追っかけシリーズ番外編 | ナノ






影山選手の追っかけはじめました。


海デート





「ダメです」
「えっ、ダメ...?」
「はい。帰んぞ」
「か、帰るの?!せっかく来たのに?!」

更衣室を出て、海の目の前まで来たのに飛雄くんが凄まじい顔をして帰ろうと腕を引っ張ってくる。今日の為に新しく買った水着は黒のオフショルダーのビキニで、白か黒か一週間悩んで黒にしよう!と意気込んで買った水着だったのに飛雄くんの態度に少しがっかりしてしまう。

「何が嫌だった、?」
「ちが、いや、その」

飛雄くんにしては珍しく歯切れが悪く、目も合わずしどろもどろになっている。真っ青な空の下、飛雄くんの作り抜かれた綺麗な筋肉があまりにも眩しくていつもより間近で見てしまう。周りの人達も夏を楽しむ準備は万端で、更衣室の前で腕を引っ張り合ってるのはわたし達だけで少し面白くなって来てしまった。周りにもう誰もいなくなり、束の間の2人きりになる。わたしは飛雄くんに引っ張られている腕に抱き付くように距離を詰めて「ねえ、なんで?」と詰め寄る。

「...可愛すぎて、無理、っす」
「、え?」
「その水着!ほぼ下着だろ!」
「違うよ!水着だよ!」
「にしても、エロすぎんだろ」

飛雄くんはわたしの肩を掴み上からまじまじと見下ろしてくる。これは恥ずかしい。下から飛雄くんを見上げて目が合うと、一瞬で飛雄くんの顔が真っ赤に染まり目を逸らされる。あ、可愛い。そう思った瞬間わたしの意地悪したくなるスイッチが入ってしまいぴと、っと飛雄くんの胸筋に手を置く。

「、っ」
「飛雄くんが海でデートしたいって言ったのに。もう帰るの?」
「それは、言い、ましたけど」
「ね?せっかくここまで来たんだし、遊んで帰ろ?」
「でもこのなまえさんを俺以外が見るのは許せねぇ」
「うーん...。でもほら!みんなわたしより露出してるし、わたしなんて全然だよ!」
「他の人はどうでもいい」

ここまで来るともはや飛雄くんのわがままが心の底から愛おしく感じてしまい、一瞬このまま家に帰っても良いかと絆されてしまいそうになる。

「帰るの?本当に?」
「...」
「わたし飛雄くんと一緒に泳ぎたかったなぁ」
「...」

飛雄くんがわたしのこのお願いに弱いのが最近わかってきたので、もう一押しだと言わんばかりに人気のない更衣室の裏でぎゅっと飛雄くんに抱きつく。

「でも飛雄くんが嫌なら帰ろうか?今日の水着、飛雄くんに可愛いって言ってもらいたくて選んだのになぁ...」
「か、可愛いっす...」
「ちゃんと目見て言って?」
「目、見たらキスしたくなるから無理」
「ふふ」

頑なに目を合わせようとしない飛雄くんが可愛くて、可愛くて。今なら誰もいない、と思いぐっと背伸びをして飛雄くんにキスをする。が、微妙に届かず未遂になる。飛雄くんはまさかわたしが外でキスをしてくるなんて思っていなかったのか、目をまん丸に見開いてわたしを見下ろしてくる。

「後で怒んなよ」

あ、やってしまった。こうやっていつも飛雄くんのスイッチを押してしまってから後悔するのに、また今日もやってしまった。頬を掴まれ強引に顔を上げられ太陽の眩しさにぎゅっと目を閉じた。瞬間にキスが降ってきて、飛雄くんの汗も降ってくる。わたし達はわざわざ海に来てまで、何をやってるんだと内心面白くなってしまう。キスを終えた飛雄くんの腕がふっと緩んだタイミングで、逃げ出して思いっきり海の方へ全力で走って行く。本当だったら飛雄くんがわたしに追いつかないわけもないが、まさかわたしが逃げ出すと思っていなかったのか呆気に取られて立ち尽くしていた。

「飛雄くーん!置いて行くよ!」
「待てボゲェ!離れんな!」

この年で砂浜を全力疾走する日が来るなんて思ってなくて、飛雄くんと出会ってから自分の人生が色付いていく気がしてこんな些細なことすら幸せだと思う。振り返って見た飛雄くんの顔が必死すぎてもう面白くて声を出して笑ってしまった。ああ、飛雄くんって本当に可愛い!




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