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結局、昼休みに先輩と写真を撮ってもらって。あの子に悪いな、という気持ちはもちろんあるけどこれくらいはきっと許してもらえる、と先輩の学ランを脱いで影山先輩へと返した。
「ありがとうございました!」
「おう」
「苗字ちゃん、写真送るから連絡先交換しよ」
「あ、ハイ!」
影山先輩と日向先輩は今日も昼休みにバレーをしていたようで、撮影係は日向先輩が立候補してくれた。恥ずかしい気持ちもあったけど、日向先輩にはわたしの気持ちはバレてる気しかしてないし今更隠すこともないか、と諦めていた。
「わ!影山先輩顔ちっちゃ!かっこいい〜!」
送ってきてもらった写真を携帯で確認していると、つい心の声が全力で溢れ出してしまう。日向先輩が笑ってくれたのが救いだった。
「ほんと、苗字ちゃん影山のこと好きだよな」
「え!?あ、ファ、ファンなので…」
「へーえ?よかったな、影山クン!こんな可愛いファンがいてさぁ」
「あ?うるせーぞ日向」
「でも影山今彼女いねーんだろ?付き合っちゃえばいーじゃん!」
日向先輩の発言に悪意がないことなんてわかりきってるし、多分どちらかというとわたしに対しての気遣いだってこともわかる。でも、タイミングが悪すぎた。わたしは持っていた携帯を動揺して地面に落としてしまったし、日向先輩も妙な空気に首を傾げている。きっと、わたしが何か言わなくてはと声を出したいが、上手く声が出ない。影山先輩が何か言い出す前に、話さなきゃ。話を変えなきゃ。そう、わかってはいたのに。
「昨日から彼女いるから、無理だ」
「はぁ!?お前な!!」
日向先輩が一瞬わたしの方を見て、影山先輩を連れて少し遠くへ行く。日向先輩は小声で話しているつもりのようだけど、残念ながらわたしの耳にははっきりと聞こえてしまっていた。
「おま、!そういうことは先に言っとけよ」
「あ?なんでおめーに彼女出来たとか言わなきゃなんねぇ」
「いやいやいや、こっちにも段取りってもんがさあ!?」
「意味わかんねぇ」
先輩たちにこれ以上大事な時間を割かせるわけにもいかないので、わたしはそのまま少し離れたところから「ありがとうございました!」と声をかけてその場から立ち去る。日向先輩は青い顔をしながら「バイバーイ」と手を振ってくれて、影山先輩はいつも通りの仏頂面のまま手をあげてくれて。あ、かっこいい。なんて思いながら自分のクラスへと戻った。
自分の席に座って、気づいたことがある。思ったより、平気かも知れない。強がり、虚勢かもしれないけど影山先輩と普通に話せたなぁと自分の神経が割と図太くなりつつあることを感じた。そもそも、影山先輩に彼女がいない期間の方が知り合ってからきっと短いし、わたしは彼女のいる影山先輩と話している回数の方が多かったのかも知れない。なんて、よくわからない理論で頭を埋めようとする。
授業がはじまってすぐポケットの中で携帯が震えて、いつもなら授業中に携帯を盗み見たりしないけどなんとなく気になってこっそり見てしまった。
「ごめん!本当に、ごめん!」
と、土下座の顔文字つきで送られてきたメールに日向先輩だとすぐに気付く。これは、なんて返すのが1番気を遣わせないだろうか…と返事に悩んでしまい結局午後からの授業はほとんど集中出来なかった。
「知ってました。大丈夫です」
なんて可愛げのカケラもない返事を結局送ることにして、携帯を閉じて教室を出た。教室から出ると、隣のクラスのあの子とぶつかる。
「あ、ごめんなさい…!」
持っていた携帯をまた落としてしまい、地面から拾い上げるとあの子はわたしを睨んでいた。
「わたし影山先輩と、付き合ってるから」
牽制、のようなことを言われて頭をハンマーで殴られたような気分になる。「おめでとう」と答えるとその答えは彼女にとって良い答えではなかったようで可愛い顔が台無しになるくらい、表情は歪んでいた。
「人の彼氏に付き纏ったりしないでね」
「うん、しないよ」
「あっそ。じゃあいいけど」
ああ、この子にとってわたしは牽制しなきゃいけない存在で。彼女にせっかくなれたのにわたしのことが邪魔で気になって仕方ないんだな。そう思うと、なんだか途端に目の前の子が可哀想に見えてしまって。昨日泣いていた自分が馬鹿らしくなる。わたしって、多分ものすごく性格が悪いからだと思うんだけど、この子がわたしを敵視する度にきっと…わたしは嬉しいと思ってしまうんだろうな。