君の夢が | ナノ


09



なんとなく気まずい雰囲気の中、光来くんと手を繋ぎながら家へ帰ろうと足を進める。光来くんの頬はお酒で熱っていて、いつもより幼く見えて可愛いと思ってしまった。

「今日、悪かったな」
「何を、どう悪いと思ってるのか聞かせてもらおうかな」

冗談っぽくそう告げると、光来くんが「めちゃくちゃ怒ってんじゃん」と項垂れる。そんな様子も可愛くて、いつもなら決して言わないような子供っぽいことをわたしも言ってしまった。

「だって、彼女がいるのに他の女の子と2人でご飯とか。ひどいと思います」
「わ、悪ぃ。でもアイツはそういうんじゃなくて、」
「わかってるよ。全然あの子のことが嫌とか、そんなんじゃなくて」

この続きを言ってもいいものなのか、と思わず言い淀むと光来くんが「なまえのこと知りたいからちゃんと聞かせろ」と何故か上から目線で言ってくる。

「寂しかったの。光来くんが、わたし以外の女の子と仲良いのとか、ちゃんとわかってたつもりだったけど寂しくて、嫌だった」
「…悪ぃ」
「でもどう自分の気持ちに折り合いをつけたらいいかがわかんなくて。行かないでって言うのも違うし、平気だよって言うのも違うし」
「おう」
「光来くんのことこんなに好きだったんだ、って気付かされちゃ、」

おどけてそう言い切ろうとすると、光来くんに抱きしめられ言葉を飲み込む。

「可愛すぎ」
「ねえ、わたし怒ってるんだけど?」
「それにしても、俺…なまえはそういうの妬いたりしねぇかなって勝手に思ってたから」
「…うん」
「すげー、ごめん、…その、嬉しいって思っちまった」
「バカ」
「バカだよ」

光来くんがこれでもか、と力を込めてぎゅうぎゅうに抱き締めてくる。痛い、と文句を言うと「うるせぇ」となぜか今度はわたしが怒られて腑に落ちない。

「俺だって、本当はなまえの大学の男全員に妬いてる」
「…それはバカだよ」
「わーってるよ。だってぜってぇ俺よりなまえのこといっぱい知ってんじゃん」
「そんなことないよ?だって」

今度はいじけてしまった光来くんに、そっとキスをする。

「こうやって彼氏が拗ねたらキスして機嫌取ったりするの、みんな知らないもん」
「…はは、そらそうだ」
「でしょ?だから光来くんが1番だよ。って、わたしがヤキモチ妬いてたのに…」

すっかり光来くんのペースに持っていかれ、さっきまでのヤキモチモードはすっかりと消え失せていた。光来くんも光来くんでかなりご機嫌の様子で、鼻歌を歌いながら手を繋いで歩く。毎日通る道が、光来くんといるだけで特別なものになるなんて。光来くんを好きになるまで知らなかったし、気づかなかったと思う。

「光来くん、あのね」

いつも通る公園の前、光来くんの腕を少し引きその場で立ち止まって声をかけた。振り返って「ん?」と首を傾げる光来くんが、また可愛く見えてしまって笑みが溢れる。

「バレーやってみようかな」
「!!!」
「もちろん、運動不足解消くらいになれば、だけど」
「…それでも、俺はすげぇ嬉しい。ありがとう」

喜びが声にならないのか、近所の迷惑を考えているのか珍しく声の大きい光来くんから大きい声は聞こえてこなかった。その代わりに、絞り出すような声で「…よかった」と聞こえる。

「こ、らいくん…泣いてる?」
「っ…、泣いて、ねぇ」
「も〜〜!これ以上、好きにさせないでよ」
「それは!俺のセリフだ!」
「わたし、光来くんと出会うためにバレーと出会ったのかもしれない」
「なまえ、」

男泣きをしている光来くんに後ろからぎゅっと抱き着き「ありがとう」と小さな声で囁くと光来くんは「泣かせにきてんだろ…!」とご立腹の様子だった。ころころ表情や気分が変わる光来くんは、この先ずっと一緒にいても飽きる事ないだろう。

明るいところでわたしに顔を見られたくないのか、光来くんは公園の中へと足を進める。適当なベンチに座り、ぽつりぽつりとバレーをはじめたきっかけや子供の頃の話をたくさんしてくれた。

「強くなる方法はたくさんある、って母ちゃんに言われて」
「うん」
「俺は俺が弱い、ってことを誰よりも先に知れた。だから、今の俺がいる」
「わたし、オリンピック選手になるのが夢だったの」
「…そうだったのか」
「わたしはね、ずっと昔から背も高かったしお母さんもママさん行ってたから当たり前のようにこの先一生バレーするって思ってたけど。…そんなことなかった」

光来くんはわたしの手をぎゅ、っと握りながら話を黙って聞いてくれる。

「春高が全部じゃないって、チームメイトにも、お母さんにも…先生にだって言われたしみんなまたわたしがバレーをすることを望んでるってわかってた」
「…うん」
「それでも、ちょっと楽になったのかな?わたしの全てにおいて中心だったバレーが無くなって、ほっとしたのかもしれない」

だんだん語尾が弱くなり、泣いてしまいそうになる。光来くんはそんなわたしを察してか頭をぐっと自分の肩に寄せてくれてとんとんと叩いてくれた。

「光来くんに前に言った事、覚えてる?」
「あのチームで、って話か?」
「そう。あれも本当は綺麗事で、自分がバレーの重圧から逃げたかっただけかもしれないなって。わたし、あの時バレーを楽しいってとても思える状況じゃなかったから」
「そう、なのか」
「光来くんが早くに弱いってことを気付いてたんだとしたら、わたしは気付くのが遅かったんだよ。やっと今自分が弱くて、…それでも、弱くてもバレーをしていいって気付いた」

光来くんの体に腕を回して横からぎゅっと抱きついてみる。月明かりの下で光来くんと目が合って、わたし達はもう一度ゆっくりとお互いに愛を伝えるために唇を重ねた。

「ね、シューズ買うのに現役プロの人に着いてきてもらうのって贅沢すぎるかな?」
「俺の彼女なんだから、贅沢もクソもねーだろ」
「わ!恥ずかしいこと言ってくる!」
「あ?!」
「ごめん!冗談だって!」
「はぁん!?なまえは、俺の彼女だろうが!」
「わかってる、わかってるから声抑えて!」

酔っ払った光来くんは、いつもに増して声が大きくて。せっかく数分前まで良い雰囲気だったのにすっかり台無しだった。

「ほら、言えよ」
「何を」
「わたしは、光来くんの彼女ですって」
「やだよ!恥ずかしい」
「やだじゃねぇ!言え!」
「…わたしは、こ…光来くんの、」
「おう」
「彼女、デス」

後半は光来くんが何をそこまでこだわっているのか面白くなってしまって、つい笑いながら言うとご不満だったようでぎゅうぎゅうに力一杯抱きしめられる。

「なまえは!俺の!彼女!」

そう言って満面の笑みでぐちゃぐちゃにかき回される髪の毛も、勢いよく抱き上げられるが数センチしか浮かない身長差も。全部、全部愛おしくて大好きで、この気持ちが一粒も漏れることなく光来くんに全部伝わっていたらいいのにな、と願った。





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -