あの子になりたい | ナノ




09


日向先輩は写真を撮った後、他の後輩やクラスメイトと楽しそうに写真を撮っていて本当に交友関係が広い人だなぁ、と尊敬する。わたしも友達が多い方ではないし、どちらかというと仲良くなった子とだけ仲が良ければいいや、と思ってしまうタイプだった。

「苗字さーん!頑張れー!」

学年対抗リレーでわたしは3番目だった。何回かバトンパスを練習しただけで、ほぼほぼぶっつけ本番である。足は遅い方ではないが、早い方でもないと思う。学年対抗リレーは基本的に文化部、もしくは帰宅部のみで競うことになっておりクラスの帰宅部でジャンケンに負けてしまったのが運の尽きだった。

緊張で体は熱いのに指先は冷たく感じる。第1走者がスタートをし、なんとわたし達のチームは首位を独走していた。気付けばどんどんレースは進み、バトンが第2走者へと渡る。待機スペースで指をほぐしながら待っていると、違うクラスの応援席の方から視線を感じる。

「っ、せんぱ…!」

これだけ騒がしくても、たくさんいても見間違えるはずがなかった。だって、あんなにキラキラ輝いて見えるのはこの世で影山先輩ただ1人だし、見慣れないただの学校指定の体操服ですらかっこよすぎて胸がきゅんとなるのが自分でもわかる。緊張だけを抱いていたが、いっきに別の感情が押し寄せてきて指先に熱が戻ってくる。目が合った、気がする。ううん、目が合ったと思っておこう。だって先輩と答え合わせして確かめるしか方法がないなら、わたしの好きに思ったっていいですよね?そんなことを考える余裕すら生まれて大きく深呼吸をしてバトンを待つ。

「お願い!」

と、託されたバトンを受け取りただがむしゃらに前だけを見て死ぬ気で走った。歓声と、自分の心臓の音で耳が割れそうになる。落とさないか、不安だったバトンをしっかり指先まで力を込めてぎゅっと握りながらただただ全力で砂を蹴る。走って、走って、後はバトンを託すだけ。だったのに、足がもつれて転びそうになる。ぐっと堪えてバトンをアンカーに渡してから、わたしは大きな音を立てて倒れた。起き上がれないほどの痛みではなかったが、何が起きているのかわからず先生に助けられ人に踏まれる心配はなくなった。

「いっ、たぁ…」

膝の流血を見て、やっと痛いと認識をする。痛みで涙が込み上げてきて視界が揺れる。鈍臭い帰宅部が調子乗るから、こんなことになったんだと自分を責めてみるが解決にはならない。すぐにでも救護室に向かいたかったが痛すぎて一度座ってしまったら立ち上がることができなかった。

「倒れてんじゃねぇか」

顔を、上げれなかった。だって、そんな...そんな、ことある?信じられない。

三角座りのまま自分の膝の怪我を見つめたまま固まる。今、顔を上げて影山先輩と目が合ったら泣いてしまうと思ったから。怪我して泣くとか、恥ずかしすぎて見られたくない。

「立てるか?」

優しい先輩の声が聞こえて、ああ、もうこんなの...好き以外何の感情もない。膝を見つめたままふるふると首を横に振る。先輩は少しため息をついた後「落ちるなよ」と三角に立てていたわたしの膝裏に腕を突っ込んで立ち上がる。急な浮遊感に驚いて手をバタバタさせてしまう。

「ま、っ...!先輩!」
「危ねぇから捕まっとけ」
「せんぱ、いっ...」

好きだ、と言ってしまいそうだった。好きです、先輩、大好きです。そう言えたらどれだけ楽だったか。恥ずかしくて恥ずかしくて、それでもやっぱり嬉しくて先輩の体操服をシワになるくらいぎゅっと握って目を閉じた。







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