あの子になりたい | ナノ




07


そしてリハーサルの日。午前中にに日向先輩から学ランのジャケットを無事に借りることが出来て、昼休みの練習に参加する。やっぱりサイズもそこまで調整しなくて良さそうだし、良い感じ、と日向先輩に心の中でたくさん感謝をしておいた。

「名前〜!見たよ!上から」
「ほんと?どうだった?」
「なんかいつもの名前と違って、かっこよかった!学ラン効果?」
「はは、そうかも!」
「結局誰に借りたの?」
「ん?日向先輩に借りた!」

そう言いながらタオルで汗を拭いていると、信じられないものを見るような目で友人ちゃんに見られて居心地が悪くなる。

「バカなの?」
「…だって…」
「聞いたの!?」
「聞いて、ない…」

自分だって、保身に逃げたことくらいわかっているし逃げたところで守るものがないってこともわかってる。それでも影山先輩に聞く勇気をわたしは持ち合わせていなかった。断られたら、もし先輩にまた彼女が出来ていたら。そう考えると息もできなくなる苦しくなる。それならば、はじめから知らない方がマシだと気づいてしまったんだ。

「まあ、名前が良いなら何も言わないけど…」
「うん。ごめん、ありがとう」

そう話していると、友人ちゃんは彼氏と待ち合わせの時間らしく手鏡で前髪を直しながら去っていった。日に日に可愛くなっていく友人ちゃんに、恋すると女の子は可愛くなるの。と教えてもらった。そんなものなのかな、と階段の全身鏡で自分のことをくまなくチェックしてみるが、別に変わったところはなさそうだった。恋をしたって、可愛くなれない人間は何をしたら可愛くなるんだろうか。やぼったい頬を摘みながら鏡を見ていると大きな手が頭の上に乗せられ、驚いて振り返る。

「かっ、げやま先輩!」

振り返った衝撃で鏡に背中を打ちつける。痛い。でも、先輩に久しぶりに会えた!と満面の笑みで話しかける。どうやら先輩は教室に戻る途中だったようで、少し話してくれそうだった。ラッキー!

「何でお前学ランなんか着てんだ」
「今年の応援団の衣装なんです!」
「作ったのか?」
「いえ、日向先輩に借りました!」

その瞬間、なんで自分はいらないことばかり言ってしまうんだろう。いっそのことこの唇を縫ってもらった方がよかったんじゃないか。と心の底から後悔するほどに影山先輩の眉間の皺が深くなる。

「日向って、あの日向か?」
「え、あ…はい…」

やっぱり調子に乗ってしまっただろうか。バレー部に縁のゆかりもないただの一年生が、全国大会に行くほど競合のバレー部のエースに学ランを借りるなんて…と先輩に拒絶の言葉を言われないか足元を見ながら必死に涙を我慢する。

「脱げ」

そう一言だけ呟かれ、わたしは素直に従って学ランを脱いで先輩に手渡す。きっと先輩から返してくれるんだろう。そして、わたしはきっと影山先輩にもう嫌われてしまったはず。日向先輩を見かけても、もう楽しくお話出来ないかもしれない。それは嫌だなぁ、影山先輩は見られるだけで幸せだけど。日向先輩とはお喋りしたいもんなぁ、と考えていると肩に学ランをかけられる。

「え?」

自分の身に起きていることが理解できず、目の前の影山先輩をじっと見つめてしまう。ずり落ちた学ランを手に取ると、日向先輩のものよりかなり大きい。そして、目の前の先輩はシャツ一枚になっていた。

「え、あ…え!?その、これは…」
「俺のだ」
「そう、ですよね」
「汚すなよ」

思わず学ランをぎゅ、っと抱きしめると影山先輩の匂いがして頭が爆発しそうだった。もう、死んじゃうかもしれない。だめだ、だめだと思いながらも先輩の背中を見送ってからこっそりと匂いを嗅いでしまった。う…好きだ。







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