君の夢が | ナノ


08



光来くんとお付き合いをはじめて月日が経ち、今日もわたしは光来くんの試合を観に来ていた。光来くんとのお付き合いは周りにバレることもなく、のんびりとしたものでとても居心地が良くて幸せな日々だった。

アドラーズに入団して2年目になったらしい。噂には聞いていた元烏野高校の影山くんも同じチームになると嬉しそうに話していた。光来くんのファンも男性がよく目立っていたが、徐々に女性ファンも増え最近は試合が終わっても光来くんに会うことなく家に帰ることが増えていた。今日も光来くんにLINEで連絡だけ入れて帰ることにする。

「今どっちにいる?」
「自分の家だよ」
「飯食ってから行って良い?」
「鍵開けとくね〜」
「危ないから、閉めとけ。また連絡する」

光来くんから急に電話がかかってきたと思えば、そんな内容で。せっかく家が近いんだから、一緒に住んでも良いんだけど...一歩踏み出せずにお互いの家を行き来する生活を繰り返していた。また、連絡するの一言からなかなか連絡が来ず心配になってLINEをしてみるが既読にもならない。心配で電話もしてみるが繋がらない。大丈夫かな、と無駄に家の中をうろうろすると光来くんから電話がかかってくる。

「あ、もしもし?星海の彼女さんですか?」
「もしもし…」
「星海とご飯食べてたんですけど、ちょっと潰れちゃって」
「あぁ!?潰れてねぇわ。つか勝手にスマホ触んな」
「迎えにきてもらっても良いですか?」
「おい、危ねぇからこんな時間に家出そうとすんなって」
「だってこうでもしないと会わせてくんないじゃん」

電話がスピーカーに変わったのか2人分の声が聞こえ、わたしは置いてけぼりの気持ちになる。光来くんの友好関係が広いのもわかってたし、わたしだって大学の友達と飲みに行ったりするけど…でも、男の子と2人で飲みに行ったことはないもん。嫉妬でめちゃくちゃになる気持ちを隠しながら「今から、行きます」と返事をして店の住所をメモに取る。

絶対に一緒にいる女の子より、可愛い自分でいたくてメイクをさっと直して髪の毛も綺麗にまとめて、デートでまだ着たことのない服を着て家を出た。そうでもしないと、光来くんと知らない女の子が話してるところを見るだけで泣いてしまいそうだった。

指定された居酒屋に入ると、光来くんは思っていたより酔っ払ってるようで店内に入っただけで話し声が聞こえてくる。

「だからさ、俺はなまえにもっかいバレーやってほしいわけ」

自分の名前が聞こえ、足が止まる。

「なまえとこっちで会えた時、俺は!まじで!運命だと思った」
「ナンパしたんでしょ?」
「おう」
「そこドヤることじゃないから」
「高3の時、春高で会えたら絶対声かけるって決めてたから。まさか会えなくなると思ってなくてすげー焦った」

どういうこと?頭の中がパニックで真っ白になっていく。

「したら、東京のこんな都会でたまたま会えて。神様は俺の味方だって思ったし...!」
「ハイハイ」
「なまえのバレー…好きだったんだよ。俺は」
「それは何回も聞いてるし、あたしだって好きだよ」
「でもなまえ多分もう、バレーに関わりたくないって思ってんだよ」
「…まあ、それは、ねぇ」
「俺の試合は楽しそうに観てくれてっけど」

光来くんから聞かされる話は、今まで聞いたことない話のオンパレードで。さっきまで嫉妬で狂っていたわたしの気持ちは困惑に支配され、もう相手が女の子で2人でお酒を飲んでるとか。そんなことはどうでもよくなっていた。

「光来くん」

決して大きい声ではなかった。居酒屋の騒がしさに揉み消されたっておかしくなかった。それでもわたしの呟いた言葉は光来くんの耳に真っ直ぐ届いて、光来くんがわたしの顔見て優しく笑った。あ、だめだと思った瞬間にはもう涙が出ていてぎょっとした光来くんの気持ちを置き去りにして光来くんに抱きついてしまった。

「ど、したんだよ」
「わたし、バレー嫌いじゃないよ。光来くんの試合、いつも楽しいよ」
「おま、え…聞いてたのか?」
「光来くんの声がおっきいから、聞こえてきたの」

光来くんと一緒にいた女の子は、気を遣ってその場を去ろうとする。

「ごめんなさい、急に割り込んでしまって」
「いや!あたしこそみょうじさんに会ってみたくて星海借りてすいません」

ああ、この子が光来くんが前に言っていた子か、と1人で点と点が繋がる。そして、今自分が初対面の人の前で何をしでかしたか理解し羞恥心に支配される。そっと光来くんから離れると、光来くんがトントンと自分の横に座れと促してくる。座るとテーブルの下でぎゅ、っと手を繋いでくれて思わず頬が綻ぶ。

「あの、ずっとみょうじさんのファンでした」
「え!?」
「わたしも同じポジションなんで、いつかみょうじさんみたいにプレーしたいってずっと思ってて」
「…わたし、なんて」
「あたしにとっては、みょうじさんはヒーローなんです」

面と向かってそう言われ、居心地の悪さを感じる。思わず光来くんの方を見るとまるで自分が褒められたかのように嬉しそうで。

「1回だけ、遊びに来てくれませんか?」
「、え」
「もちろん無理にとは言いませんし、試合でも練習でもなんでもいいです」
「わたし、あの日からもう...1度もボールに触れてないです」
「それでも。みょうじさんと一緒にバレーで遊びたいです」
「、ふふ。遊ぶって…」

目の前の女の子の真剣な様子に、ずっと凝り固まっていた心が解れ体内に血が巡っていくような感覚になる。ずっと真剣なバレーだけをしてきたわたしが、バレーで遊んでもいいんだろうか?そんな気持ちを察したのか光来くんが「なまえ」と名前を呼んでくる。

「バレーは、面白いんだぞ」
「そんなの、知ってるよ」

笑いながらそう返事をすると、光来くんの顔がぱあっと明るくなりまた自分のことのように嬉しそうに笑っていた。そっか、楽しいことだけしていいんだ。そんな気持ちで光来くんの手をぎゅっと握り返した。





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