君の夢が | ナノ


03




そして、週末。 
朝から鏡を見るたびにどこか変なところはないかと気になるが、気付けば試合会場についていて久しぶりに感じるバレーボールに胸焼けを起こしそうだった。

試合中の星海くんは、良い意味で高校2年生で見た時と変わっておらずあの時から上手だったもんなぁ、と1人で納得する。同年代の男子で有名だった選手もたくさんいたがわたしは、星海くんのプレーが1番好きだった。だから正直、星海くんにわたしのプレーが好きだと言われた時は飛び上がるくらい嬉しかったし頑張っていてよかっとさえ思えた。ただ、まあプレーが好きなだけで星海くんに対して特別な感情を抱いていたわけでもないし、こうして試合に招待してもらえるほど仲良くなるなんて夢にも思っていなかった。

ちょっとした動作でも、星海くんから目を逸らせず気付けばアドラーズに点が入るたびに周りのファンの人たちと同じくらい喜んでいた。ああ、バレーボールって楽しいな。と何年振りに思ったか、わからないほど懐かしい感覚に自分でも驚く。

試合も終了し、プロの試合のレベルの高さに圧倒され、興奮したまま星海くんの前に顔を出す。

「お!みょうじ!見えてたぞ!」
「おめでとう!星海くんのプレー、やっぱりかっこよかった」

差し出された握手の手を握りながら星海くんが一向に話さないことに気づき顔を見ると真っ赤な顔をして俯いていた。

「大丈夫?体調悪い!?」
「ち、ちげぇ!その、お前が…」
「わたし?」
「急にかっこよかったとか言うから」
「…いや、だって…本当にそう思ったんだもん…」

星海くんと目が合わないまま2人で俯いてしまう。周りの声が賑やかで注意して聞いていないと星海くんの声が聞き取れそうになく何かを話し出した星海くんの方に耳を近づける。

「かっこよかったのか、俺」
「ふふ、うん。かっこよかったよ、星海くん」
「あーーーー、こう言う時、なんて言えばいいんだ」

照れていたと思えば、急に手を離され星海くんは頭をガシガシとかきながら照れ臭そうに笑っていた。

「ファンの子によく言われるんじゃないの?」
「後ろ見てみろよ」

そう言われ振り返ると、並んでいるのはほとんど男性で星海くんが言わんとしていたことがわかり言葉に詰まる。

「だから、その、嬉しかった。あざす」
「わたしも久しぶりにバレーの空気感じて、楽しかった。ありがとね」
「…あのさ」
「ん?」
「また、来いよ」
「うん。また、来る」
「んで、その…」

星海くんとは数えるほどしか話たことはないが、ここまで歯切れの悪い星海くんを見るのは初めてだった。

「光来、って呼べよ」
「え?」
「ほらその、別に深い意味はねぇっつーか!あーーー、苗字で呼ばれんの、...あんま慣れてねぇから」
「わ、わかった…光来、くん」
「おう」

最後にもう一度だけ握手をして、その場を立ち去ろうとすると星海くん改め光来くんの手が一瞬だけ強くなる。

「じゃあな、なまえ!」

そう言って、光来くんは次のファンの人たちと話し出してしまった。わたしは自分の頬が真っ赤に染まっているであろうことに気づき、会場のお手洗いで鏡を見てまた恥ずかしくなってしまった。

今まで気にしてなかった自分の名前が、急に宝物になったような気がして。さっきの光来くんの「なまえ」と呼んでくれた声を思い出しては顔が緩んでしまう。

そして、その日を境にわたし達の距離は一気に縮まり光来くんがオフの時は2人でよく遊びに行ってたくさんの時間を過ごした。光来くんのことを好きだと、自覚するまでに時間は必要なくて。会うたびにどんどん好きになっていて。それは多分、自惚じゃなければ光来くんも同じだと思えるほどに光来くんはわたしのとの時間を大切にしてくれていた。

朝起きて光来くんからの「今日も練習行ってくる!なまえも学校頑張れよ!」と言った連絡にすっかり慣れてしまって、今日も光来くんは元気にバレーボールをしているんだろうなと朝から幸せな気持ちになる。
あれだけ思い出すたびに辛い、悔しい気持ちになっていたバレーをまた少し前向きな気持ちで考えれるのは紛れもなく光来くんのおかげだった。





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