幸せ、とは。 | ナノ


▼ 08

わたしは朝から子供のように「嫌だ行きたくない」とずっと駄々をこねている。大阪出張に来ている赤葦に会わなければならないし、木兎も同席するらしい。侑も一緒に来てくれるんだけど、正直行きたくない。

「俺と付き合ってるってぼっくんに言うのそんな嫌なん?」
「ねぇ。思ってもないこと言うのやめな?怒るよ」
「...すまん」
「にやけながら謝るな」
「痛っ!ちょ、痛いって!」

侑のにやけ面があまりにも腹立つので後ろから背中に噛み付くと、そのままソファに押し倒されて熱烈なキスをされる。

「あ、グロス」
「このまま行ったらええやん。なんも言わんでもわかるし一石二鳥やん」
「えー木兎アホだからなぁ」
「そうやった...」

2人の中で木兎の話は全然タブーでもなんでもないし、むしろ2人で木兎のプレーを褒めたりもする。もちろん、あまり言い過ぎると侑が拗ねるので引き際も肝心だけど。

侑と一緒に個室へ入ると、こんなに挙動不審な木兎を今まで見たことないってくらいそわそわしていて落ち着きがなくて笑ってしまいそうだった。赤葦が至極真面目な顔をしているので、つられて背筋がピンと伸びてしまう。

「苗字さん、お久しぶりです」
「久しぶり。赤葦忙しそうだね?」
「おかげさまで。今日もこっちで仕事なので手短に行きますね」
「あー、ウン。その話ならね、」

こほん、と咳払いをして侑とのことを告げようとすると横から侑がぐっとわたしを抱きしめて部屋でしたような熱烈なキスを送ってくる。わたしは突然のことで全く身構えておらず侑に好き勝手されて、固まってしまっていた。

「っ、な!」

木兎がガタンと椅子を倒して立ち上がり、その大きな音でわたしも正気に戻る。

「こういうことやから。ぼっくんありがとうな」
「え?!?!あれ?!?!俺のこと好きなんじゃ?!?!」
「アホか、女の気分は変わりやすいって言うやろ。もう名前は俺のもんやから」
「...苗字さん」
「ハイ」
「そういうことなら報連相してもらっていいですか?俺はてっきり木兎さんから慌てて連絡が来て最悪のことまで考えたって言うのに...」
「何?!最悪のことって...」
「木兎さんを殺してわたしも死ぬ!とかそういう事件になるかと思って」
「ならないよ!バカじゃないの?!」
「いやだって、相当拗らせてたじゃないですか。それなのにぽっと出の宮さんと付き合うなんて、想定外すぎます」

はぁ、とため息をつきながら眉間を抑える赤葦に申し訳ない気持ちでいっぱいになる。わたしが木兎をずっと好きでいることを、この子はちゃんと真剣に受け止めてくれていたんだなと今更知ってしまった。

「木兎、あのね」
「おう」
「ずっと好きだったのは本当。でも今思えば、ちゃんと恋愛で好きだったのかもうわかんない。今は、その、侑、が好きだから...」
「よかった!」
「だからまあこれからもみんなで仲良くしよ!」
「俺はずっとお前が幸せになれば良いのにって思ってたけど、俺が幸せにしてやりたいとかお前のこと抱きたいとか正直一回も思ったことねぇし」
「木兎さん、それは言わなくて良いです」
「バカじゃん!いいよ、続けて?」
「でもお前のこと人間として?すげーーーーーーー好きだから!ツムツムと幸せになってくれて!俺は!すげーーーーーー!嬉しい!」

そうだった、木兎はこういうやつだった。裏表がなくて、いつも明るくて。誰よりも人のことが好きで、自分のことも大好きで。周りからたくさん愛されて。だから、好きだったんだ。テーブルの下で侑がぎゅっとわたしの手を握ってくれる。

「ぼっくんの大切な友達は俺が責任持って幸せにしたるから、安心せぇ」
「おう!ツムツムありがとうな!」

こうしてわたしの長い長い、捩れまくった初恋は幕を閉じたのだった。

恥ずかしくてなかなか本人に直接言えないけど、侑がいてくれて本当に良かったし侑がわたしのことを好きになってくれてよかった。 

幸せとは、一言で言い表せるものじゃないけど一方通行じゃない思いがこんなに幸せな気持ちになれるものだって初めて気づけた。「幸せだよ」って言ったら侑は「当たり前やろ、俺がおんねんから」と太陽みたいな笑顔で言って、わたしを抱きしめた。

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