「ママ見て!パパ!」
「うん、そうだね。飛空、もう少し静かにできる?」
「パパいてる!」
最近宮さんの影響なのか、飛茉も飛空もふとした瞬間に関西弁が出るようになっていて小さい子供の関西弁ってこんなに可愛いんだなと笑顔になってしまう。
「飛茉もちょっと声小さくね?」
子供2人を引き連れて、今日はアドラーズの展示会にこっそり遊びに来ていた。なぜこっそり来ているか、というと飛雄くんのお許しがなかなか出そうになかったからだ。わたしとしては飛雄くんの等身大パネルと写真を撮ったり写真展で飛雄くんのスーパープレーの写真を拝んだり。とても楽しみにしていたのに、それなのに飛雄くんってばオタク心を何も理解してくれてない…!
「本物が家にいるんで、行かなくていいだろ」
「違うの!それは、そうなんだけど…パネルの飛雄くんに会いたいの!」
「…ダメです」
「えぇ…。飛空と飛茉もたのしみにしてるよ?」
「1番楽しみにしてんのなまえさんだろ」
「う、それは…そうなん、だけど…」
「とにかく、ダメです」
「まさかとは思うけど、パネルに妬いたりしないよね?」
「……パネルにはしゃいでるなまえさんを、見れないのが嫌」
平然とそう言ってくる飛雄くんに、きゅんとしてはいけないと思いながらもあまりにも可愛くてきゅん、としてしまう。わたしもバカだなぁといつも思ってはいるがこればっかりは根本が飛雄くんのオタクだから無理な話だった。
そんな訳で、こっそり飛雄くんにバレないように写真だけ撮りに来た、ということである。
「2人ともパパの横立って、写真撮ってあげる」
「ちゃちん!」
「ひぃちゃん、はいピース!だよ」
2人ともご機嫌でピースサインを向けてくれて、親子3人のショットがあまりにも可愛くて「可愛い〜!」と結局わたしが1番大きい声を出してしまった。
「ねぇ、絶対そうだよ」
「……そうだよね?」
こそこそ、と聞こえてくる会話にやっぱりバレてしまったかと羞恥心がわいてくる。こいつ、家に影山選手いてるのに何をこんなにはしゃいでいるんだと思われているに違いない。恥ずかしすぎる。
さすがに試合会場でもないし、ただただわたしが恥ずかしいので子供達を回収して、写真の展示をゆっくりと回ることにする。アドラーズの選手の皆さんが写っている写真を飛空と飛茉は1人ずつ指差しながら嬉しそうに名前を呼んでいる。
「わかとしくんだ!」
「こーらいくんもいる!」
「待って…えっ、格好よすぎる…」
飛雄くんの、ある写真の前で足が止まる。試合中の真剣な表情に目が釘付けになってしまう。
「パパだ!」
「パパかっこいいね!」
「ねぇ、ほんとに...パパって格好いいなぁ」
惚れ直す、というのはこういうことかとわたしは自分の胸がドキドキしているのがわかる。飛雄くんにバレたら、怒られそうだけどときめきは隠せそうになかった。
子供たちは少し退屈そうにしていたが、わたしはまだその写真の前から動けそうになかった。ああ、好きだなぁと見つめていると子供たちの「パパだ!」という声が聞こえ、あっちにも飛雄くんの写真があるのかなと振り返るとそこに、いた。
「おい」
「っ、な、なんで」
「今日行くと思った」
子供たちがパパだ!と喜んでいるが、わたしは内心ひやひやでどうしてここに飛雄くんがいてるのかわからず目を見開いたまま固まっていた。
「朝なんか様子おかしかっただろ」
「...うっ、」
「なまえさんが隠し事してるのなんて、わかる」
怒られる、と思っていたが飛雄くんはなぜか少し嬉しそうに一歩、わたしに近づいてくる。
「この写真、俺も好き」
「そうなの?」
「この日、飛空が俺のユニフォーム着てた」
飛雄くんが写真の日付を指差してそう教えてくれる。そうか、そうだったんだとわたし以上に飛雄くんが覚えていたことに思わず嬉しくなってしまう。
「飛空くんいる?」
「この写真には写ってないけど、一緒にいたんだって」
「ひぃは?」
「飛茉はね、ママのお腹の中にいたんだよ」
「ここ?」
「そう、ここ」
「じゃあみんな一緒だ!」
飛空のその一言に、なぜかわたしはとても感動してしまって涙が出そうになる。そっか、みんなもうこの時には一緒にいたんだな。「そうだね」と飛空の頭を撫でると満足そうににこにこ笑っていた。
文字通り、家族団欒を飛雄くんの写真の前でしてしまい気付けばファンの方も少しずつ集まってしまっていた。飛雄くんは何人かと握手をしていて、その間にわたしたちはこそっとその場を抜け出し一緒にみんなで家へ帰る。買っておいたランダムのアドラーズの選手達の缶バッジを車の中で開封してみると飛雄くんは一個も出てこなくて子供達はそれはそれは残念そうだった。
飛雄くんも無事合流して、みんなで家に帰る途中。飛空が「パパ出なかったの」とあまりにも寂しそうに言っていて飛雄くんは少し嬉しそうだった。そして展示会が終わり、我が家に飛雄くんのランダムのグッズと例の写真が額縁ごと届けられる。驚いて井上さんに連絡を取ると「影山にどうしてもって言われて」と返事が来て、飛雄くんも本当にこの写真を気に入っていたんだなと何度も見てしまう。
家族写真を飾っている横に、飛雄くんの写真を飾ることにする。プレー中の写真をこうして飾ることは今までなかったのでわたしは目に入るたびに飛雄くんに惚れ直すことになりそうだった。
「ふふ、今日も格好いいな」
「...俺に言えよ」
少し拗ねながらそう言ってくる飛雄くんがあまりにも愛おしくて今日もわざと写真に格好いいと話しかけてしまうのだった。