あの子になりたい | ナノ




05


季節は秋、秋といえば運動の秋。運動と言えば体育祭。体育祭といえば!

「影山先輩のかっこいい姿見れるじゃん!」
「はいはい、よかったね」
「え?何その反応」
「別にー?名前、先輩が歩いてるだけでかっこいって言ってるし、自販機でジュース買うだけで好きって言うし」
「だって…影山先輩だよ?存在がかっこいいじゃん」

真顔で友人ちゃんにそういうと「彼女今いないんでしょ?告白したら?」なんて簡単に言ってくる。わたしは教室の机におでこをつけて項垂れた。

「…そうなんだけどさ、振られるより今の方が楽しいんじゃないかって」
「逃げるんだぁ」

友人ちゃんはネイルの施された綺麗な指を見つめ、もう片方の手で携帯を触りながらわたしの話を半分…いや、三分の一くらい聞いてくれている。

「影山先輩と付き合いたくないの?」
「いや、そりゃぁ…付き合いたい、けど。自信ない」
「なんの?」
「あの影山先輩の横に立つ自信は、ない」

そう。これがわたしを1番悩ませている原因だった。影山飛雄、かっこよすぎる罪で逮捕です。なんてふざけているが、実際は真剣な悩みだった。あの高身長に、小さい顔、綺麗な目にシュッとした鼻筋。それからサラッとした黒髪。一瞬しか見てない元彼女さんもとても綺麗だったし、自分が影山先輩と腕を組んで歩いているところを想像したらお粗末すぎて、自分の脳内だけど申し訳ない気持ちでいっぱいになる。今はただの懐いている後輩として、先輩に話しかけたりする分気楽だし気にしなくていいが、彼女となると別だった。

「じゃあ、また先輩に彼女出来て泣くんだ?」
「そんな言い方しなくてもいいじゃん…」

しゅん、と眉毛を下げて訴えると「ごめんごめん」と謝られる。そう、最近友人ちゃんは彼氏が出来てわたしにも早く彼氏を作れとずっと言ってくるのだった。

「名前も、可愛いんだから先輩の追っかけ辞めたらすぐ彼氏できるよ」
「でもわたし、彼氏が欲しいわけじゃなくて…先輩が、好きなんだもん」
「好きじゃなくてもね、付き合ったら好きだなって思うよ」
「う…友人ちゃんが、大人だ…」
「まあね?」

そんな会話をしていると、昼休みもあと15分で終わりそうになる。今日は何曜日?あ、水曜日だ!水曜日は、影山先輩がわたしの教室から1番近い階段を使って教室を移動する日だから行かなくちゃ。と勢いよく立ち上がる。友人ちゃんに呆れられながらも、やっぱりわたしは先輩が好きだし、会いたい。

先輩に会えるかもしれない、なんて気持ちがわたしの身体を軽くさせ1人でスキップしながら廊下を移動してしまう。そわそわしながら階段付近で待機していると、先輩の声が聞こえてきてまさに今、通りかかりましたみたいな顔を作って「先輩!」といつものように声をかけるのだった。

「おー、苗字」
「俺ら先行っとくわ」
「おう」

名前も知らない影山先輩のクラスメイトさん、本当にありがとうございます。頭の中で深々とお礼をしながら束の間の5分間、わたしは先輩を独り占めする。

「もうすぐ体育祭ですね!」
「お前走れんの?」
「ひどい!走れますよ!…多分」
「またぶっ倒れんじゃねぇだろうな」
「その貧弱設定やめてもらっていいですか?」

影山先輩は右半身を壁に預けながら、わたしのことを見ろして話しかけてくる。正直、顔がかっこよすぎて会話の内容なんて頭に入るわけなかった。かっこい、かっこよすぎる、好き。なんて頭の中は大騒ぎなのに平常心で返事をしているわたし、偉いと思う。

「…また倒れたら、先輩に運んでもらうからいいもん」

自分の口から飛び出た言葉に、少し照れながらも先輩の顔をゆっくりと見上げる。先輩と目が合い、先輩の目が細くなる。この顔が、好き。もちろん全部好きだけど。わたしの言葉に笑ってくれるこの瞬間のこの表情が大好きだった。

「俺の前で倒れたらな」
「えー!じゃあそうします!」
「まず倒れんじゃねぇ」
「冗談じゃないですかぁ」

そんな軽口を叩いていると、予鈴のチャイムがわたし達の会話を遮り鳴り響く。舌打ちしたくなるほど、この予鈴がいつも憎くて堪らない。今日はもうタイムオーバーだなぁ、なんて先輩をもう一度見上げる。

「種目、何」
「リレーです!」
「そうか、じゃあな」

聞くだけ聞いておいて、先輩はそのまま階段を登って行った。階段の踊り場は全面ガラス張りになっていて太陽の光が先輩を照らしていていつもかっこいいけど、この瞬間がわたしには特別かっこよく見えて。きっと、誰も知らない影山先輩の姿でわたしは先輩が見えなくなるまで1人で噛み締めた。そして、ダッシュで教室に戻りなんとか授業に間に合うのだった。

…こんなわたしに、彼氏なんて出来るわけなくない?







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