君の夢が | ナノ


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いざ、体育館に到着すると緊張してしまうもので。ボールの音とシューズの音が聞こえる中、ドキドキしながら扉を開けて中へと入った。みんなの視線が一斉に集まり、背筋がぐっと伸びる。「みょうじなまえです!今日からよろしくお願いします」と入口で頭を下げるといろんな人が優しく声をかけてくれて緊張もだいぶマシになった。

聞かされていた通り、チームの実力はバラバラで上手い人もいれば初心者やわたしのようなブランクのある選手がいて。それでも、チームはかなりまとまっているように見えた。みんなが、バレーを楽しんでいるように見えた。

「初日、どうだった?」
「授業終わりに来るのはなんとか行けますけど、就職してから仕事終わりに通えるかが心配ですね」

わたしを誘ってくれた光来くんの友人にそう答えると、驚いたような顔で見られる。何か変なことでも言ってしまっただろうか。

「ふふ」
「な、何か変なこと言いました?」
「ううん。みょうじさんが、この先もここに来てくれるつもりになってることが嬉しくて」

その言葉にわたしも自分が何を言ったか思い出し、恥ずかしくなる。また今度歓迎会を開いてくれるそうで連絡先を色んな人と交換していると画面に光来くんの「終わった?」というメッセージが表示される。

「あ!彼氏?」
「あ、えへへ、そうです」
「いーなー!みょうじさん背高いし、彼氏も背高そう!」

そう言われ、ふと自分が大学に入りたての時に女友達と背の低い男なんてありえないと笑い飛ばしていたことを思い出し、1人で笑ってしまった。

「ヒール履いたら、ほぼ目線一緒ですよ」
「え!意外!」
「でもね、世界一かっこいい彼氏なんです」
「はい惚気ごちそうさま〜」

そう言ってその子は別の子に「わたしも彼氏欲しい」と嘆いていた。光来くんからのメッセージに返信すると「前で待ってる」とすぐに連絡が来た。先に帰ることを伝えるとなぜか皆んなには光来くんが迎えに来ていることがバレバレで、照れながら体育館を後にする。

「こーらいくんっ!」
「お、なまえ!お疲れ」

正面から思い切り飛びつくと、光来くんは驚きながらもしっかりわたしを抱きしめてくれて嬉しくなる。

「ねえ、光来くん今何キロ?」
「69だけど」
「うわ、やば!わたしも筋トレ頑張ろ」
「…楽しかったんだな?」
「うん。楽しかったぁ…」

手を繋ぎながら久しぶりに触れたバレーの話を光来くんにたくさん聞いてもらう。光来くんはそれはそれは嬉しそうに聞いてくれるもんだから、わたしも嬉しくてたくさん話した。

「光来くんって、わたしのこと結構好きだよね?」
「おう、好きだぞ。なまえが俺のこと好きになる前から、俺はなまえのことすげぇ好きだったし」
「…!な、んでそんなことサラッと言えちゃうかなぁ」
「多分、今思えば初めて見た時からなまえのこと、好きだった」
「ばかぁ」
「会えてよかった」
「わたしもだよ」
「俺が、なまえの分まで絶対夢叶えてやるから」
「ほんと?オリンピックで光来くん応援させてくれる?」
「任せろ!!」

そんな会話から、数年後。東京オリンピックで、本当に光来くんの応援をするだなんて光来くんには失礼だが夢かとまだ思ってしまう。

光来くんは事前のインタビューでこう答えていた。

「オリンピックは、俺の夢でもありますし、ずっと付き合ってる彼女の夢でもあります。絶対最後まで勝って、今まで応援してくれた全ての人に恩返しします!」

そのインタビューを聞いて、もうこれ以上返してもらうものなんてないのに。光来くんと出会えて、好きになって、好きになってもらえて。それだけで幸せで仕方ないのにこれ以上、何を返してもらうっていうの?と光来くんにそう伝える。すると光来くんが小さな箱を差し出しながら嬉しそうに、わたしに笑顔を見せてくれる。

「俺の人生かけて、なまえのこと幸せにするから」
「…うん」
「なまえの人生を俺にくれ」
「、それって」
「結婚しよう。いや、俺と結婚してください」

光来くんの手のなかにある指輪を見つめながら溢れる涙を指で拭う。

「わたしで良いの?」
「なまえしかいねぇよ。死ぬまで一緒にいよう!」
「よろしく、お願いします」

その言葉を聞くと、光来くんがわたしに指輪をはめてくれようと左手の薬指に指輪を通す。

「、あれ?」
「ねえ…これ…」
「待って、あれ!?おかしいな」
「も〜!!光来くん、サイズ間違えたでしょ」

全く入りそうにない指輪を2人で眺めながら、嬉し泣きから笑い泣きに変わってしまう。光来くんも焦っていたがわたしが涙を流しながら笑っているのを見て安心したのか「今度、一緒に店行こう」と少ししょぼくれていた。

「光来くんのね、」
「おう」
「そういうところが、大好きだよ」
「…嬉しくねぇ!!!」

光来くんのいつも通り大きい声が、わたしたちの部屋に響きまた面白くて笑ってしまう。光来くんとこの先ずっと、ずっと幸せに暮らせますように。そんな気持ちを込めてしょぼくれている光来くんにそっと、キスをして機嫌を取る事にした。もう、光来くんの機嫌を操るのはわたしの得意技になっていた。今日も、わたしの彼氏が最高に可愛くて、幸せです。あ、旦那さんになるのか。

訂正、今日もわたしの旦那さん(未来)が最高に可愛くて幸せです。





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