▼ 05
「わたしは、変わるのが怖い」
幸いにも店内はわたし達だけで、ぽつりぽつりと話し出していく。
「木兎のわたしを見る目が変わるのが、怖い」
「なんで?」
「、何でって...今まで友達だと思ってた女が実はあなたのこと好きでした〜とかホラーじゃん?」
「普通に嬉しいやろ。なぁ、サム?」
「俺は、まあ...気づいてやれへんかったこと後悔するやろな」
「木兎は多分だけど、もう今までみたいに接してくれないと思う。2人で飲みになんて絶対行けないし、酔っ払って肩組みながら歩いたり。夜中いきなり電話してきたかと思えば彼女の愚痴聞かされたり。それでもわたしは、よかったんだよ。わたしが、選んでそうしてたんだから。その全部をいきなり奪われて今までごめんなんて謝られたら、しんどい」
グラスに入ってるお酒をぐいっと飲み干す。
「もうすぐ9年だよ?」
「何がやねん」
「高1の時に木兎好きになって、いま24でしょ?もうすぐ10年になる。木兎を好きな自分が当たり前になりすぎて、好きじゃなくなったらわたしじゃなくなる気がして怖い。治さん、おかわり」
「はい、どうぞ」
「早く木兎が結婚でもしてくれたら諦めつくけど」
注がれたお酒に口をつけながら、遠い未来に想いを馳せる。木兎が結婚したら、わたしはきっと結婚式にも披露宴にも参列する。そして久しぶりに会った友達には「あ〜そんなこともあったね」なんて木兎を好きだったことを過去の話にするんだ。例え、過去になっていなかったとしても。
隣の侑があまりにも静かで、気になって視線を送ると目が合う。
「そんなん...!そんなん、あかんやろ!お前はいつ幸せになんねん!!!」
「何、いきなり」
「あのアホはこんなに好きでいてくれる子が近くにおんのに気づかんようなアホやで?!結婚なんか出来るわけないやろ!」
「...はは、それもそうか」
「笑い事ちゃうねん。さっさと告白して振られてこいや!俺が全力で受け止めたる!」
「簡単に言うなぁ」
「はよ腹括れや、どうせ振られんねやったら今日も明日も一年後も一緒やろ」
あまりにも侑の言い方が喧嘩腰で、お酒が入ってるからという言い訳を除いても腹が立って思わず言い返してしまう。
「だから何回も言ってんじゃん。木兎に好きだって言って気まずい思いしてもう会えなくなるくらいだったらこのままずっと告白せずに友達でいたいって!もうね、わたしの人生の中から木兎がいなくなる方が嫌なの!好きだから!わかる?!」
そこまでいっきに言い切ると、扉が開く音が聞こえ「やばい、お客さん来た」と深呼吸して気持ちを落ち着かせようとした。
が、扉の前で気まずそうに立ってる木兎を視界が捉えたら気持ちなんて落ち着くわけなくて。
(あ、終わった)