あの子になりたい | ナノ




10


 
救護室に到着すると、怪我人で溢れかえっていてずっと一緒にいてもらうのも申し訳なく「先戻っててください」と声をかけるが聞き入れてもらえそうになかった。

「...部室に、あるから行くか」

影山先輩はそう呟くとまたわたしを抱き抱えようとする。が、さすがに人目も多くさっきより少しは頭も働くようになっていた為全力で遠慮させて頂くことにする。

「あ、歩けます!むしろもう大丈夫なのでよかったら戻ってください...!」

そう伝えるが、影山先輩はじーっとわたしの目を見つめて来る。かっこよすぎて心臓が止まりかねないので、お願いだからやめて頂きたい。そっと目を逸らすと椅子に座っているわたしを立ち上がらせ無言でまた抱き抱えられる。

「怪我、甘くみんな。行くぞ」
「せ、先輩...!せめて、降ろしてください」
「こうした方が早い」

いや、そうなんですけどね?幸いにも周りの人達も怪我人や治療でバタバタしていてあまり目立たなかった。先輩は慣れた足つきで部室に向かい、鍵を開けて部室の椅子へ座らされる。

「こういう怪我ん時は...」

救急箱のようなものを探りながら、これも違うあれも違うと何かを探してくれているようだった。影山先輩の背中を見ながらわたしは好きすぎて、もう、どうにかなってしまいそうで。穴が開くほど先輩の背中を見つめていたが、先輩が振り返りそうになり、目を逸らす。

「あったぞ」
「ありがとうごさいます!」
「痛いけど我慢しろ」

先輩の指がわたしの足首に触れ、心臓の音が外に飛び出そうになる。曲げていた足を伸ばされ膝に消毒液がかけられる。

「っ、!」
「我慢しろ」
「痛、っい...!」

わたしの足元にしゃがみ込んで手当てをしてくれている影山先輩。普段見ることのないつむじが可愛くてじっと見つめてしまう。影山先輩って、つむじも可愛いんだ...と思わず手が伸びてしまい先輩の頭の上に手を置いてしまう。

「あ?」

先輩の頭を撫でてるようになってしまい、目が合い2人とも固まる。無言の時間が数秒過ぎ、焦ったように手を引っ込めて嘘くさい言い訳を並べて必死に誤魔化そうとする。

「いや、その!先輩、頭にほこりが、」
「...そうか」

わたしの真っ赤に染まった顔と、慌てふためいてる様子に先輩は絶対嘘だと気づいているのに笑いを殺しながら接してくれて余計に恥ずかしい。手当をしてもらった足を見ると、丁寧に、綺麗にテーピングが施された足首と乱雑に貼られた膝の絆創膏が対照的で思わず笑ってしまう。

「下手で悪かったな」

わたしが笑った理由が一瞬でバレてしまい、影山先輩も心当たりがあったのか2人で目を見合わせて吹き出してしまった。

「だ、だって...!先輩、ふふっ」
「あ?うるせぇ、自分で貼り直せ」
「やです!せっかく先輩が貼ってくれたし、このままがいい」
「そうかよ」

照れたように顔をそっぽ向ける先輩が可愛くて、今度は本当に頭を撫でてしまった。

「...苗字、ゴミとれたか?」
「まだ、です」

ゆっくりと先輩の頭を撫でて、サラサラの髪の毛を手櫛で堪能する。ずっとこのまま時間が止まればいいのに。告白する勇気のないわたしは、こんな絶好のチャンスでも、絶好のタイミングでも先輩に想いを伝えることができなかった。

だからこの先何が起きてもわたしは文句を言える立場じゃないし、先輩を引き止めることも出来ない。全部、全部自分が悪いってわかってる。







×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -