。でもきっと、先輩はわたしのこと良くて親しい後輩…いややっぱりただの後輩としか思っていないだろう。そこのポジションに居座れるように先輩との関係を築いたのはわたし。これ以上最善の関係があるだろうか?ううん、きっとない。とわたしは自分に言い聞かせ今日も寝ている先輩にだけ本当の気持ちを打ち明ける。

「影山先輩、大好きです。おやすみなさい」

わたしはずるい、ずるい女だ。先輩の彼女が何人代わっても、わたしだけはこのポジションから動かない。何があっても、誰にも絶対このポジションだけは譲らないし、譲るつもりもない。何度か「彼女がお前のことうるせぇ」って先輩から聞いたこともあるけど、彼女になってひと時でも愛してもらえたならわたしの存在にがたがた文句言ってこないで。わたしから、先輩を奪わないで。







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