追っかけシリーズ番外編 | ナノ






影山選手の追っかけはじめました。


8/19





今日も日課の推し、である影山選手のSNSを徘徊していると珍しく新規投稿を見つける。目を疑うような写真で、わたしはその写真を見た瞬間自分の手が止まり涙がぽろぽろと溢れスマホの画面を濡らしていることに気づいた。

「え、!?」

震える手でコメント欄を開くと、どうやらみんな同じような状況らしくわたしもコメントを打とうと手を動かしたいがなかなか動かせずただ喜びと感動、驚きが隠せなかった。

◇◇◇

「父さん」

リビングで険しい顔をしながらスマホを見つめている父さんに声をかける。さすがの父さんもいつもより少し緊張しているのか、俺の顔を見て少しほっとしたようだった。

「飛茉も俺も準備出来たから、いつでも行けるよ」
「ママ大丈夫かな?」
「おう、行くか」

そもそも、3人で出かけること自体珍しくて俺は少しわくわくしてしまっていた。母さんが大変な時に申し訳ないな、と言う気持ちもあるが俺はそれより早く会いたいという気持ちが勝ってしまっていた。

新幹線に乗って、父さんの故郷、仙台へ向かう。

「ママ!」

母さんの病室に着くと、飛茉はやっぱり我慢をしていたのか母さんの顔を見た瞬間に涙を溢して母さんに抱きしめてもらっていた。

「飛茉寂しかった?ごめんね?」
「…寂しくないもん。ママが、飛茉に会えなくて寂しかったでしょ」
「ふふ、そうね」
「なまえさん」
「飛雄くんも、来てくれてありがとう」
「体調は?」
「特に変化なし、かな?予定通りでって莉緒ちゃんが言ってた」
「そうか」

相変わらず父さんは、俺らがいてもいなくても母さんのことを名前で呼ぶし本当に何年経っても仲が良いんだなと思い知らされる。自分が小さい時は特に疑問にも思っていなかった。けど、学校に通い出してからは自分の両親が少し、いや結構仲が良いと気付きこのままずっと仲が良いんだろうなと思っていた。

「飛空も、ありがとね」
「うん。大丈夫?」

ぎゅ、っと握られた母さんの手が少し冷たくて心配になる。思わず少し強く握り返すと、母さんは驚いたような顔をしてから俺の頭を撫でてくる。もう、そんな子供じゃないんだけどなと恥ずかしくなるがそれより嬉しいが勝ってしまうのはまだ俺が子供って証拠かもしれない。

ノックの音と同時に、莉緒ちゃんが入ってくる。

「お!みんな来たね。久しぶり、元気だった?」
「莉緒ちゃん!」
「家族団欒のところ、申し訳ないけどなまえちゃんそろそろだからね」
「みんなちょっと待っててね」

母さんが優しくそう微笑むと、父さんは俺たちがいるのもお構いなしで母さんにキスをする。

「またあとでな」
「行ってきます」

そういって母さんが病室から出ていき、俺たちはただ時間が過ぎるのを待っていた。

何時間過ぎたのか、うとうとしていてわからなかったが父さんに肩を叩かれて目が覚める。待合室から病室に移動すると母さんは目を覚ましていて、腕には赤ちゃんを抱いていた。

「!」
「無事、産まれたよ」
「ち、っちゃい…」
「飛空もこれくらいだったよね?」
「ああ」
「飛茉は?」
「飛茉はもうちょっと小さかったかなぁ?」
「…っ」

俺は張り詰めていた緊張が解けたのか、母さんに抱かれている赤ちゃんに感動したのか思わず涙が出てしまったことに気づき手の甲で涙を拭く。

「飛空、おいで」
「母さん、っ」
「抱っこしてあげてくれる?」
「ねぇねぇ!お兄ちゃんの次飛茉が抱っこする!」
「落とすなよ」
「落とさないもん」

腕の中で小さく呼吸を繰り返している赤ちゃんが、こんなにも尊くて愛おしい生き物だなんて俺は今まで知らなかった。

「飛優(ひゆう)、お兄ちゃんだよ」
「飛優!お姉ちゃんの飛茉だよ〜」

まだ言葉もわかるはずのない赤ちゃんに2人して話しかけてしまう。自然と頬が緩み、俺はこの愛おしい弟のためならなんでもしてあげれるかもしれないなと思った。

◇◇◇

「ママー!飛優泣いてる!」
「オムツ見てあげてくれる?」
「はーい」

母さんが退院して、家に帰ってきた。母さんがいない間は家政婦さんが来てくれていたけど、やっぱり母さんのご飯が世界で1番美味しいし家に母さんがいてくれるだけで家の中が明るくなったように感じる。

「母さん、俺と飛茉で飛優見とくからちょっと休んでていいよ」

朝ごはんを食べた後、母さんが一息も吐かずにバタバタとしているのでそう伝えると嬉しそうに微笑んで「ありがとう」とソファへと座った。父さんは本当は今年で現役引退を決めていたらしいが、このタイミングで飛優を母さんが身籠ったことに気付きあと数年はプレイヤーとして過ごすと決めたらしい。なんで?と父さんに聞いたことがあるけど「息子にかっけぇって思われたいだろ」と父さんらしい返事だなとその時思った。そんな父さんを俺は尊敬してるし、かっこいいと思っている。

「飛優おいで」
「あっ、お兄ちゃんずる〜い!」
「いいだろ」
「飛茉のこともこうやって抱っこしてたの?」
「多分な」

飛茉が飛優の顔を覗き込みほっぺをつんつんと突く。機嫌よく眠りかけていたのに起こされた飛優は不機嫌そうに眉間に皺を寄せ「ふにゃ」と泣き出した。非難の意味を込めて飛茉を見ると飛茉も焦ったように「ご、ごめん」と謝りあたふたしだす。

「お姉ちゃんが意地悪したもんな〜?」
「してないもん!可愛かったから、つい。飛優ごめんね?」

母さんはそんな俺たちの様子を心配そうに見ながら「頼もしいお兄ちゃんとお姉ちゃんね」と笑っていた。隣に座っていた父さんが急に「こっち向け」とスマホを向けてくるので大人しく写真を撮られていると、その写真はSNS用だったようで。

「影山です。実は先日我が家にもう1人家族が増えました。また、今シーズンも頑張りますので応援よろしくお願いします」

と、俺たち兄弟のスリーショットが載せられ父さんのSNSはたちまち拡散されておめでたいコメントで溢れかえっていた。

排球の日、つまり8/19に発表された飛優の生誕は数多くの人に祝われていて。すでにこんなに世界中から祝福されていて「飛優は人気者だなぁ」と寝ている弟に声をかけた。産まれてきてくれて、俺の弟になってくれてありがとう。なんかあったらお兄ちゃんが守ってやるからな。




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