あの子になりたい | ナノ




01



「そんなに俺のこと、好きか?」

どうして、こんなことになっているのか自分でも理解出来ていない。ただ、目の前の影山先輩がやっぱり世界で1番格好良くてキラキラ輝いて見える。それだけはわかっていた。ぽわぽわと正常に働いていない脳で影山先輩を見つめていると、ふっと目を細めて顔が近づいてくる。

格好良すぎて、このまま心臓が止まってしまうんじゃないかとわたしは本気で思った。たった一晩の幸せでもいい、今だけで、いい。そう思ってわたしは目を閉じ、影山先輩のキスを受け入れた。

◇◇◇

わたしの好きな人を紹介します。二つ年上の影山飛雄先輩。バレー部のセッターで、全日本ユースにも選ばれるほどの実力らしい。らしい、というのはわたしがバレーをしてる影山先輩のことをあまり知らないことが原因だった。

影山先輩との出会いは入学式で、緊張のあまり気分が悪くなったわたしを担いで保健室に連れて行ってくれたことだった。その時は意識が朦朧としていて、影山先輩のことはハッキリと覚えていなかった。けど優しい大きな手と心地のいい声がわたしのことを心配してくれていたことは覚えていた。

2度目の出会いは食堂で、オレンジ色の髪をした先輩に「あー!!!入学式で影山が拉致った女の子だ!」と大きい声で叫ばれたことだった。

「大丈夫だった?!コイツになんもされなかった?」
「えっ、?」
「日向ボゲェ...!お前くだらねぇこと言ってんじゃねえ!」

状況がわからず、上級生2人...しかも、背も大きい男の先輩に囲まれ変な汗をかいていると影山、と呼ばれた先輩が「あの後大丈夫だったか」と聞いてくれてやっと散らばっていた記憶のピースが集まる。

「入学式の、?」
「覚えてねぇか。顔、真っ青だったぞ」
「あの時は、ありがとうございました!」

深々と頭を下げて、次に頭を上げて目が合った時、自分が恋に落ちたとわかってしまった。食堂に入る日の光に照らされた黒髪がまるで王子様のようだったなんて、陳腐すぎて恥ずかしいけどそれ以上の言葉が見つからなかった。

わたしは、もしかしたらこの人に出会うためにこの高校に入ったのかもしれない。そんな風にさえ思えた。ドキドキ、と高鳴る胸が一向に収まらずわたしの本能がこのチャンスを逃すなと全身で知らせてきているような気がした。

「あ、あの!苗字、名前です」
「影山飛雄、っす」
「連絡先…教えてください!」

これじゃあ、ただのナンパじゃないか。「お礼を…!」と伝えようとするが、影山先輩はあっさり「うっす」と携帯電話を差し出してくれた。震えてしまう手が、どうかバレませんように。そんな淡い願いを抱きながら、連絡先一覧の「影山先輩」の文字を見てわたしは1人頬が緩むのだった。

その日から、影山先輩との距離は少しずつ。本当に僅かだが縮まっていったように感じる。朝に「おはようございます」とメールを送れば、夜には「お疲れ」と返事が来るようになった。食堂や廊下で会って「こんにちは」と言えば「うっす」と直接挨拶も出来るようになった。影山先輩に挨拶がしたくて、三年生の移動教室の科目もすっかり頭に入ってしまったしタイミング悪くいつもと違うルートを影山先輩が使って会えない日はそれはもう落ち込み具合もハンパなかった。

「影山先輩!」
「っす」
「今日もかっこいいです!」
「アザス」
「部活、頑張ってください」
「苗字さんも、頑張って」
「ハイ!」

今日はいっぱい話せた…!なんて思いながら、にやついた顔を必死で抑えて教室へと戻る。最初の頃は目を合わせるだけでいっぱいいっぱいだったけど、なんとかこうして会話を続けることが出来るようにもなった。大進歩でわたしは自分で自分のことを褒めてあげたい。

影山先輩と、初めて話したあの日から約3ヶ月のある夏の日。わたしは影山先輩に彼女がいることを知った。







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