追っかけシリーズ番外編 | ナノ






影山選手の追っかけはじめました。


成人式





「影山くん東京のチームいるんだよね?」
「もう日本代表なんでしょ?」
「すごい!芸能人と会ったりする?」
「連絡先交換しようよー!」
「あー、無理」
「東京行ったら遊んでよー」

案の定、と言えばそう言える光景に私は頭を抱える。影山と、群がる女子たち。高2で同じクラスになった影山飛雄は良くも悪くもかなり目立つクラスメイトで、モテてはいたが相方の日向に比べれば気軽に声をかける生徒は少ない印象だった。

「影山、あっちで月島たちが呼んでる」

ぐい、と煌びやかな女の子達を押しのけそう伝えると影山はあからさまにホッとした様子で私を見る。ああ、同じ女子達とは認識されていないようで良かったと安心する。女の子達は「また後で話そうね」と影山に声をかけるが私とは目も合わさずで徹底してるなぁと感心してしまう。人気の少ないところまで適当に影山を連れて行くと後ろからため息が聞こえる。

「助かった」
「いいよ。あ、月島がアンタのこと呼んでるのは嘘」
「知ってる。アイツはわざわざ俺のこと呼ばねぇだろ」
「そう言えば、こないだ試合観に行ったぶりだね」
「おー。お前とは割と会うから久しぶりな感じしねぇ」

影山とは付かず離れず、たまに連絡を取って試合を観に行くと言った友達とも呼べない関係だった。くだらないことを連絡する仲でもないし、でも試合が終わったらご飯を食べに行ったりする時もある。去年試合を観に行った時から違和感は覚えていたが、今日も何かいつもと違う。なんだろう、そう思うと影山の首元に目が行く。

「ああ、これのせいか」
「あ?」
「彼女でも出来た?」
「、何で」
「図星かよ」

なぜか胸が少し痛み、泣きたくなる。違う、私は別に影山のこと好きじゃない。

「そのネクタイのブランド。レディースの取り扱いの方が多いし、どこからどう見ても女の人から貰ったプレゼントでしょ。ただのファンがプレゼントする値段でもないし、何より成人式にわざわざ付けてくるってことはそれなりに大切な人から貰ったんじゃない?」
「お、おう...」
「後は香水の匂いもする。女物の」
「つけてねぇぞ」
「そのネクタイに付けてあるんじゃない?彼女さん、かなり心配性なんだね」

ふぅ、と壁にもたれながらタバコに火をつける。

「お前禁煙してるって」
「20歳になったからまた吸ってんの」
「普通逆だろバカだな」
「そうだね。バカだと思うわ」

今更影山への気持ちに気付いたところで、ここから先に道は続いていないし何も変わらない。それなら気付かない方がよかったじゃないか。

「彼女、どんな人?」
「結婚する」
「は?まじで言ってる?」
「おう」
「騙されてんじゃない?金目当てかもよ。年上でしょ?しかも、結構離れてんじゃないの?」
「何で年上ってわかんだ...お前占い師かなんかか?」
「はは、占い師ならよかったわ」
「でも大丈夫だ。俺は騙されてない」
「ハイハイ、騙されてる奴は大体そう言うんだよ」
「おい、煙こっちに吐くな。くせぇ」

彼女の匂いが鼻について吐きそうだった。少しでもかき消したくて思わず影山に私の匂いを上書きするかのようにタバコの煙を吹きかける。

「年上だけど、お前が言うような人じゃねぇ」
「ハイハイ。スポーツマンが電撃結婚電撃離婚なんて笑えないから」

はは、と乾いた笑いを溢しながら吸い殻を灰皿に入れると影山が何かを言いかけては口を閉ざした。

「何」
「お前のこと嫌いになりたくねぇから悪く言うのやめてくれ」
「...もう一本吸ってから戻るわ。先戻りなよ」

さっきより深くタバコを吸って吐き出し、胸の中の鬱々としたものも一緒に吐き出す。「またな」とその場を去ろうとする影山の背中へ煙をもう一度浴びせる。

「好きだったよ、多分」
「おう」
「お幸せに」
「お前も、幸せになれよ」

影山が立ち去った後、しばらく立てずにしゃがみ込んでいた。告白もちゃんと出来なければ、振っても貰えない自分の中途半端さがダサくて涙も出なかった。

後に影山が結婚報告をSNSでして、テレビで奥さんに愛のメッセージを送っていて。私の知っていた影山はどんどん小さくなって、消えた。さよなら私の初恋。




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -