影山選手の追っかけはじめました。
飛茉ちゃんのワガママ
長男の飛空は人懐こく、こだわりもあまりないようで困り果てるほどのわがままは数えるほどしか言われた記憶がない。が、飛茉がこれはもうワガママ娘で飛雄くんをはじめ周りの大人達が散々甘やかした結果でもあるのだが喋り出してからは手がつけられないこともあった。
「や!」
「や!じゃないの」
「やー!」
「何が嫌なの?」
目の前の日向くんが困った、というよりは悲しそうに眉を下げしょんぼりと立ち尽くしている。いつも通り試合終わりに「飛茉〜!」と笑顔で寄ってきてくれた日向くんを飛茉は思い切り拒否し、わたしの後ろでずっと「や!しょーちゃんあっち!」と指を指して抱っこされるのを拒否していた。
「日向くん、ごめんね?多分ちょっとイヤイヤスイッチ入ってるだけだから」
「うっ...魔の2歳...!」
「ばいばい!」
日向くんにそう言って手を振る飛茉は決して機嫌が悪いわけではなさそうだが、日向くんには近づこうとしなかった。肩を落としてチームメイトのところに帰る日向くんは宮さんに背中をバシバシと叩かれ大笑いされていたようで申し訳ない。飛茉を抱き上げ同じ目線で「どうしたの?」と尋ねると飛茉はえへへと笑っている。
「翔ちゃん飛茉にぎゅーできなくて悲しいって言ってたよ?」
「ひぃね、みんなといっしょしたい」
「みんなと?」
「うん!あっちする!」
そう言って指指した方を見ると、日向くんのファンが列を作っているところで。そこを見て初めて飛茉が何を求めているのかがわかり、納得をする。
「あ〜〜〜、あそこ並んで翔ちゃんとお話ししたいの?」
「うん!ひぃもする!」
誰に似たのか、特別扱いには飽きてしまったようで1ファンとして日向くんにファンサをしてもらいたいと贅沢の極みのようなワガママだった。一度言い出した飛茉は頑として譲らないので(ここは絶対に飛雄くんに似たんだと思う)仕方ないなぁ、と飛茉と手を繋ぎ日向くんの列に向かう。
日向くんのファンはライト層が多いようで、みんなサインや写真を撮ってもらうと他の選手のところへすぐ向かっているようで、人数の割にはさくさく進み気づけばすぐにわたし達の順番になっていた。
「なまえさん!飛茉!え?!」
日向くんが目をまん丸にして驚いていて、思わず笑ってしまう。飛茉はいつもより少し恥ずかしいそうにもじもじとしている。
「ひなたせんしゅ、サインちて」
わたしのスカートをぎゅっと握りながら飛茉は小さい声でそう言うと日向くんの胸が撃ち抜かれる音が聞こえた、気がする。
「す、する!」
「ふふ、やったぁ」
飛茉は嬉しそうに両手で口を抑えて嬉しそうににこにこしていて、日向くんもつられてにこにこしながらしゃがんで飛茉の色紙にサインをしてあげていて微笑ましい。
「さっきね、いやいやちてごめんね?」
「いい!全然いい!」
「ひぃもじゅんばんこして、サインちたかった」
「そっか〜〜〜!順番こしたかったのか〜〜〜!は?可愛すぎません?」
さっと顔をわたしの方へ向け真顔でそう言ってくる日向くんが面白くてついに声を出して笑ってしまう。
「ちょ、なまえさん!そんな笑わなくても...」
「ご、ごめん。ちょっと面白くて...!」
「ママ!しょーちゃんとおはしちないで!」
「はいはい、ごめんね」
「しょーちゃんも、ひぃだけみて!」
飛茉がもう、と頬を膨らませて怒っていると日向くんが少女のように真っ赤に染まる頬を押さえてその場にしゃがみ込んでしまった。
「俺、飛茉に彼氏できたら泣いちゃう」
「そしたら、飛雄くんと一緒に泣いてあげて?」
「はい、そうします...」
「しょーちゃん!」
「はぁい」
「ぎゅ、していいよ?」
ん!と短い腕を広げて日向くんに抱きしめろと言わんばかりにいる飛茉。日向くんはそんな飛茉を抱きしめ、そのまま抱き上げて飛茉が「いたい!や!」と怒るまで頬擦りをしていた。