君の夢が | ナノ


04



いつもの待ち合わせ場所、今日こそは先に着いたかなと思っても光来くんは必ずわたしより先に居た。ひょこ、っと見えてる白い髪が太陽の光で反射してとてもキラキラで。ああ、今日も好きだなぁと込み上げてくる気持ちをぐっと抑えて「お待たせ」となんてことないフリして声をかけた。

「おう!俺も今来た!」
「絶対嘘じゃん〜!いっつも早いもん!」
「いや、ほんとほんと。気にすんなって」

ワハハ、と豪快に笑う光来くんの顔が眩しくてこの笑顔を直接浴び続けたら光合成で身長が伸びそうだなと謎思考に陥る。

「今日も綺麗だな」
「、っ...?!」
「いや!え、そのアレだ!!!服とか!!靴とか!!!似合ってる!!!髪の毛も!!」
「こ、光来くん...!声、おっきい」
「悪ぃ」
「...光来くんも、その...今日もかっこいいよ」

恥ずかしそうに先をズンズン歩く光来くんに聞こえなくてもいいや、とぼそりと呟くと光来くんはわたしの方を勢いよく振り返った。その顔は真っ赤で、言ったわたしの方が照れてしまうくらいテンパっていてきゅんと胸が高鳴る。

「お、おおお!お前!今!試合!し、してねぇぞ!」
「試合中じゃなくても、かっこいいって思うよ?」
「そーいうことは!軽々しく言うな!」
「軽く、ないもん」
「わかったから!もう!黙れ!」
「ひどくない?」
「俺の心臓が保たねぇから…」

耳まで真っ赤になっている光来くんがいつもはかっこいいのに、可愛い、愛しいと思えてしまう。今日何度目かわからない「好き」を抱えながら光来くんの隣を歩く。光来くんと歩くのは楽しい。歩幅を考えて歩かなくていいし、猫背にだってならなくていいし、何よりヒールを履いても嫌な顔一つしない。いつしか人より少し後ろを歩いたり、周りに合わせてヒールを調整したりとしていたが、光来くんとは面倒なことが何もなかった。

今日の目的地である動物園に到着する。我ながら子供っぽいチョイスかなと思ったが、光来くんも遠足ぶりだ!と喜んでくれていて安心した。

「何から周る?」
「俺ライオンとか虎とかなんか強そうなやつ見たい!」
「ふふ、いいよ。行こ!」
「おい!なんで笑った!」
「ん?なんでもないよ」

ギャーギャーと、光来くんが言ってくるのが面白くて。子供みたいな発言に笑ってしまった、なんて言ったらきっと光来くん怒るんだろうなぁ。とまた面白くて1人で笑ってしまう。まだ怒ってるのか、少し早歩きで前をずんずん進んでいく。少し離れてしまった距離を埋めようと走り出そうと一歩踏み込むとヒールが突っ掛かり前につんのめって転びそうになる。「わ!」と思わず声を上げると前にいた光来くんが驚いて両手を差し伸べて、わたしの体を受け止めてくれる。

ー近い。

びっくりした、より先にそんな感情で顔が真っ赤になる。恥ずかしくて光来くんの顔を見れずに俯いていると「大丈夫か?」と優しい声が降ってくる。

「う、うん。ごめん、ありがとう」
「俺こそ先歩いて悪かった」

まだ荒れ狂っている心臓が落ち着かず、鞄の紐をぎゅっと体の前で握る。受け止めてくれた時の腕の太さや、手をついた胸板の厚さに光来くんの男の部分を感じしてしまいもう好きが溢れて爆発してしまいそうだった。

「ん」

と、唐突に光来くんが手を差し伸べる。きょとん、と手を見つめていると少し苛立ったように「手」と一言だけ言われる。その瞬間に光来くんが言っている意味がわかり、全身に緊張が走る。恥ずかしい気持ちもあるが、それより光来くんに触れたい。その気持ちが勝ってしまった。

「し、失礼します?」
「なんだそれ」
「わかんない」

初めて繋いだ光来くんの手は、硬くて、大きくて。男の人の手だった。この繋いだ手から、好きだって伝われば良いのに。わたしが、光来くんのこと大好きだって気持ちが、どうかお願いだから伝わってください。ちょっとでも、わたしのこと女の子だって意識して欲しい。そんな下心で頭はいっぱいだった。

そこからは動物園を楽しむ、というより動物を見ている光来くんを楽しんだと言ってもいいかもしれない。光来くんはなぜか動物を見るたびに「あれなら勝てるか?」となぜか勝負をする前提で見ていて本当に面白かった。

「光来くんジャングルでも行くの?」
「行かねぇよ!でも、今こいつが逃げ出したら俺がなまえのこと守るしかないだろ」
「そ、そっち?」
「あぁん?」
「逃げないから、大丈夫、だよ」
「んなことわかんねぇだろ」

光来くんはあくまでも真面目に言ってるようで、わたしだけがこんなに心を乱されてずるい。そんな気持ちにすらなる。

「あ!見て!光来くんに似てる子いる!」

そう言って鴎の方を指さすと、光来くんは面白くなさそうに「そうかぁ?」と言ってくる。

「えー?似てない?なんかほら、目元とか!」
「俺の方がかっこいいだろ!あと、強そうだ!」
「ふふ、そうだね」
「だろ?」

なぜか満足そうに光来くんは喜んでいて、光来くんの一挙一動全てが愛おしくて仕方ない気持ちになる。

光来くんのことを盗み見すると、カモメから目を逸らさずに真剣な顔で見つめいている。そして、前を向いたまま一言。

「なまえはもう、バレーしないのか」

今まで何人にも聞かれたこの言葉を、光来くんに言われると誰よりも重くて鋭いナイフで刺されたような気持ちになる。

「うん、もうしないよ」

そう返事をするが、今わたしは上手く笑えているだろうか。光来くんが気を遣わないように、ちゃんと出来てるだろうか。





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