追っかけシリーズ番外編 | ナノ






影山選手の追っかけはじめました。


夢の中で





あれ、見たことのない体育館だ。そう思ったのも一瞬で、すぐに大きい応援の声が聞こえてくる。

「北一!!北一!!北一!!」

ガンガンとメガホンを叩きながら叫ぶ男の子に驚きを隠せない。わたしさっきまで何してたんだっけ...思い出そうとしても中々思い出せず、急に見覚えのない体育館にいることに恐怖を覚える。周りを見渡してももちろん知ってる顔もなく、不安になりながらコートを見下ろすと驚きで声が出る。

「と、びおくん!?」

わたしの知ってる飛雄くんとは別人のように幼いが、あれは間違いなく飛雄くんだ。だってフォームがそうなんだもん。どういう状況なのか全くわからないし、何が起きてるかさっぱりだけど今まで見たことない中学時代の飛雄くんのプレーが見れることに感動していた。

試合は飛雄くんのチームが中々に劣勢のようで、飛雄くんは見たことのない怖い険しい顔でプレーしていて見てるこっちの胸が痛くなるほどだった。どうしてそんなに辛そうにバレーをしてるの?どうして、そんなに1人で頑張ってるの?見れば見るほど胸が痛くなり涙が止まらない。

「、飛雄くん...」

顔がぐしゃぐしゃになるほど泣いてしまい、涙で視界が歪んでしまう。飛雄くんのプレーを見逃したくない気持ちと、これ以上見たくない気持ちが戦って頭がおかしくなりそうだった。ここまではよく聞こえないが飛雄くんはチームメイトに何か指示を出してるようだが相手は聞く耳を持っておらず、反発しているようだ。よくよく見るとコート内には金田一くんと国見くんの姿も見え、ああ、これが飛雄くんの言っていたことかと腑に落ちる。

何度目かのコンビミスの後飛雄くんが苦しそうな顔で何かを叫ぶ。そして、上げたボールの先には誰もいなかった。さっきまで何も聞こえなかったのに、ボールが落ちる音、転がる音まで鮮明に聞こえてくる。ボールの方を振り返った飛雄くんの顔があまりにも悲壮で今すぐにでも抱き締めてあげたかった。

そして、飛雄くんはその後ベンチに下げられ試合が終わる。

あまりにも辛くて、飛雄くんが今はもう克服してると言えど、この時の飛雄くんは確実に辛いわけで。わたしは考えるより先に走り出していた。走って、走って。飛雄くんの後ろ姿を見つけ名前を呼ぼうとするも、今のわたしがいきなり声をかけたところで...と悩んでいると飛雄くんがわたしの気配を察知したのか勢いよく振り返る。

「...!」

バチっ、と目は合ったものの何を言っていいかわからず無言でお互い見つめ合う。飛雄くんが不思議そうな顔をしてまた歩き出そうとするので「ま、待って」と震える声を絞り出した。

「あ、あの、わたし」
「...」
「これから先、ずっとずっとあなたのファンです。だから、その、えっと」
「...はぁ...?」
「あなたが強くなるの、待ってます!ずっと!ずっと先で待ってるから、諦めないで!」

わたしがここで何かを言わなくたって、飛雄くんは絶対バレーを辞めないし烏野で日向くんと出会って春高に進むだろう。それでもわたしは言わざるを得なかった。だって、飛雄くんがこんなにも弱ってる姿黙って見過ごせない。烏滸がましいと思いながらも目を見て真剣にそう伝えると、飛雄くんは首を傾げながら「アザス...?」と言って走って行った。その後ろ姿は、さっきの弱々しい背中ではなく前を向いて堂々としてるわたしの知ってる飛雄くんの後ろ姿だった。

次に目を開くと、飛空と飛茉が心配そうにわたしを見ていた。

「パパ!ママえんえんちてる!」
「ママ痛い?大丈夫?飛空くんがぎゅーしてあげる」
「ご、ごめんね?痛くないよ、大丈夫」
「なまえさん?!怪我、大丈夫...か?」

わたしはどうやら飛雄くんの部屋を掃除しながらふと目に止まった飛雄くんのバレー日誌を読んでる間に寝てしまっていたらしい。床に落ちてる一冊を開くと「中学最後の大会」と汚い字で書いてあり、先ほどの夢の出来事にも納得がいく。

「ちょっと夢見ちゃっただけだから、本当に大丈夫だよ」
「ひぃもよちよちする」
「飛空くんも!」
「じゃあ俺も」

ぽろぽろと止まらない涙を子供達、飛雄くんに拭われ余計に涙が止まらず嗚咽する。飛雄くんにぎゅっと抱き着き、子供たちもまとめてみんなでぎゅっと抱き合うと不安になったのか子供達までわんわん泣き出したのでおかしくなって笑ってしまった。

「で、何の夢見たんだよ」
「んー?秘密」

夜、一緒に寝ながらと飛雄くんがそう聞いてくるので誤魔化すと飛雄くんは少し怒っているようだった。

「飛雄くんが、バレーずっとしてくれてよかったなって思ったの」
「なんすか、急に」
「飛雄くんがずっとバレー続けてくれてたおかげで今のわたし達、それから飛空と飛茉がいるでしょ?多分今まで嫌なこともあったんだと思うけど、それでもやっぱり飛雄くんがバレーを好きでいてくれてよかった」
「...おう」

飛雄くんにキスをし、さあ寝ようかと目を瞑ると後ろから抱きしめられながら飛雄くんが思い出したかのように話し出す。

「そう言えば」
「ん?」
「なまえさんのこと初めて見た時から思ってたけど」
「うん」
「もっと前にどっかで会ったよな?」
「...っ、会ってないよ?」

そう返事をすると飛雄くんも眠かったのかすぐに寝てしまい、その日の夜は飛雄くんにバレないように1人で泣いてしまった。ああ、夢じゃなかった。もしかして、わたしと飛雄くんが出会ったのはやっぱり運命だったのかも、だなんてご都合主義の考えは今日だけでも許して欲しい。だってこんなの、あまりにも運命で必然で。わたしは飛雄くんに出会うために生まれてきたんだと思ってしまう。寝ている飛雄くんの頬にキスをして、わたしも目を閉じる。次は飛雄くんが1番幸せを感じている時の夢が見れますように。おやすみ、飛雄くん。




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -