06
その日の帰り道、まだ帰りたくないし光来くんと離れたくなくて。光来くんも一緒の気持ちでいてくれているのか、いつもバイバイする最寄り駅の前で繋いだままの手を無言で見つめる。
「あの」「ねぇ」
と同時に声が出るなんて、ベタすぎない?と繋がれた手から光来くんへと視線を移すと光来くんと目が合う。
「あのさ」
わたし、今どんな顔してるんだろう。可愛い顔、出来てるかな。光来くんと目が合ったまま黙って光来くんを見つめる。あ、かっこいい。なんて思いながら光来くんの言葉の続きを待つ。
「いや、やっぱなんも」
「帰りた、く…ない、です」
「…!」
「言わせないでよ。バカぁ」
「ち、が!なまえが、めちゃくちゃ可愛い顔で、見てくるから、その」
「光来くん、顔真っ赤だよ」
「うるせー!なまえも真っ赤なくせに!」
光来くんがわたしの鼻をぎゅ、っと摘んでまた歩き出す。どこへ行くの?なんて可愛いことは聞けず、光来くんの家に連れて行かれるんだろう、と心の中で期待してしまう。もしかして、今日光来くんとそういうこと…するのかな。なんてドキドキしながら歩いていると信号待ちで光来くんと肩がぶつかる。
「っ、お、ごめん」
「あ…、わたしこそごめん」
そのタイミングで離された手が寂しくて、光来くんの手に「もう1回繋いでよ」と念を送るがもちろん届くはずもなく光来くんが話し出した。
「俺の家、に行こうと思うんですが…」
「うん。何か飲み物とか買って行く?」
「…いいのか?いや、もちろん何もしねぇから安心しろ」
何も、してくれないんだ。と思ったと同時にその言葉は光来くんに届いてしまっていた。
「お、おおおま!お前!」
「ちが!その、そういうんじゃなくて!」
「待て!俺の心臓が、」
「光来くんに、されて嫌なこと。ない、もん」
「やめろって言っただろ!!!」
「はぁ!?声でかいから!」
光来くんの声のせいで、周りのひとがチラチラとわたし達を見ている。そう言えば光来くんって割と有名人だけど普通にわたしと歩いて、その、家に連れ込んだりしても大丈夫なんだろうか。そんなことを考えながら、飲み物と何個かお菓子を買いコンビニを出る。ビニール袋を手に持つと無言で光来くんが持ってくれて、車道側を歩いてくれる。
あ、好きだな。と思った。
「ありがと」
「おう?」
「光来くんって、女の子の扱い慣れてるよね?」
「っ、はぁ!?」
「今だって荷物持ってくれたし、歩くのも車道側だし」
「それは、親に…言われた」
「お母さんに?」
照れながら頭をかいて、光来くんは「そうだ」と返事をする。なんだ、お母さんか。とほっとしてしまう自分がいて、今度は自分から勇気を出して空いてる光来くんの手を握った。光来くんの指が一瞬強張ったのが伝わり、そこから握り返してくれて嬉しい気持ちが心いっぱいに広がる。
「元カノ、とかの影響かと思った」
「は!?んなもん、いねぇし」
「、そうなの?」
「なまえこそ、な、慣れてんじゃねぇか」
「それ失礼な意味ってわかってる?」
む、っとしながら光来くんの指をぎゅっと握れば「すまん」と握り返してくる。
「なまえ、久しぶりに会ったらすげぇ綺麗になってたから。いや、前も綺麗だったけど」
「急に褒めないでよ…」
光来くんの急な発言に顔が熱くなり、空いてる手で顔をパタパタと仰ぐ。
「彼氏とかいるんだろうな、って思ってたし。俺なんか相手にされねぇかなって思ってたから」
「…逆だよ」
「あん?」
「光来くん、プロの凄い選手になってたし。もっと遠い人になってるって思ってた」
「別に俺はなんもかわんねーよ」
「わたし、本当はバレー辞めたって言った時嫌われるかと思ってた」
ずっと胸の内にあった言葉を吐き出してみると、すごく楽になった気がして。ああ、もっと早く言っておけばよかったなと後悔するほどだった。光来くんは家の鍵を開けながらわたしの発言に返事をせず家のドアを開ける。「お邪魔します」と、家に入った瞬間ぎゅっと抱きしめられて息が止まりそうになる。
「なまえのこと、たまたま俺らがバレーやってたから知ってただけであって。バレーがあってもなくても、俺はお前のこと好きだし、その、あれだ」
「…ふふ」
「笑うなよ」
「光来くん、ここ玄関だよ」
「知ってるわ!!!」
玄関に光来くんの今日1番の元気な声が響き、真横にあったわたしの耳はキーンとなる。だから、声大きいってば!