君の夢が | ナノ


01



「わたしは将来、オリンピック選手になって金メダルを獲りたいです!」

そんな夢は儚いもので、高校3年生で春高を逃したわたしにはスカウトの一つも声は掛からなかった。高校でバレーをやめることにしたわたしはそのまま東京の大学に進学し、華の女子大生を謳歌していた。ベリーショートだった髪はミイディアムボブにまで伸び、捻挫したら困るからと控えていたヒールを履き「自分より背の低い男なんてありえな〜い」と女子会を楽しんでいた。

正直バレー部の練習はきつかったし、高校生活でやり切ったと言えばやり切った。大学のサークルに入ってバレーをする選択肢ももちろんあったけど、わたしは代表決定戦の決勝のあの日からバレーボールに触れずにいた。元チームメイト達はやんわりとわたしの精神状態をわかってくれていたので特にバレーの話題もせず、卒業まで過ごせたが大学に入学してから強豪校のレギュラーだと聞きつけてきたバレーサークルの人たちと話すのがしんどかった。

「怪我じゃないんですけど、バレーしかしてこなかったから休憩したいなぁって」
「いつでも待ってるね?!みょうじさんのプレー見たことあるけど、丁寧なセットで打ってみたいってずっと思ってた!」
「あ、ありがと〜」

愛想笑いを顔に貼り付けて、今日も授業終わりにバレーサークルの女の子と会話を終えバイトに向かう。高校でバイトなんてもちろんできなかったから、今はバイトも楽しくて仕方がない。

今勤めているバイト先の焼肉屋さんも週に2、3回ほどで慣れるまで時間はかかったが1年が過ぎ今となっては後輩に教える立場でもある。今日もいつも通り制服に着替え、バックルームから出るとわたしと同じくらいの身長の男の人とぶつかりそうになる。

「失礼しました!」

お客様に迷惑をかけてしまった、と頭を下げると「お前!」と大きい声で呼ばれ怒らせてしまったかと鼓動が早くなり冷や汗が一気に吹き出す。

「3番!」
「、え?」
「お前!3番だろ!春高で1、2年セッターやってた!」
「は、はい…!あ、星海くん、?」
「おう!」

よくよく顔を見ると、見覚えのある顔でホッとする。が、わたしのことを知っていたとは思わず「お前名前は?」と聞かれ苗字を伝える。ずっと背番号で呼ばれるのは恥ずかしかったのでちょうどいい。

「ここで働いてんのか?」
「うん、大学がすぐそこなんだ」
「俺もすぐそこに住んでて、ここはよく来るけどみょうじが働いてんのは今日知った!奇遇だな」

ワハハ、と星海くんが大きな声で笑い出すので他のお客さんもわたし達に注目し始める。わたしは、タイムカードを押してないことに気づきその場を立ち去ろうと星海くんに社交辞令の挨拶をする。

「また会ったら、話そうね。じゃ、働いてくる」
「おう!頑張れよ」

星海くんがあまりにも嬉しそうに返事をしてくれるから、つい自分の頬が緩むのがわかる。タイムカードを押しに行くと「何か嬉しいことあった?」と先輩に聞かれるほどわたしは顔が緩んでいたらしく「はい」と控えめに返事をしてホールに出た。

星海くんのいるテーブルはどうやら個室のようで、わたしは個室の接客は任されることはほとんどないので今日はあの後会うことが出来なかった。少し残念に思ってしまう自分が何だか恥ずかしくてまた頬が緩んでいないか仕事終わりのバックヤードで確認する。

そして、星海くんとばったり会ってから何週間かが過ぎその日は突然やってきた。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -