君の夢が | ナノ


05



「俺は、お前のバレーもう1回見たい」
「…バレーは1人じゃ出来ないよ」
「知り合いのチームで、なまえのこと好きだって言ってる奴がいて」
「待って、」
「ん?」
「もしかして、わたしのこと誘うために仲良くしてくれてたの?」

繋いだ手が離れ、光来くんのことを真っ直ぐ見つめる。さっきまでの気持ちは一瞬で凍ってしまったかのように冷えて、頭は冷静だった。

「違ぇよ!でも、俺が最近なまえと会ってるって知ったら誘って欲しいって」
「嫌だ。しないよ」
「試合だけでも、観に行かねぇ?」
「行かない。もう、バレーは辞めたの」
「じゃあなんで、そんなスッキリしてねぇ顔してんだよ」

光来くんに怒ったようにそう言われると、わたしは体が金縛りにあったように瞬き一つ出来なくなっていた。

「し、てない」
「してる」
「してない!わたしは、あのチームで勝ちたかったの!だから、他の人にボール上げたくない」

一瞬で数年前の気持ちに引き戻され、大粒の涙がぼたぼたと頬を伝う。光来くんは一瞬ぎょ、っとした顔をするが慣れない手つきでわたしの頬に伝う涙を親指で優しく拭ってくれる。

「わたしのせいで、負けたの」
「そんなことねぇだろ」
「わたしがもっと、ちゃんと、してたら…みんなで春高行けたのに」

多分、この気持ちは何年経っても色褪せることなくずっとわたしの根本に住み続けるんだろう。収まらない涙に光来くんがぐっとわたしのことを抱き寄せて「悪かった」と耳元で謝ってくれる。

「こ、らいくんには、わかんないよ!」

ほぼ八つ当たりのように光来くんの肩にぐりぐり顔を押し付けると光来くんの手がわたしの頭を優しく撫でてくれる。

「確かに俺には、わかんねぇよ」
「っ、」
「でも俺がお前のバレー好きだったことは覚えとけ」
「わたしは、バレーだけ、っじゃないもん」
「んなもんわかってるわ。...なまえのことが、好きだ」
「…泣かせといて、よく言う」
「だから悪ぃ、って…!」

光来くんの頬を掴んで、勢い良く唇をぶつけると歯がぶつかり痛さで2人ともその場で崩れ落ちる。

「ママ〜お兄ちゃん達チューしてた!」
「こら、そういうこと言わないの」

後ろからそんな親子の声が聞こえ、ここが公共の場であることを思い出し既に真っ赤だった顔がもっと赤くなってしまう。お互いに口を押さえながらその場から逃げるよう去り、無言で歩き続けた。

先に沈黙を破ったのはわたしのほうで。泣いてしまい、メイクも崩れてるだろうから「ちょっとお手洗い行ってくるね」と光来くんに告げて鏡で顔を見る。マスカラが寄れて目の下に滲んで黒くなっている。こんな顔で光来くんにキスしてしまったのか、と自己嫌悪に陥りながらささっとメイクを直す。

「なまえ!」

お手洗いから出て、光来くんを探していると名前を呼ばれて振り返る。

「ごめんね?待った?」
「…帰ったかと思った」
「はい?」
「お、俺…さっきなまえのこと泣かせたし、キスも失敗したし」
「ちょ、恥ずかしいから、思い出させないでよ」
「しかもなまえから好きって言われてねぇ!」

光来くんは周りなんてお構いなしの様子で、よく通る声でそう言ってくる。さっと周りを見ると、誰もいないようでほっとするが光来くんに肩を掴まれそれどこではなくなる。

「や!こ、光来くん!待って」
「…なんで」
「ここ、は…やだ」

失敗したファーストキスのやり直しが、お手洗いの前は嫌だなと告げる。光来くんは「んぐぐ」となんとも言えない声を出した後、わたしの肩を掴んでいた手を降ろしわたしの左手を取って歩き出す。

「次、何見に行くんだよ」

前を歩いてくれる光来くんと繋がっている手を見て、嬉しくなる。

「光来くん、好き!」
「は、あっ!?」

後ろから少し大きい声でそう伝えると、光来くんが立ち止まって真っ赤な顔で振り返る。

「そういうことは!ちゃんと!顔見て言えっての!」
「だって、好きだって思ったんだもん」
「うるせぇ。俺は毎秒思ってる」
「…バカ」
「なまえ」
「ん?」
「好きだ」
「わたしも、好き」
「だから俺の彼女になってくれ」
「歩きながら言わないでよ〜!」

さっきメイク直しをしたところなのに、溢れる涙を拭きながらそう伝えると光来くんは「悪ぃ、また失敗しちまった」と大好きな笑顔で言ってくる。好きだなぁ、と思いながら先を歩いている光来くんの後頭部に向かって「好きだよ〜」って視線を送るけどもちろん光来くんは気づいてくれなかった。





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