追っかけシリーズ番外編 | ナノ






影山選手の追っかけはじめました。


夏祭り





今日は待ちに待った、アドラーズ主催の夏祭りファン感謝祭だ。アドラーズの選手達が小さな遊園地を貸し切って浴衣で縁日を開いてくれるイベントで。去年は仕事終わりに私服で参加してそれはそれは影山くんに残念そうにされたので、今年は浴衣を着て行くと決めていた。

「お待たせ〜!」

そう言って莉緒ちゃんと会場の最寄り駅で落ち合う。莉緒ちゃんは可愛らしいピンクの浴衣で、わたしは自分の浴衣が少し地味だったかなともう一度鏡で姿を確認する。

「なまえちゃん、それ色気ありすぎじゃない?」
「え!?そうかな…?」
「やばいよ。多分影山くん死んじゃうと思う」
「いやいや、そんなこと言うなら影山くんだって去年色気溢れすぎてて死ぬかと思ったもんね…」
「色気って言ったら、若利くんじゃない!?」
「...確かに」
「若利くん普段から絶対着てるでしょって感じだったもん」

そんな会話をしながら入口で受付をしてもらい、井上さんから「2人とも良く似合ってますね」と社交辞令で褒めてもらい機嫌良く会場に入る。

「どこから回る〜?」
「ええ、っと…」

2人で地図を見ながら歩いていると、他の選手のファンとばったり出くわす。

「あ!なまえさん!影山選手、あっちでチョコバナナ配ってましたよ!」
「え、ほんとですか?ありがとうございます〜!」
「牛島選手はまだ見つけてないんで、見つけたらメッセ飛ばしますね!」
「え〜!神!ありがとう!」
「莉緒ちゃんもなまえさんも浴衣めっちゃ可愛いです!」

ありがとう、と返事をしさっそく教えてもらった情報通りにチョコバナナの屋台を目指す。今回のイベントは先払い制で、中でのドリンクや食べ物は基本無料で食べることができるらしい。

いざチョコバナナの屋台に到着すると、少し暑そうにしながら影山くんが仏頂面でチョコバナナの屋台に立たされていて。あまりにもアンバランスで面白かった。莉緒ちゃんは「若利くん探してくる〜」と足早にそこから離れてしまい、わたしと影山くんの2人きりだった。

「こんばんは、一本頂けますか?」

そう声をかけると影山くんは少し驚いた様子でわたしを上から下までじっくりと見てから「こんばんは」と返事をしてくる。そんなに見られると、恥ずかしいんですけど。

「チョコと、イチゴと抹茶どれがいいすか」
「じゃあ…チョコで!」
「っす」
「影山選手、浴衣よく似合ってます。素敵です!」
「アザス」

暑さからなのか、影山くんの頬はほんのり色づいていて少し心配になる。

「まだ暑いですよね」
「そう、っすね」
「よかったらこれ、使いますか?」

明らかに女もので申し訳ないが、ないよりはマシだろうと扇子を差し出すと「いいんですか」と嬉しそうに受け取ってくれてわたしも嬉しくなる。

「お待たせしました」
「わ、おっきい…!ふふ、美味しそうです」
「なまえさん」
「はぁい?」
「家から、その浴衣で来たんすか?」

どこか不安そうに聞いてくる影山くんにもしかして、似合ってなかったかなとわたしも不安になる。

「は、はい…」
「…そ、すか」
「似合ってない、ですかね?」

思わず溢れてしまった言葉は今すぐ影山くんの記憶を奪ってしまいたくなるほど幼稚なもので、恥ずかしくて消えてしまいたくなった。

「あ?」

影山くんはわたしの言葉を理解していなかったのか、きょとんとした顔でわたしを見つめてくる。聞こえなかったのなら、それはそれで都合がいいとわたしもなかったことにしようとするが、もちろんそんな都合の良いことは起きなかった。

「似合ってない、って言われたんすか?」
「ん?」
「つか、俺より先に誰かに会ったんすか」

今度は怒涛の影山くんからの質問攻めにわたしがきょとんとしてしまう番だった。

「い、いえ!選手の方、誰にもまだ会ってないです」
「…そ、すか」

なぜかここで嬉しそうに微笑む影山くん。普段見慣れない浴衣姿のせいもあるが、可愛くて、脳内で何回もシャッターを切る。

「すげぇ、似合ってます」

そのまま笑顔でそう言われて、喜ばないファンがこの世にいるだろうか?いや、いないですよ。これはもう、お世辞とか社交辞令とか、リップサービスとかそんなんどうでもいい。ただ、目の前の影山くんがわたしに対して気を遣ってくれた。その事実が幸せだった。

「あ、ありがとうございます」
「去年、俺が言ったからっすよね」
「そうですよ〜!ふふ」
「嬉しいっす」
「こちらこそ、褒めてもらってありがとうございます」

自分から要求したものの、影山くんの素直な言葉に照れてしまって頬が暑くなる。じんわりと汗ばむ首筋をハンカチで拭うと影山くんが小さな声で呟く。もちろん、周りもざわざわしていたしわたしの聞き間違いの可能性もあるけど、聞き逃せる言葉ではなかった。

「エロ、すぎ、んだろ…」

その言葉が聞こえた瞬間、ぱっと影山くんに視線を戻すとさっきより明らかに顔が赤くなっている影山くんがそこにいた。

「、え…あ、」
「…すんません。つい、その…なんつーか、心の声が」
「っ、こ、こちらこそ…聞いてしまって、すいません…?」
「でもマジでなまえさんエロすぎるんで、誰にも見られないで下さい」

ええ、…?と困惑した顔で影山くんを見つめてしまう。

「ちょっと、それは…無理、ですかね?」
「じゃあさっきの顔、俺以外の前でしないで下さい」
「ど、どんな顔ですか…!?」

いきなりエロい顔、と言われても思い当たらず19歳の影山くんに聞いてしまったがこれはもはやセクハラなんじゃないかと罪悪感に押しつぶされそうになる。

「…俺のこと、好き、って言ってる時、みたいな顔です」
「な、…!」
「なんつーか、その。やべぇ、と思い、マス」
「は、はは…影山選手も冗談お上手になりましたね?」

ずっと2人で話せていたのが、不思議なくらい気付けば次々と影山くんのファンの方が集まってきてしまいこれ以上独占するのは、と話を切り上げようとする。

「とりあえず、また後で時間があったら遊びに来ますね。扇子、良かったら使ってください」
「あ、おい…!」
「チョコバナナ美味しくいただきますね。それじゃ…!」

まだ何かを言おうとしていた影山くんの話をばっさりと切り、くるっと後ろを振り返りその場を後にした。さすがにあそこで影山くんを独占するほどの度胸も、勇気もないわたしはそそくさとその場から立ち去り莉緒ちゃんと再び合流する。

莉緒ちゃんも牛島選手から受け取ったであろうりんご飴を持ちながら、ご機嫌の様子だった。また後で、莉緒ちゃんと牛島選手の話はゆっくり聞かせてもらおう。

その後は選手の皆さんもユニフォームに着替え直し、メインイベントのトークショーを見る。壇上に上がった影山くんがさっき渡した扇子を使っていて「あれ、なまえちゃんのじゃん」と莉緒ちゃんに突っ込まれる。さすがに他のファンの人たちも明らかに女もの、ということには気づいていたようでかなり肩身が狭い思いだった。

トークショーの後は、打ち上げ花火、それからお目当ての選手と記念撮影が出来るとのことで影山くんの列に並んで順番を待つ。

「次の方どうぞ」

そう呼ばれ、荷物をテーブルに置き影山くんの横に立つ。せっかくなら浴衣同士で撮りたかったけど、ユニフォーム姿の影山くんの方が見慣れていてさっきより冷静に話せそうだなと勝手に安心する。

「ユニフォーム、やっぱり好きです」
「アザス」
「影山選手、肌白いから白いユニフォームよく似合ってます」
「…なまえさんも、白いから…今日の浴衣、すげぇ似合ってます」
「あ、ありがとう、ございます」

影山くんがあまりにも真剣な顔で言ってくるので、照れてしまい撮影の時わたしの顔は赤く染まっていたと思う。恥ずかしいから、後で絶対見返したくないなとスマホをスタッフさんから受け取っていると影山くんが話しかけてくる。

「でも、」
「?」
「俺は浴衣同士で写真撮りたかったんで、いつか絶対撮ります」
「、は…はい…?」

来年のイベントは先に撮影会になるのかな、なんて思いながら影山くんと握手をして別れ、また莉緒ちゃんと合流する。お互いに撮った写真を見せ合うことになるが、牛島選手と莉緒ちゃんの写真が可愛くて思わずにやけてしまった。

「わたしせっかく若利くんにハート飛ばしてんのに、ガン無視棒立ちでカメラ目線なのやばくない?」
「これはこれで、2人っぽくて可愛いよ」
「ええ?それにしてもなまえちゃんなんか、今日照れすぎじゃない?」
「え!?やっぱりわかる?」
「うん。目がハートだもん」
「もうやだ、からかわないでよ〜!」

まさか莉緒ちゃんに指摘されると思っていなかったので、図星を突かれて余計に羞恥心が込み上げてくる。わたしのスマホを勝手にいじりエアドロされ、気付けばわたしと影山くんのツーショットは莉緒ちゃんのスマホにも保存されてしまっていた。

「ちょっと、やだ!保存しないでよ〜!」
「ほら、万が一データ飛んだらわたしが送ってあげるから」
「ええ…!?」

そう言って莉緒ちゃんに押し通され、わたしと影山くんのツーショットは莉緒ちゃんのスマホにもしっかり保存されてしまった。

無事に終わったと思われたイベントだったが、公式から投下された選手の集合写真にも、ちゃっかり扇子を持ったままの影山くんが写っていて。莉緒ちゃん曰くそれはそれはSNSや掲示板で大騒ぎだった、らしい。怖い怖い。




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