幸せ、とは。 | ナノ


▼ 03

あの日以降、付き合ってはないものの手を繋いでデートはするしたくさんキスをした。侑は思っていたより気分屋でムラっけはあるものの常に優しくてわたしなんかには勿体無い人だった。

「ツムお前、女できたやろ」
「あ〜、う〜ん?」
「なんやねんその煮え切らへん返事は」
「片思い、しとる」

そうサムに答えると、失礼やろってくらいに顔を歪めて「キモ!」とカウンターから告げてくる。いや俺やってこんな片思いする予定なかったし、もっと普通に付き合えるとおもてたんや。

「いや、その子好きなやつおってな」
「は?」
「俺が無理矢理、俺にしとけってキスした」
「お前それ犯罪やろ」
「いやでも、同意やったし嫌がってる感じもせんかってん」
「ほんなら何で付き合わへんの?」
「そこまでして付き合お言うて振られたら、俺立ち直れる気せん...」
「結局ヘタレなとこは治ってへんのかい」

間違いなく名前は俺のこと、そらちょっとはええと思ってくれてるから会ったりデートしたりしてくれてるんやろうけど。それでも、試合中に名前を見つけた時、ぼっくんへの熱い視線送ってる顔とか3人でたまに飲みに行く時の名前の気合の入れようとか。ぼっくんとおる時は、絶対何があっても返信くれへんし電話も出てくれんし。多分、ぼっくんには俺らのことひた隠しにされとる。

それでもええよ、って言い出したのは俺の方やけど正直キツい。名前が今までぼっくんのこと好きやのに彼女の相談とか、愚痴とか聞かされてたこと考えるとほんまに尊敬する。俺には無理や。

「苗字〜聞いて!俺さ!」

ああ、またか。そう思うと同時に木兎から「好きな人出来た!」と報告を受ける。いつもと何か違う違和感に首を傾げる。

「彼女、じゃなくて?」
「おう!もう3回振られてるけど、好きだ!」

そんな話は今まで一度も聞いたことがなく、正直かなり驚いた。いつもの流れだと、女の子の方からアプローチされ木兎が好きになって付き合う。このパターンしか聞いたことがない。だからこそ木兎はいつも長続きしないし、本気で誰かを好きになったようにも見えなかった。から、なんとかこの距離を保つことが出来ていたのに。

木兎と別れた後、わたしは無意識に侑に電話をかけていて「会いたい」と告げる。我ながら最低だと思うし、本来なら侑はわたしなんかの精神安定の為に使っていいような人間じゃない。それはわかっているんだけど、誰かに冷え切ったこの体を温めて欲しかった。

「名前から会いたいなんて、珍しいやん」
「まあね」
「なんかあったんか?」
「抱いて」

侑の部屋に入るや否やそう言い、わたしは最低な女になる。そうでもしなきゃ侑のことを好きになってしまいそうだった。

「それは、できひん」
「わたしのこと好きなんて嘘なんでしょ。好きだったら抱いてよ」

自分勝手で、最低なこと言ってる自覚はある。それでもこれ以上良い子でいるのが限界だった。もう、とっくに木兎のことは手に入らないって諦めてるはずだったのに。それでも木兎が本当に好きな人と出会った顔なんて、見たくなかった。侑は何も言わずにわたしの体を抱き寄せて子供のように泣きじゃくってるわたしの背中をトントンと叩いてくれて気づけばわたしは夢の中にいた。

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