君の夢が | ナノ


02



「みょうじさん、個室の2番のお客さん呼んでるよ」
「え?」
「みょうじの知り合いだけど、勤務時間終わったら呼んで欲しいって店長に言ってたみたい」
「あ!ありがとうございます」

わたしを呼び出した犯人は分かり切っていたけど、何だか改めて顔を合わせるのは少し恥ずかしい。控えめに個室のドアをノックして「失礼します」と声をかけるとやはりそこには星海くんが待っていた。

「あれ?他の人は?」
「先帰るって、お前賄いとかあんの?飯もう食った?」
「今日は賄いないシフトだから家帰って食べるよ」
「じゃあ食ってけよ」
「え!?」

わたしの返事を聞く前に呼び出しのベルを押して星海くんが「何にすんだ」とメニューを差し出してくる。強引な人だな、とプレーを見ている時も感じたがこの人私生活でも割と強引なんだなと星海くんに対しての知識が一つ増える。注文を聞きに来た先輩が終始ニヤニヤしていたので、明日また訂正しなきゃなと面倒ごとも一つ増えた。

「お前さ、バレーもうやんねぇの?」

食事もある程度進み、ほぼ初対面のわたし達はお互いに近況報告という名の自己紹介をしながら少しずつ距離を詰めていた。が、星海くんのこの発言で築いてきた空気が一瞬で固まってしまった。まあ、そう思っているのはわたしだけだと思うけど。

「うん、やらないよ」
「大学にサークルあんだろ」
「あるねぇ」
「勿体ねぇな。お前すげぇ丁寧なプレーで好きだったのに」

好き、と言われて思わず心臓がどきっと高鳴る。恋愛ごとに免疫が全くないわたしには星海くんからまっすぐ言われたこの言葉で顔が真っ赤になる。わたしの反応が思っていた反応と違ったのか、星海くんは少し自分の発言を思い返して自分も真っ赤になっていた。

「ち、ちが!その、そういうやつじゃ、」
「ごめん!わかってる!大丈夫。ただ、男の人にそういうの言われるの慣れてなくて」
「そうなのか?」

そこは別に食いつかなくてよかったんだけどな、なんて心の声が星海くんに届くはずもなく会話を続ける。

「わたしほら、背も高いし髪もずっと短かったから恋愛対象には見えないって振られてばっかりで」

あはは、と乾いた笑いを溢すとさっきまで朗らかだった星海くんの表情がまるで試合中のように険しくなる。

「そんなやつ、好きになってんじゃねぇよ」
「…」
「みょうじはさ、ほらアレだろ高嶺の花っつーか、スタイルも良くて顔も小せぇし、そいつら全員隣に立つ勇気がなかったんだろ」
「そんなこと、初めて言われた」

さっきの発言より相当恥ずかしいことを言ってるはずなのに星海くんの表情は照れるどころかなぜか誇らしげで思わず笑顔になってしまう。

「はは、ありがとう」
「だから自信持て!」
「うん。そうする」
「土日、とかバイトまで暇じゃねぇの?」
「今週はバイト休みだよ」
「じゃあ試合見に来いよ!」

まあ、するわけじゃなくて見るだけなら…とわたしは星海くんの誘いに頷いた。その時の星海くんの顔が、あまりにも嬉しそうでわたしまで嬉しくなってしまい星海くんは人の気持ちを動かす天才だなと感心させられた。

お会計も全て星海くんが支払ってくれ、チケットも星海くんから直接受け取り申し訳ない気持ちでいっぱいになる。素直な気持ちを星海くんに告げると「んなもん、気にすんな!俺はもう働いてるから、学生のみょうじに奢るのは社会人として当たり前のマナーだ」とまた溢れる漢気にドキ、っとした。
連絡先を交換し、その日は簡単にお礼を連絡しておいた。どうやら星海くんは連絡はマメな方ではないようで、たまに返ってくる連絡にスマホを見る度嬉しい気持ちになっていた。





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