あの子になりたい | ナノ




06


応援団の仕事といっても、当日までは応援のダンスや声出しの練習がほとんどで。帰宅部のわたしはほぼ毎日のように参加していた。今年のコンセプトは昔ながらの応援団らしく、男女も全員学ランを着て行うらしい。当然彼氏がいる応援団の子は彼氏に学ランを借りるのが当たり前だし、片思いの女の子達は好きな人に借りようと必死だった。まあ、逆も然りで応援団じゃない男の子から学ランを貸そうか?と声をかけられている女の子も多かった。

「てなわけでね、多分わたしだけなんだよ…学ランまだ借りれてないの」
「影山先輩に聞いたの?」
「多分、もう空いてないと思う…」

そう、わたしだって学ランの話を聞いた時1番最初に影山先輩の顔が浮かんだし、なんならその足で借りに行ったのに。また、間に合わなかった。

「影山、学ラン貸してよ」
「あ?」
「応援団で使うんだよね。その日だけでいいからさぁ」

わたし、またタイミング悪く影山先輩の変な場面に遭遇してしまったな。と2人から見えない陰でひっそりと会話が終わるのを待つことにした。決して、盗み聞きじゃありません。

「断る」
「は〜?ケチ」
「うるせぇ。他のやつに頼めよ」
「…影山のこと、好きだから借りたいんだけど。ダメ?」

あああああ!もう、なんで、わたしは、こんなに、タイミングが…!と自分のタイミングの悪さにドン引きをする。また先輩に彼女が出来るところを見ておかないといけないのか。それは、無理だし嫌すぎる。と会話が完全に終わる前に逃げ出してしまった。

ここまでを友人ちゃんに説明すると、何とも哀れなものを見るような目で見られて気まずい気持ちで卵焼きを飲み込んだ。

「いや、わたしも間が悪いなぁって思うよ!?」
「それにしても悪すぎない?」
「…辛い」
「ダメ元で聞いてみりゃいいじゃん!」
「うーん……」
「何も告白しろって言ってるわけじゃないし。学ランなくて困るのは事実じゃん?」
「そうだね…うん、聞いてみる!頑張る!」

そう意気込んで既に一週間が経過していた。体育祭は日に日に近づいているし、3日後には実際に学ランを着てリハーサルをやることまで決まっている。どうしよう、団長さんに説明して誰かから借りようか。そんなことを考えながら練習終わりに1人で歩いていると、後ろから元気いっぱいの日向先輩に声をかけられた。

「おーっす!」
「あ!お疲れ様です!」
「苗字ちゃん、今帰り?応援団も大変なんだな」
「そうなんです!あと3日でリハなんで、団長さんが今日はギリギリまでやるぞ!って」

待てよ、日向先輩の学ラン借りればよくない?背丈もそこまで大きくないし、同級生から日向先輩に借りたって話も聞いてない。もしかしたら、いけるかも!そう思い、わたしは先輩に事情を説明してお願いすることにした。

「...俺のでいーの?」
「はい!先輩のがいいです!」
「いいよ、わかった!」
「わ!ありがとうございます!」

思いのほかあっさりと決まってわたしはほっと胸を撫で下ろす。日向先輩とはそのまま校門で別れて、影山先輩の姿を探すがどこにも見当たらない。今日は早く帰ったのかな、今日は一日も先輩の姿が見えなかったなぁとしょんぼりしながら家に帰ることにした。

帰って1番最初に、影山先輩に「今日会えなくて寂しかったです」と送れば珍しく返事をすぐに受信した。

「俺は見たけどな」
「え!?声かけてくださいよ!」
「なんか外で踊ってた」
「見たんですか!?恥ずかし…!」
「当日も頑張れよ」

先輩に見られていたとは夢にも思わず、さらに「頑張れよ」だって!嬉しくて嬉しくて、そのメールを保護しておくことに決めた。最初は先輩とのメールを全部1通残らず保護していたのだが、思ったより数が増えてきてしまいこのままでは携帯の中身が全部影山先輩になってしまう。と、泣く泣く厳選することに決めた。

でも今日のこれは、3本の指に入るくらい嬉しいメールかもしれない。と何度も何度も、携帯を見ては頬を緩ませた。







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